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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第3章「魔ノ山」(シーズン壱)
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第8話「夕暮れ時に、あの場所で」〈4〉

「藤原って・・・あの藤原!?」

「ああそうだよ。L.O.C.K.の藤原さんだよ」


 彼女曰く特務機関L.O.C.K.の藤原によりライの怪しげな研究所から助け出されたという。

 研究所で明日、処分されると知った彼女は与えられた自室の夜ベッドにて泣いていた。その時、どこからか爆発音が聞こえてきた。最初、何が起こったのか彼女は分からなかった。部屋でビクビク震えていると拳銃を持った男が入ってきた。彼女は怯えた。しかし、その人物は彼女に優しい言葉でこう言った。


「もう大丈夫だよ。遅くなってすまなかったね。今助けてあげる。」


「それが藤原室長だった。あの時はあの人が凄く格好良く見えたよ。なんかお姫様を助けに来た王子様に見えた。」


涼はどこか嬉しそうな声で言った。


 当時、藤原はある情報源より、ライの研究所にて女の子がモルモットにされているという情報を掴んでいた。藤原は少女の救出に向かった。しかし、それがまさかあの死んだはずの「音城涼」とは思わなかったそうだ。その後、彼女はL.O.C.K.の施設に保護された。そしてそこで治療を受けて、自分が「音城涼」だという事を思い出した。既に彼女が世間的には死んだことにされて5年が経過していた。そして、彼女は皆川家の・・・・


「皆川家の養女になった。」


千里の言葉に涼が頷く。彼女は養女だった。そこは千里が高山にも確認した事だった。


「君は、本当の両親に会おうとしなかったのか?」

「会おうとしたよ・・・でも無理だった」


 彼女の本当の両親は既に離婚していた。原因は彼女が死んだことだ。それにより、次第に彼女の両親の間に亀裂が入ったからだ。


「今更、あの人達になんて言って会えばいいのか分からなかった。1回だけ遠目で確認した事はあったよ。でもやっぱ無理だった。あの人達、もうそれぞれ再婚して、子供まで作っていた。別の家庭作っていた。パパが男の子と女の子、ママが女の子と一緒にいたなぁ。なんかさぁ・・・もう私とは関係ない別人に見えた。幸せそうだったよ」

「涼・・・・」

「それにさぁ・・・その子供らってよくよく考えれば私の弟、妹達な訳じゃん。腹違いだったり、種違いだけど。なんか今更名乗り出て、そいつらの幸せ壊してしまったりするんじゃないかと怖かった。・・・・まぁそんな健気なヒロイン役をやって私って偉いじゃんって自己満足やりたかっただけなんだけどな」


 悲しそうな顔で少しだけ彼女は笑った。


「いや、そんな事はない。君は立派だ。」

「へへへ・・ありがとうよ」


 千里に褒められて、涼は少し顔を赤くした。彼女は話し続ける。


「ある意味、私のこの「皆川涼みながわりょう」という今の名前は過去との決別の明かしなんだ。パパとママを思い出さないための。でもさ・・・昔死んだはずの「音城涼おとしろすず」って女の子も実はどこか生きているんだって気が付いて欲しくて、文字だけは変えなかった。女々しいかもしれないけど」


 千里は彼女の話を聞いていて心苦しかった。自分のせいで彼女の人生は大きく変わってしまったのだと。


「ごめん、涼・・・僕のせいで・・・僕があんな絵を描いてしまったせいで・・・」

「なんであやまるんだよ?お前、自分のせいで私の人生が変わったと思ったのか?思い上がるなよ。あれはお前じゃなくて、ライとかいう変態野郎のせいだ。それに今の私は1人じゃない。お前や、天野、勇兄、サミュエルや、計里や、父さんや母さんや妹のカツミだっている。カツミ知っているだろ?」

「ああ、妹のカツミちゃんだろ?君が毎週土曜日にデートするカワイ子ちゃん」

「そうそう、あいつ可愛いんだぜ。今日も一緒にアイス食べたり、映画見たし。本当に可愛い」


 彼女は義理の妹の話をしながら、笑顔になった。それ見て、千里も少し安心した。


「まぁどっちかっていうと私の方が千里に謝らなければならないかもしれないな。」

「・・・なんだ?まぁこれまでの話で大体の検討が付いているけど」

「そうか・・・・じゃあ言うぞ。私は実は藤原室長の部下だ。今まで黙ってたいけど。L.O.C.K.のエージェントだ。お前の監視を命じられていた」

「ああ、やっぱりね」


 涼は助けてもらった藤原に恩義を感じ、自身も彼の手伝いをしたいと思い立ち、L.O.C.K.のエージェントに志願したのだ。千里は納得したような顔をしていた。


「驚いたり、怒ったりしないんだな」

「怒る?なんでさぁ・・・君がそんなへんてこな組織に入ってしまったのは僕にも原因がある」

「だから、それやめろって。高校に入ってお前と再会したけど、お前は記憶を失っていたからあえて「音城涼」だと名乗る必要はないと判断した。すまなかったな」

「こちらこそ、気にしてない。そういえば、あのおっさんと君の考えが僕の能力でも読めないんだ・・・なんでだ?」

「ああそれか・・・これさ・・・」

と彼女はジャケットから銀色の紙に包まれたミルクキャラメルを取り出した。


「キャラメル?君がよく噛んでいる奴か」

「ああ、こいつを噛み続ければ、お前さんの能力をジャミング・・・妨害する機能を持っている。L.O.C.K.の研究部が開発した物だ。年頃のお嬢さんの気持ちを思春期の少年に知られたらまずいだろって室長がくれたんだ」

「そんな事が・・・・」


 そういえばと、千里は思い返した。以前、藤原が家に来たときにゴミ箱に小さな紙が落ちていた。あれは涼がよく食べているキャラメルの包み紙と同じものだった。彼は今ようやくその事に気がついた。


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