107:切り通しの闘い(Cパート)
「なんつーか、あれってあれですよね」
「あれじゃ、分からん!」
内山は傍で誤差修正役をしていた中田伍長の言っている事がさっぱり分からない。
「あれですよ。ほら、あの土で作って呪文で動く」
「ああ、ゴーレムな」
中田の言葉に別の兵士が反応した。
ゴーレムとは、ユダヤ教徒の秘術によって生まれる土人形であり、その作製には様々に正式な手順が求められる。
作製手順を間違えると作製者を殺して土に還るという物騒な代物でもある。
「んじゃあ、額に文字でも書いてあるだろ。それでも狙うか?」
内山もゴーレムぐらいは知っている。
多くの例に漏れず彼も子供の頃はゲームに親しんでおり、ドラゴンは勿論グリフォンやキマイラ、メロウ(人魚)などにも詳しい。
彼が言っている『額の文字』
それは「emeth(エメス:真理)」という文字で、ヘブライ語では「אמת」と書く。
その文字の右端のnのような文字はアルファベットの「e」に当たる。
ヘブライ語は右から左に読み、挙げ句に母音を示す表記が殆どないため、言葉の割に文字数がやけに短くなる傾向が在る。
それは兎も角として、右端の文字を消すとどうなるか。
これで「meth(メス:死んだ)」となってゴーレムは土に還るという訳だ。
だが、近付いてくる『巨人』には、どう見ても文字が掘られている様子は無い。
彼らもシエネで食事や買い物をする事もあり、喋る事は兎も角、多少はフェリシア文字を覚えつつある。
文字らしき物が在れば直ぐに分かるはずだ。
特には見あたらないとスコープを覗く誰もが答えて、真面目な話、ややがっかりである。
実際、コブラが間に合うかどうかすらも分からない上に、間に合った処で無線が通じない以上は連携も難しいと来ている。
伝説の文字でも何でも、相手の弱点を知りたいのだ。
しかも、相手は土ではなくどうやら鉄のかたまりである。
登りきって暴れられたなら、歩兵中隊如きでは手も足も出まい。
じわじわと昇ってくる相手に時々、連射を加える。
多少の足止めにはなるが、基本全く話にならない。
戦闘の巨人との距離は遂に六百メートルとなった。
相手の位置は坂の登り口である。
“いける!”と相田は踏んで命令を下す。
「迫撃砲、距離六百!」
復唱が始まる。
「装填準備良し! 半装填良し!」
「対戦車迫撃砲弾が有れば、」と思うが、南部の魔獣を相手にする部隊でもない為、そのようなものは無い。
対人の面制圧兵器でどれだけ効果が出るか分からないが、やるしかないのだ。
「毎分二十発で砲撃始ぃ~め!」
『毎分二十発で、砲撃始ぃ~め!』
復唱と共に、次々と発射されていく砲弾。
射出速度が緩やかなため砲自体の発射音はバシュンっと云う程度の物であるが、耳栓は必要である。
また、坂の下はそれとは比べものにならぬ凄まじい轟音が響き渡る。
夜間であるため、砲弾の炎に照らされ『巨人』達の先頭は明るく照らされる。
爆圧に吹き飛ばされて膝を突く巨人が出た時、重機分隊からは大きな歓声が上がる。
だが、次の瞬間には何事もなかったかの如く立ち上がってくる。
悔しさに溜息を吐く物も居るが、轟音の中ではその溜息など吐いた当人にすら届いていない。
迫撃砲隊の後方を廻ってトレが戻って来た。
相田に耳を貸すようにジェスチャーで示す。
相田は、防音と指示用を兼ねたヘッドホンを外した。
「後方の巨人の動きに注目して下さい」
トレの言葉に首を傾げた相田だがスコープを覗き込む。
後方の巨人達は、胸元に抱え込むように巨大な大砲を持っている。
全部で十二体程であろうか。前方の八体が道を切り開く役目を担っているという事なのであろう。
だが、それはそれでおかしなことではない。
「すいません、ミスター・コリット。私にはよく分からないんですが?」
やや恥ずかしげに、相田は答えた。
それに対してトレは『本題に入る前に』と言って、
「此方こそ申し訳ないんですが、その『ミスター・コリット』っての止めて頂けると助かるんですが。どうも慣れなくて、」
そう言って笑う。
しかし、中隊長である中尉ですら一目置いている本部直属の連絡員なのだ。
此方の軍制に合わせた身分証を携帯しているが、実際はどれ程の大物か知れたものでは無い上に、よしんばそうでないにせよ彼には礼儀を尽くしたいと思う。
だが、トレはやはりトレである。
「“トレ”って呼び捨てで結構ですよ!
巧さんも何時もそうでしたが、別に人を下に見る人じゃありませんでした。
それが分かればいいじゃないですか」
巧、と云う人物が何者か知らないが、彼が目の前のフェリシア人と良い関係を築いていてくれて良かったと相田は思う。
それほどに、この人物は好感が持てるのだ。
「あ~、では、せめて『トレ少尉』では?」
「ま、そんなとこで今は良いでしょうかね。それより本題ですが、」
そう言ってトレが話す内容を踏まえて、相田が今度は前方の敵を観察すると確かに分かる事がある。
「ひとつはトレ少尉が準備を終えて下さった訳ですから私に拒否権はありませんし、兵も喜ぶでしょう。
だが、もうひとつは危険ですね。
あの巨砲の射程に入っているとしたら、その任務に就く六名が優先的に狙われる事になります……。いや、彼らは隠れる事も出来るが、あなたは?」
「しかし、試す価値は有ると思うんです。準備だけでもお願いします」
相田は頷くと、各分隊から選抜射手を集めるように指示を出して行く。
唯、やむを得ず許可したが、こう暗くては果たして効果があるものだろうかと思う。
距離は約六百から七百メートル。標的のサイズは……、約二センチ。
命中たるのであろうか?
しかも相手は鈍く緩やかにとは云え、動いているのだ。
その点を指摘すると、トレは相変わらずの口調で言った。
「あの時も、ぶっつけでしたが、巧さんは信じてくれました。
我々の仲間を助けるために全く迷わずに私に命を預けてくれたんです。
私ね。魔法って『信じてくれる人の想い』が強い程成功率が高い、と思うんですよ」
あなたはどうなのだ? と問われた事に相田は気付いた。
多分、自分の顔は今、恥ずかしさで真っ赤であろうと思う。
彼が『巧』という兵士に傾倒している理由の一端を垣間見たからだ。
自分は部下をこれ程信用しているだろうか?
部下は自分をどれ程信用してくれているだろうか?
そう思うと、山金のような男でも反面教師として価値があるものだと思った。
あれと比べられては堪らん、と思っている自分こそ自惚れているのだと自覚しなくてはなるまい。
それから、
「トレ少尉、あなたを信じます」
相田ははっきりと”そう”言い切った。
六名の兵士が集められる。選抜射手と観測手である。
「あのデカ物には数カ所に宝石のような物がある。分かるか?」
相田の言葉を受けて、兵士達はそれぞれにゴーグルを覗く。
目に当たる部分の他に胸元や腰回りに六~八個の宝石が見えるが、爆撃の光に反射して見える瞬間があるだけで、明確に捉えられている訳ではない。
「トレ少尉によると、あれが奴らの『目』であろうとのことだ」
一人が声を上げる。
「あ、あれを潰せと!」
彼が叫ぶのも無理はないだろう。
相手は動いている上に、的は僅か二センチにも満たないのだ。
「一体ずつトレ少尉が動きを止める。止まった順に潰していけ!」
それから一息吐いて、全員を見渡す。
「君たちは自由なポジションから伏せ撃ちだ。
だが、トレ少尉は少なくとも片膝を立てて正面から相手に半身を晒すんだぞ。
この意味が分かるな」
それを聞いて全員がギョッとした顔で、トレを見る。
だが、トレは平然とした物で、
「弓射兵が居る訳じゃありませんし、何より機銃分隊の皆さんも居ます。
気にしなさんな。もっと“やばかった”事があったんですよ」
そう言ってクスリと笑った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間を数時間戻して、昼過ぎに池間からマイクを渡されたヴェレーネと巧の会話に戻る。
広報ビラの印刷と配布は、駐屯地内の施設をフルに使って日の高いうちに完了させる事を約束したヴェレーネだったが、巧のもうひとつの依頼には首を縦に振るのが難しかった。
一人で決められる問題ではないのだ。
巧は、現時点に於いて切り通しが最も危険な箇所であると指摘してきた。
何故か。
まずは三十機のヘリ部隊の殆どが南部に移動してしまい、航空戦力のパトロール能力の低下が大きい。
現在、トガを含めてシエネから北には六機しかAH-2Sは存在しないのだ。
勿論、F-3Dも六機は存在する。
だが、両方ともあのスクロースにはどれだけ手が出るか怪しい。
航空機の弱点、それは細かいゴミである。
特にヘリは弱い。
A-10という近接支援爆撃《close are support》機は実は一九九三年にはその使命を終え、全て退役する予定であった。
しかし一九九一年の湾岸戦争が全てを変えた。
低空で飛ぶ最新鋭百四十億円のF16が歩兵の携行ミサイルにバタバタと落とされるのを尻目に、僅か六億円のA-10は生き残った。
また、本来対戦車を想定していた64Dアパッチロングボウ(AH-2Sの前身)は、その砂漠の砂にやられ作戦の三分の二に於いては発進する事すら出来なかった。
(八百両以上の戦車を破壊しているが、その殆どが廃棄された物という説もある)
挙げ句、ひとつの作戦で三十機中二九機が撃墜されるという不名誉な記録まであるのだ。
本来、低空戦闘(匍匐飛行)がメインの戦闘ヘリは実は何処まで使えるのかよく分かっていない。
巧が、要塞や竜に対抗させようとはしても歩兵に対抗させようと提案しないのはこれがあるためなのだ。
魔法の火炎とて何処まで飛ぶか知れたものでは無い。
その様にランチャー的な能力で吸気口にスクロースを投げ込まれたならばどうなる?
待ち伏せでもされたら?
山岳地に潜まれたなら?
そのような不安がつきまとうのだ。
全く持って細かい粒子を持ってエンジンを詰まらせる『粉』というのは固定翼、回転翼に限らず凄まじい敵なのである。
では、A-10ならばこの事態を打開できるのか?
残念だが、これもやはり無理である。
A-10は生存性が高く、整備も容易い機体だ。
だが機体の生存性と機動性は違う。
レシプロ機並みに低速性に優れる機体ではあるが、山際に平行に飛んで気流に左右されずに安定して攻撃可能かどうか、と言えば今度はAH-2Sの方に軍配が上がるであろう。
と言うよりも、A-10だろうが、F-3Dであろうが固定翼機は山岳地歩兵への支援攻撃自体がまず不可能だ。
何よりA-10は『フレンドリーキラー』の別名がある程、味方も殺している。
敵味方の距離が近く、狭い隘路部ではA-10の三十ミリ・アヴェンジャーは破壊力が有りすぎる。
その上スクロースそのものの可燃性である。
あの街道は狭く風通しが悪い。
スクロースをどの様にかしてばらまかれた場合、どうなるか。
粉の逃げ場はない。粉塵爆発の条件は揃っている。
火器など絶対に使用できる訳がないのだ。
巧はそれらの条件を総合して、
『あの地点で国防軍兵士の側が役立たずの足手まといになる可能性は高い』と進言した。
ではどうするか?
フェリシア歩兵、或いは魔法兵でも『風』か『水』に長じた人物を送って欲しいというのが巧の希望であったのだが、現在『風』の魔法士・魔術師はシエネ市、城壁の防衛に廻されている。
正しくは、訓練中である。
そして『水』であるが、これが問題であった。
フェリシア中央から東に大量の巨大なスラッグ(なめくじ)が現れ、田畑を荒らし始めたのである。
水系統の魔法士・魔術師達はこのスラッグ処理に追われている。
スラッグの発生地域で水分を抜いて、スラッグを干からびさせる事を急がなくてはならない。
このままでは、どれだけ卵を産まれるか分かったものでは無いのだ。
最低限残った水系統の魔術師をシエネから動かす訳にはいかない。
これも、火薬やスクロース対策である。
はっきり言って現在、首都セントレアですら丸裸であり、余分な戦闘魔術師など何処にも居ない。
これがヴェレーネの返答であった。
南部の魔獣は陸空の機動部隊と共にアルスとマーシアで押さえている。
ヴェレーネも単体でドラゴン、ハティウルフ、ヘルムボア、アクリスと四十以上の大物を片付けた。
だが、計算上で大型魔獣は未だ百五十体は間違い無く存在している。
小型の物も大型化してきている以上、先に四百と言った以上の数が存在するかも知れないと、警戒しなくてはならない。
いよいよとなった現在、動かせるのはマーシアだけなのである。
アイアロスがシエネに居る以上、ゴースの副司令であるアルスは動けない。
しかも、あのダミアン・ブルダが規律粛正と称して、兵士に休みを与えない傾向が在る。
ゴースの兵士はいっぱい一杯であり、よく頑張っている。
しかし若いダミアンには30才を過ぎた人間の体力の衰えや、それをカバーするための上手な気の抜き方というものが全く理解できないのだ。
誰でも十代の体力の侭に動ける訳ではないというのに。
これがアルスにシエネへの移動を許さない足かせとなっていた。
「マーシアをシエネに呼びますの?」
ヴェレーネはそう言う。
だが、それは「マーシアに“人を殺せ”と命じるか?」と言う意味である。
巧の息が詰まる言葉だ。
『山岳民救出作戦』以来、マーシアに人殺しはさせていない。
このまま続いて欲しい。
何より、今南部には杏が居ると云うのだ。
そして、ヴェレーネから杏とマーシアの衝突についても話を聞く事になった。
こうなった以上は杏を地球に返してしまっても良い。
坂崎の戯言など無視して、尻を蹴り上げればいいのだ。
だが、帰還命令が出れば勘の良い杏の事である。
必ずその意味に気付くで有ろうと巧にも予測が付いた。
“何故この時期に来たのだ!”と言いたかったが、女王と下瀬の会談と、現在のロケットの打ち上げについての話を知っている巧としては、今や言葉もない。
「気球ですが、」
やっと出た声は、区切るように弱々しい。
「なに……?」
ヴェレーネまでも巧に合わせる様な声だ。
「今後、F-3で対応できますかね?」
「もう、あんな事は起きないと思うわ。
パイロット達にも軸線を流して撃つように五十嵐少佐が指導したそうだから」
「出来るだけシナンガル上空で撃墜すると云う事は?」
「それも認めたわ」
「AS隊は?」
「一時的にならともかく、常時あの隘路に置けると思う?」
「です、ね……」
「それにね。やはり、山脈越えをするかも知れない竜は怖いわ。
攻撃ヘリの殆どが南部にいる今、彼らのビームガンはそれなりに頼りよ」
「無いよりマシですか?」
「使い処の問題なのよ、分かるでしょ」
「あっ! じゃあ、カレシュ、彼女はどうかな?」
巧は我ながら名案だと思った。ランセなら機動力も戦闘力も問題無い。
だが、ヴェレーネの返答は静かながらも、巧には強烈な一撃を与えた。
「カレシュ、ね……。彼女、多分駄目よ」
「何故?」
「彼女、あの辺りにはトラウマがあるわ」
「あっ!」
早贄……。それが思い出される。
「ランセが無意識に彼女に同調しているんでしょうね。
あの辺りへは飛びたがらないの。
何より近頃は時々だけど、彼、カレシュの目を盗んで南へ飛ぶわ。
あの遭難以来、何か変わりつつあるのよ」
こうなると、返す言葉もない。
だが、危機は危機なのだ。話を続けた。
「あの街道が取られた場合のダメージは、直ぐにではありませんが、じわじわと効いてきますよ」
「うん。分かるわ……。あっ!」
いきなりヴェレーネが叫んだ。
「どうしました大佐?」
「ひとり居たわ! 丁度、手が空いてて能力的にもバランスが良い奴!」
「誰ですか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「つー、訳でして、白羽の矢ですよ」
トレはそう言って笑う。
トレはスクロース対策に防火ポンチョや、塹壕に被せるためのシートも輜重兵と共に大量に持ち込んでいる。
勿論、防塵対策の面体もである。
「それにね。丁度っちゃあなんですが、此処にも医療以外に水系統の魔術師は居ます。
私の固定化魔法に合わせて彼らが、あのデカ物の関節を凍らせれば少しは動かなくなるんじゃないんですか?」
トレのその言葉を聴いて相田は首を傾げる。
「水の魔法があるなら、スクロースも固定化できるのでは?」
「そう言いたい処なんですが、」
そう言って相田の耳に何らかを囁くと、相田は目を見開いた。
「魔法って!……、」
「ええ、私も巧さんの疑問からようやく気付いたんですが、使い処を間違えるとやばいんですよ。
“水魔法だから必ず火を消せる”とか、そう単純じゃないんです……」
二人の会話の意味はいずれ知る事になるとして、無線は最北から十キロ南下してならば、ようやく通じるようになった。
ルナールの能力は実は増大しているのかも知れない。
まるでトレの言葉である『信じる人がいる事によって魔力は強くなる』を実証するかの様だ。
「後ですね!」
先程、魔法について相田に説明を入れた際の潜む様な声から一転してトレが少しだけだが、笑顔を見せて周囲にも聞こえるように声を高めた。
「何でしょう?」
「昔の仲間がこちらに向かってます。『跳べない』連中なんで時間は掛かりますが、二時間踏ん張れば、RPG-7とパンツァー・ファウストⅣが来ますよ」
これには、相田のみならず周りで聞いていた兵士達も一気に盛り上がった。
対戦車兵器が援護に来るというのだ。これ程喜ばしい事はないではないか。
全体に『うぉ~!』と声が上がる。
周りは賑やかになってきたが、その叫びや盛り上がる兵士の声を聞いて今度は逆にトレは声を潜める。
「相田少尉……」
「分かってます。使えないかも知れない。そう云う事ですね」
「すいません。ぬか喜びさせるような事言って……」
相田は首を横に振る。
「耐熱ポンチョが配られた時点で、みんな気付いてますよ。
それに、必ず“スクロース”が来ると決まった訳でもありません。
なにより兵には希望が必要です。助かりましたよ」
トレは頷いて大きく息を吐く。
「それにしても、今までフェリシアを守った『切り通し』が俺たちを此処までピンチに押し込むとはね」
それから、周りを見渡す。
相田も同じように見渡して選抜射手が配置に就いた所で、手を挙げた。
向こうもそれぞれに手を挙げて配置完了のサインを出す。
それを確認したトレは、いつもの調子に戻った。
「じゃ、行きますか。皆さんお願いしますよ」
重機関銃分隊の面々にそう言って魔術師達を配置に就かせると、自らも坂の上に身を晒す。
「機関銃分隊!」
相田の叫び声に、その方向を見た内山。ふたりの視線が重なる。
“彼を殺すなよ”
“任せて下さい!”
無言の会話は、頷きだけで其の場に居る全ての兵士に伝わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
深夜一時四十分 インタカレニア半島南部四十キロ地点。
輸送艦ブリッジ
「大佐、今何って言った?」
『聞いての通りよ。敵は全高約八メートル、二十体の『鉄巨人』でライン切り通しに進行中。
現在、相沢少佐麾下のAS隊四機が四時間以内の位置にいるわ 全機急行中よ』
「俺を迎えに来てくれ!」
前後を考えず、焦る巧の声にヴェレーネの怒りが凄まじい勢いで帰ってきた。
『馬鹿言わないで! あなた今乗船中の六十五名の部下を放ってどうするつもり』
「あんたなら出来るだろ。俺にトレを見捨てろ、ってのか?」
『正面の麻畑も警戒中よ。あなたの気分で軍を動かせると思ってるの?
それとも一人で戦争してるつもり? 味方を信用しないその傲慢さには反吐が出るわ!
あなたの仕事は、北の海岸線の防衛よ!
私だって万一の際には北にも跳ばなくっちゃならないかも知れないこの時に、いざ魔力切れは御免なのよ!」
一気にまくし立てたヴェレーネだが、それから少し間があって続ける。
「それに、……暴走もね……」
その一言に巧はようやく“はっ!”とさせられる。
そうだ、アルスも言っていたではないか、魔法は万能ではないのだ、と。
それを思い知らされる言葉に打ちのめされた。
何より『味方を信用しないのか』と言う彼女の言葉は効きすぎる程に効いた。
だが、その中でも巧は何かを考えつかなくてはならない気がする。
嫌な予感が収まらないのだ。
何か可能な事、いやこの事態を打開できる『札』が有る筈だと、彼は考え続けた。
処で、皆さん「トレ」を覚えて居ますかね?
それだけが心配です。




