第8話「夕暮れ時に、あの場所で」〈2〉
夕方・・・千里は自分がかつて通っていた高校に来ていた。学校敷地内の隅大きなスギの木がある。千里はよく、ここで昼寝をしていた。ここに持たれてかかると何故か落ち着くのだ。ここが千里のお気に入りの場所だった。
約束の時間より、早めに来た千里は高校時代同様に地面に尻餅を付き、スギの木にもたれかかり昼寝していた。千里は目を覚まし、腕時計を見る。時刻は夕方5時50分まだその人物は現れていない。
千里は再び、目をつぶり思い返す。その人物と初めて出会った時の事だ。高校1年生の時、千里はその時も同様にここでスギの木にもたれかかって昼寝していた。そして、その人物にこう声をかけられたのだ。
『そんな所で昼寝していたら、風邪引くぞ』
「そんな所で昼寝していたら、風邪引くぞ」
過去の思い出のその人物が発した声と同じ声、同じ台詞が現実でも聞こえてきた。千里は目を開けて、現実世界に戻る。声の方向を見た。約束の相手が目の前にいて立った状態でこちらを見ていた。それも初めて会った時と同じ状況だった。
「そんな所で昼寝していたら、風邪を引くぞか・・・・確か初めて出会った時も君はそう言ったよな?一字一句同じ台詞を。」
「そうだったか?覚えてないや」
千里の言葉に相手は首を傾げた。千里はその人物の身体を直視する。そして口を開く。
「今日は・・・スカートじゃないんだな?」
「はぁ?スカート?」
その人物は千里にそう言われ、自分の下半身を見た。確かに今日はスカートじゃなくて、ジーパンを履いている。
「ああ、確かにジーパンだね。スカートあんまり好きじゃないんだ。高校時代は学校指定の制服がスカートだったから仕方がなかったけど。ジーパンとかズボンの方が落ち着くんだ。何故かな」
「そうか・・・年月というのは人の趣味を変えてしまうのかもしれないな」
「それ、どういう意味だよ?」
千里の言葉の意味が分からず、その人物は困惑していた。千里は尚も話を続ける。
「僕は、今ここで謝らなければならない。実は初めて君と出会った時、君のパンツを見ようとした。寝ている僕なら、角度的に出来るんじゃないかなとか考えた。スカートの下から覗けないかと考えた。」
「はぁ!?パンツを!?」
突然の告白にその人物は驚きの声を出した。またも千里は語り続ける。
「ああそうだ。だが、その時、実は角度的には無理だった。だから君も知ってのとおり、僕には不思議な能力がある。その力で君のパンツを探ってやろうかと考えた。」
「お、お前なんてことを・・・・」
「でもなぁ・・・何故かそれでも、君の下着の色は読めなかった。何故かはわからんが。で、あの時のパンツの色は白か?ファイナルアンサー!」
「ファイナル・・・って!そんな何年前も履いていたパンツの色なんて覚えているか!バカ!」
その人物の・・・彼女の怒りの声に千里は「確かに君の言うとおりだ」と納得していた。彼女の怒っているというよりは呆れていた。」
「お前さぁ・・・そんな事を言うために私を呼んだのか!?そんな話しなら、私は帰るぞ!」
「違う。違う。」
千里はそう言いながら立ち上がった。千里は彼女に近づく。
「悪いな・・・今日の僕はなんというか・・・色々と変だ。変なんだ」
「いや、お前いつも変だよ」
彼女の的確なツッコミを無視して千里の話は続ける。
「実は、今日写真を見つけた。鈴ちゃんの写真だ」
「鈴ちゃん・・・お前の幼馴染の女の子か。それがどうした?」
千里はポケットから、祖父の部屋で見つけた幼い頃の自分と鈴ちゃんが写っている写真を取り出した。そして、千里はその写真を目の前の彼女に突きつけてこう言った。
「この子は君にそっくりとは思わないか?いやむしろ・・・・君じゃないのか?この写真に写っている女の子は」
「・・・・・・・・・・」
彼女はそう言われて黙った。千里の答えを彼女は否定する。
「確かに私に似て可愛らしい女の子かもしれないが、他人の空似じゃないか?だってその子、昔死んじゃったんだろ?」
「ああ・・・でももしあれは何かの間違いで彼女が実は生きていて、今現在が別人として生きていたらどうだろ?」
「オイオイ・・・アニメみたいな話だな。確かにお前も私もアニメ好きだけど、それはいくらなんでも出来すぎだろ。それが私だって根拠は?」
「偶然って事だってあり得るけど、彼女の名前が君の名前と同じ字だからだ。読み方が違うけどね」
千里はそう言って持っていた写真をひっくり返して、裏面を彼女に見せた。そしてそこに書かれている文字を彼女に見せた。写真の裏面にはこう書いてあった。
「2004年4月1日 早先見千里 音城涼」
「顔まで似ていて、名前の字まで同じなんてな。偶然かな・・・・。なぁ・・・・君は誰だ?僕の好きだった音城涼なのか?それとも僕の親友の皆川涼なのか? 答えてくれよ涼」




