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星を追う者たち  作者: 矢口
第七章 愛に生まれ、殺戮に育つのは『世界』
101/222

100:フェリシアの皆さん、あなた方に神のお恵みを!

 四月五日:フェリシア


 南部、ゴースに於いてロケット発射台(ガントリー)の組上げが進んでいる。

 大型の車両から直接発車も可能なゼータⅠではあるが、今回は最低高度真円軌道に乗せる為、かなり本格的な物になった。

 何より、時間を掛けて大掛かりに事を進め、シナンガルのスパイの注目を集める事が最大の目的である。

 厳重に警戒しているかの様に見せつつ実際の警備はザルにする為には、資材の搬入が頻繁(ひんぱん)でなくてはならない。

 勿論、実機の発射に問題が有っては困るので其処の警備は事実厳重ではあるが、少しの隙間が大事なのだ。


 そうやってこそスパイも入り込みやすくなると云うものである。

 

 坂崎は、組み上げ進行の写真をこまめに撮り、其れを手持ちの金庫に詰め込んでいく。

 一応に厳重には扱うが一瞬の隙を作る事を忘れない。

 癖のように見せていく。

 最終的には、この写真の束をスパイに持ち去って貰いたい。


 また、ゴースの街の学校。

 そう、今や村から町と呼べる規模になってしまったこの地で、基礎教育学校エレメンタリ・スクールの子供達を集めロケットについての説明会まで開いた。

“大地が丸い”と云う事を信じさせる事に骨を折り、最後は月に行く船を造っていると宣伝する。


 それらの全てを市ノ瀬と杏は取材し、ヴァーチャルな世界の子供達が天動説から地動説へ思考を転換して驚愕(きょうがく)と感動に浸る瞬間をVTRに収めていった。

 また人間の姿のみならず、狼や狐、虎、猫などに当たる獣人(サブ・スピシーズ)の子供達が宇宙に憧れる姿は、次回のウェブ配信の目玉になるであろうと二人とも(ほが)らかな表情を見せながらの取材が進められていく。


 結局、データの配送は係員に任せて、打ち上げまでこの地に残る事に彼女らは決めた。


 理由は二つある。

 一つは、行き来が激しくなり政府からの要請が多くなる事や諸外国の諜報活動のターゲットになる事を恐れた。

 そしてもうひとつであるが、(これ)は杏にとっては頭の痛い理由であった。


 坂崎が杏の見ている前でないと仕事をしたくない、と駄々をこね始めたのだ。


「打ち所が悪かったのか?」

 池間は真面目な顔で心配したが、ヴェレーネは

「あいつは元々、ああなのよ。方向性が今まで女性に向かった事がなかっただけ!」

 と、ばっさりである。


 とは云え、打ち上げのチーフの士気に関わる問題である。

 投げやりな言葉の侭に放置する訳にも行かない。


 本来ならば、ゼータⅠというロケットは残りの五人の技術者のうち誰か一人ででも打ち上げは可能なものだ。

 だが、其れはあくまで“地球”での話である。

 重力加速度の違うカグラに於いて、高々五名の技術者で一から計算を開始した場合、コンピュータの補助を入れて軌道計算はできても、最後の最後の条件。

 つまり、太陽風や気象条件、湿度から来る燃料の燃焼速度などを見極める『職人の技術』にどうしても届かない。

 悔しいが、この“大馬鹿大将軍、坂崎昇”にへそを曲げられる訳には行かないのである。


 そのような訳で、杏は旅団司令部直々の依頼と云う事で、坂崎と行動を共にする事になってしまった訳だ。

 護衛の二人、エルトとシガールは『坂崎の護衛』と言うより、『坂崎“から”の護衛』にジョブチェンジした感があり苦笑いが続いていたが、打ち上げの準備は(おおむ)ね順調であった。

 また、市ノ瀬も実のところ坂崎に悪い感情は抱いて()らず、杏に対する坂崎の素直な感情の発露を好ましく思っていた。

 いや、杏の幸せを考えて、隙あらば“彼に協力しても良い”とすら思っているのだ。


 様々な人々の思いが交差する赤道と国境に近い街『ゴース』


此処(ここ)は第一回目のロケットの打ち上げに最適である。

 カグラの自転スピードを借りて、ロケット自体の打ち上げが容易(たやす)くなる。

 そして何よりも発射により、『事実としてのロケットの存在』をシナンガルにアピール出来る事が確実な場所だ。


 そう、上昇して行くロケットはシナンガルからもよく見える位置でなくてはならない。


 準備は進むが、それこそ時間との勝負である。


 四月は()うに(まわ)った。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 坂崎と入れ替わるようにゴースの南部戦線から、逆にシエネに呼び出されていた男も居る。


 アイアロスである。


 ヴェレーネ直々の指名により、ある種の魔法に()けた魔術師達がアイアロスの指揮の(もと)、各所に配置されていたが、シエネの市街地を守るか砲兵隊を守るかで揉めに揉めまくっている。

 魔術師の数が足りないのだ。


 今回アイアロスが指揮する魔術は、そう難しい魔術ではない。

 その為、ヴェレーネもアイアロスも大きな問題は無かろうと見ていたが思いの外に人手が必要になった。


 必要な魔法は『風魔法』

 炎の魔法と並んでポピュラーな部類であるが、今回の使用法はいつもと大きく違うのである。

 巧から、その魔法の必要性について連絡があった半月前からレクチャーは繰り返していたが、魔法は一旦馴染んだ方法以外では使い変えが難しい。


 大抵の魔術師は風斬(ふうざん)、即ちウィンド・カッターや風を巻き上げ身に(まと)う方法には慣れていたが、自分を中心に空気をはじき飛ばす方法など、学んだ事は無かった。

 空気をはじき飛ばすという事は、一つ間違えれば自分が『酸欠』に陥るか、急激な気圧変化で出来た大気の隙間に触れてしまい、自身がウィンド・カッターの的になりかねない。


 必要性のあると考えられる魔法の使用法ではなかった。

 しかし池間から直接、必要性について説明を受けると魔術師の誰もが事の重要性を悟り、身震いする者まで現れ始める。


 出来得る限り早く其れを身に付けて欲しいとの命を受けた六百名近い魔術師達はアイアロスの指導の下その習得に励むが、結局は半数も間に合わずシナンガルの手口を予想していたからこそ魔術師達は苦戦を強いられる()めになる。


 自身を傷つけても使って良いと考える者すら出かねない状況では在ったが、アイアロスは敢えてその点を禁じなかった。

 失敗した結果、術者がどうなるか知って居るにも関わらず……。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 翌四月六日


 対岸の麻畑に於いて麻の収穫が始まった。北側から少しずつ収穫されていく。

 麻は根っ子から簡単に抜く事が出来る為、その部分が見晴らしが良くなったのは有り難いが、実は此は痛い行為である。


“麻畑は『民生品』農園である”と沈黙の内に宣言されたような物だからだ。


 明日以降収穫が止まるにせよ、余程の理由がなければ麻畑自体への砲撃が難しくなった。

 フェリシアは、この世界に於いては珍しい程に、軍人と民間人の区別を付けたがる国家なのだ。

 女王によって命じられた過去の慣習からすれば、麻畑への迂闊(うかつ)な攻撃は難しい。

 明確に麻畑が敵対行為の中核だという証拠が無くてはならなくなった。

 

 池間はヴェレーネやバルテンとも協議したがやはり先制攻撃は『不可』である。


「あの中から、兵器が現れた場合どうなる?」

 池間がバルテンに対して発した問いは、全面砲撃を認めろと云う意味だ。

 だが、バルテンの答えは(しぶ)い。

「その地点への局地的な攻撃は認められますな」


「馬鹿げていますね。千名単位に分散された兵力なら二千ヘクタール(約四,四キロ平方)の範囲内を移動されれば逃げ切る事も可能ですよ。

 塹壕でも掘られていれば、敵方には被害など微塵もないでしょう」

 池間は怒鳴りはしない。

 バルテンの言葉は予想されていた答えであったからだ。

 だが、問題なのだと云う事は明確にする為に不快感は演出する。


 実際、塹壕などという概念がこの世界の戦場に在るかどうかは不明だが、塹壕は意外に頑丈である。

 そのような所に敵兵士に潜られた場合、一人殺すのに二百五十キロ爆弾が二~三発は必要になるのだ。


 此は冗談ではない。

 事実ベトナム戦争で米軍が一人の敵兵を殺すのに使った弾薬は小銃弾に換算して二万二千発を超えている。

 平野部を戦場とする事の多かった先の大戦ですら、一人に対して一万七千発の消費量であった。


 塹壕に(こも)もられた場合、如何(いか)に爆撃を繰り返しても、自然の地盤という物はそうそうに(くず)れるものでは無い。

 上に逃げる爆圧は兵士に対して殆ど損害を与えないのだ。

 地球では全ての国の兵士が携帯式のスコップを標準装備しており、負け戦の中で仮に銃とスコップどちらかを捨てろと言われたならば、大抵の兵士は迷わず銃を捨てるだろう。

 全く持って、しっかりと掘られた塹壕ほど砲兵にとって厄介な相手はない。


 近代兵器の能力や弱点に付いての知識や、実感の把握を求めても仕方ないのだが、バルテンの冷静な返答は池間にとってはやはり溝を感じざるを得ない物であった。


 実際にバルテンの返答はその溝を更に如実(にょじつ)に表す。

「あの畑は民需品であり、軍事行動は其の場で偶々(たまたま)、行われるに過ぎないと王宮は判断するでしょう。

 事実は問題ではなく“そう判断しなくてはいけない”と云う事なのです」



 結局バルテンは、池間が腹を立てるのは分かるが『どうしようもないのだ、納得してくれ』と(なだ)めるだけになっているのだ。

 フェリシアにはフェリシアのルールがあるが、その妥協点を探る話し合いだ。

 池間は無礼にならぬ範囲ではあるが、遠慮はしない事にした。


「女王はシナンガルの侵攻を止める為に我々を“わざわざ”とこの世界に引き込んだのですよね?」

「そう言われると返す言葉もないが、『国是(こくぜ)』という物を考えて頂きたい」

「……」

 “言葉もない”と言う割に、しっかりと返って来たバルテンの言葉にこそ、池間は返す言葉が無くなった。


 高々三十年前まで彼らの母国も国是処か“憲法”として、専守防衛、いや領海或いは恐ろしい事に領空内すら他国の航空機に押さえられたとしても、そうそうに手が出せなかった時期が八十年以上続いて居た。

 それでも防衛が成立していたのは、母国の後方に同盟国である米国の影が見え隠れしていたからに過ぎない。


 フェリシアにはフェリシアの事情がある。

 それを振り返れば、またも納得せざるを得なかったが池間も打てるだけの手は打つ。

 ヴェレーネを通じて女王に

『もう少しばかり、フリーハンドを頂きたい』と伝える事になった。


 あの収穫は、攻撃準備で有る事は明確なのだ。

 残された時間はあまりない、と考えて良いだろう。


 

     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 バルテンが池間に頭を下げまくっている頃、巧達を乗せた『輸送艦』はようやっとポルトに辿り着いていた。

 とは云え、接岸できる埠頭もなく、何より今の処はあの巨大な艦を人目に(さら)す訳にも行かない。

 その為、沖の無人島に投錨して連絡艇(ランチ)での上陸を果たした処である。

 オールもない船がかなりの速度で進んでいく様を見て、すれ違う船はかなり強力な魔術師の操る魔導船だと判断してくれた様であり、差程に混乱はなかった。


 輸送艦にはコペルが残り、『ごゆっくりどうぞ』と派遣分隊とオベルンを送り出す。


 漁船にでも見つからないか心配ではあるが、コペルならその点も上手くこなしてくれるであろう。


 あの速度を誇る輸送艦を持ってしてもポルカまで七日の日数を掛けたのは時間的に痛かったが、彼らが此処に辿り着くのに、これだけ時間を費やしたのには当然ながら訳がある。

 本来ならば出没しない筈の魔獣が現れその対応に苦慮する事になったのだ。

 また、ヴェレーネからも実験的にではあるが最低一度の闘いを命じられていた事も大きい。

 しかし『それ』に対峙して殉職者も怪我人も出なかったのは幸いだったとしか言いようが無かった。


「海中の魔獣というものは余り大きな脅威ではない。

 また、海峡に於いてはコウモリが巨大化した魔獣や、ゴブリンの襲撃は過去にはあった。

 しかしドラゴンともなると遠目にすら見た事もなかったんだがね」

 オベルンはコーヒーを飲み干すと、思い出したように巧に言葉を掛けてきた。



 ポルカの中央埠頭海運事務所。

 建物の半分を海に浸し、バルコニーは海に触れる事すら可能な程に半ば海中に建てられた建物と言って良い。

 その中でも最も(こしら)えの良い一室を借り切った一同はようやく一息吐いていたが、シエネからの連絡に少々時間を持て余して居るのも事実であり、彼は話題が欲しかったのであろう。


「そうは言っても出たものは出たんですから、しょうがないですね」

 巧がそう返すと、オベルンは首を横に振る。


「あの(ふね)だから、出たのかも知れんな……」

「どういう意味ですか?」

 巧の問いに、右頬を人差し指で軽く掻く彼の姿は“奥歯に物が挟まった物言い”という言葉がしっくり来る。

「いや、すまん。確信があって言った訳じゃないんだ。

 唯、な。 何というか、(ふね)と言うより……」

 そこまで言うとオベルンは、

「やっぱり、もう少し考えてから話させて貰うよ」と言った切り黙り込んでしまった。



 海峡における、魔獣の非生息域に全く魔獣が居ない訳では無い。

 しかし先にヴェレーネが語った処に依れば、其処に魔獣が長時間居続ける事は難しいのだという。

 それで、偶々通りかかった魔獣と偶々通りかかった船との遭遇戦になるだけだというのだ。


 よく知られている魔獣は2種類。

 コウモリが大型化し、毛むくじゃらの足まで生えた魔獣を『インプ』と言う。

 もう一体の『ゴブリン』は、チンパンジーが限りなく人化したような存在らしいが、其れなりの知能があるのか、道具を使いこなし丸木船まで造り上げて狭い海峡部を通る事があるという。

 両方とも、船乗りの記録によく現れる魔獣である。


 唯、インディファティガブルは船足の速さもあってゴブリンなど、オベルンですら一度しか目にしては居ない。

 海峡で船足を(ゆる)めた際に遭遇し矢を討ってきた為、インディの砲撃一発で丸木船を沈めたそうだが『それ以外に見た事はない』と言う。


 フェリシアの人間に聞いた処、海軍と海運商船に関わる人間の間では両方とも、まずまずには知れ渡った存在では在ったようだ。

 フェリシア海軍はノーゾド・ガーインとの交易や援助の為、年に十数回の海峡の通行を行う。

 その際、インプ、ゴブリンに何度も遭遇して居ると聞いた。

 他にも海中の魔物も存在し、船を沈められた例も僅かながらあると言うが、此は見た物もその姿を明確には知らない。

 話からは小型の鯨の様にも感じられたが、其れ以上の情報は得られていない。

 船を襲いはするが、人を襲ったという記録が(ほとん)ど無いのである。

 大型化したヘルムボアが泳いで海峡を渡る際に船に衝突しているのかも知れない。

 それならば、あちらも人に構うどころではあるまいと理解できる。


 ゴブリンについてはオベルンの証言通りで丸木船しか使えない以上、彼らの出没海域で船を止めない限り乗り込まれる恐れもない、と気にした様子もない。

 だが『インプにはかなり殺されているよ』と、鋭い牙と爪に翼を備え持つ魔獣を恐れる傾向にあった。


 危険な海域ではある。

 だが、ノーゾドにせよガーインにせよ、相手も命がけで海峡を渡ってフェリシアに陳情に訪れる以上は、『多少なりとも危険が存在するから援助を切る』という訳にも行かない。

 当然の事として海軍としては、船を出し続けていた。


 処が昨年からの魔獣の北上である。

 特にドラゴンとなると話は全く別である。

 昨年からノーゾド・ガーイン両半島との交流は相当に少なくなった。

『竜』が北上している以上、海峡を渡る竜に『たまたま』にでもぶつかった場合、フェリシアで最大の船であろうとも一溜(ひとたま)りも無い事は誰にでも分かる。


 フェリシア海軍は命がけの行動は取る。

 だが命を捨てる事が分かっていて船を出す事とは違う。余程のタイミングでなくては船を出せなかった。

 先だってノーゾドの使者が訪れて以来、ラボリアから西に船は出ていない。


 だが、今後はガーインへの援助は空路になる。

 これによってフェリシア海軍は一息()く事になった。

 確かに交易船の中では今の処、竜に襲われた船はないという事だったが空路の開設はルースの反乱だけの問題ではなく、多くの人々の命を救う大きな事業でもあったのだ。

 巧達の昇進の理由が今更ながらにクローズアップされる局面でもあった。


 それはひとまず置いて繰り返すが、南部戦線が敷かれて以来の九ヶ月、『竜』に襲われた船はない。

 だが巧達の船は襲われた。


 それも……、五度に渡ってである。


「確かに、こうして話を聞くとおかしい」

 巧の呟きに、山崎も頷く。

「こう言っては何ですが、我々の船に比べフェリシア海軍の船は木造で小さい。

 竜が襲いやすいとすれば彼方(かれら)の方の筈です。道理が合いません」


 巧達が借り受けた部屋は、所謂高級待合室(VIPルーム)であり、室内は広く、ソファは多い。


 中央のテーブル周りは勿論の事、窓際にもサイドチェストソファが幾つも設えてあり、地球に当てはめるなら、空港のVIPルームに比して遜色はない。

 空調すら魔法力を駆使して維持されており、暖かい紅茶やコーヒー、加えて銀製のケーキスタンドには可愛らしい人形にも形容されるようなティーフーズまで添えられている。


 リラックスした銘々(めいめい)は思い思いの席に陣取り、カップを片手に船が襲われた際の事を思い出していた。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 最初に襲われたのは、海峡に入った初日。三月の二九日の事であった。


 輸送艦の乗員は分隊員六名にコペルとオベルンを含めた八名のみである。

 アンテナ設置に付いてきてくれた三名は山代少尉が護衛する航空機動化歩兵小隊に帰還し、ガーインの無線拠点を『虫』から守る事になる。

 その際、近隣の村もついでに守る事になるであろうが、あくまでついでであり、彼らにとっては殊更に感謝を求める事ではないだろうが、それはそれで良い事だと手を振って、彼らと別れたのが二八日の事であった。


 海峡に入るまで輸送艦は最大速力で飛んだ。

 高度は二百フィート(約六十メートル)、平均巡航速度は二百ノット(時速、約三百七十キロ)である。


 操縦は直ぐに全員が呑み込んでしまった。

 問題はブレーキだけである。

 巨体である為、速度によっては逆噴射を掛けてから船が止まるまで数キロは進む事になる。

 その点は気を付けなくてはならなかったが、兎も角、集中制御された船体の操作は自動車の運転程に気楽な物であった。


 最も多く舵を握ったのはオベルンであり、最も舵を握る事の無かったのは巧である。

 シエネとの通信や戦闘指揮でそれどころではなかったのだ。


 海峡に入るのは深夜になる。

 かなり早い時間から速度を抑え、岩礁や浅瀬について確認を取りつつ進んでいった。


 そうして緊張しつつも緩やかに海峡に入って僅か四十分後、いきなりドラゴンに襲われる羽目になる。

 海峡は未だ広く、直線にして二百キロ程は海路が開いていた為、全速で逃げ出す羽目になった。

 あっさりと振り切る事が出来たが、速度を落とすにつれ巧は、オーファンの搭乗準備を進めていく。

 速度を落とした処を襲われた時、武装がなければお終いである。


 オベルンが舵を取りたがったが連携の関係で其処は断り、山崎が舵を取る。

 桜田がレーダー手、岡崎が艦対空ミサイル及び小口径自動対空砲の操作を行う。


 ラインメタル社製のL14、十インチ二連主砲には石岡が付いたが、此処が厄介な場所であった。

 艦の上部甲板の中央に対空主砲を置きたかったのだが、武装を行うにせよ『中央センサーを塞がないように』とコペルから強く念を押されていた為、艦のやや左よりに設置された対空砲は、唯でさえバランスの問題から不安定な代物であり、山崎の艦操作と連携しなければ発射した瞬間に艦が進路を崩しかねない厄介者であった。

 結局、石岡は艦と別れるまで、この二連主砲の扱いに苦労する事になる。


 最後に変わった所では、艦の後方だ。

 垂直尾翼の上方は鐘楼(しょうろう)になっており、まるで潜水艦の浮上艦橋である。

 桐野は其処にOSVを据え付け、対ショック用に“アラミド防護服”を身に纏っている。

『最初っからこうしてれば良かった!』などと暢気な物であるが、結局分隊員の中では彼女が竜やインプなどの魔獣に最も多く生身を晒す事になった。

 ワームに震えた同じ人物とは思えぬ程の肝の据わりようであり、その後何度かの危機を迎えるが、やはり彼女がその持ち場を離れる事は最後まで無かった。



 誰もが、何故かその時を知っているかのように待ち構えていたのはなぜであろうか。

『勘』としか言いようが無いが、戦場ではそのような不思議な事も自然な現象の内なのであろう。

 時間としては最初の襲撃から一時間は経っていなかった。

 海峡が狭まり遂に艦がその速度を二十ノット(時速、約三十キロ)以下に落とさざるを得なくなった。

 場所は海峡の西側狭隘(きょうあい)部入り口。 

 襲いかかってきたのは四頭の竜。



「九時方向、大型飛来物四! 距離約八十キロ、高度(およ)そ五百メートル! 速度約……、約四百四十キロ、です!」

 深夜一時二十七分、桜田の声が艦橋とインカムに響き渡った。





サブタイトルはカート・ヴォネガットの「ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを!」を弄らせて頂きました。

内容を知らない上に、イメージだけでタイトルを決めるという暴挙ですが見逃して下さると嬉しいな、と。


それは兎も角、沢山の方が読んで下さって居る事に感謝します。

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