第7話「不条理ナ世界ノ住人達」(8)
千里は目を開ける。気が付くと彼は夜の林の中に突っ立っていた。横には光太もいた。
光太は何故か、頭上を見上げていた。
「光太・・・・?」
「千里さんあれ!」
と光太は夜空を指刺した。千里はそちらの方を見ると、夜空に銀色の球体が浮かんでいた。それはそのままその場から姿を消した。
「「え!?」」
二人は驚きの声を出した。あの球体は何だったのだ?自分達は今まで何をしていたんだ?
そうだ・・・何故か気がついたら何故か教会にいてライとかいう頭のおかしな人間の話を聞いて・・・・という先ほど目で見た不可思議な光景を思い返していた。彼らの足元には誰か倒れていた。
制服姿の大石春美が横になっている。彼女は安らかな寝息を立てていた。それを見て彼らは安心した。
「千里さん、あのサングラスマンがいないよ!?」
「え!?」
そうだ。奴も・・・藤原も確か一緒にいたはずだった。藤原はどこへ行ったというのか。夜の林のあたりを見回しながら、彼の姿を二人は探すが見つからない。その時、千里のポケット携帯がバイブレーションで震えた。ポケットから携帯を取り出す。メールが受信されていた。メールを確認する。見たことないアドレスからだった。
『心配無用 藤原』
とあった。千里は(なんで僕のアドレス知っているんだよ?教えてないのに)と思ったが、自分らの事を助けてくれた藤原が一応無事らしいと分かり安堵した。千里は光太にも藤原からのメールを見せる。光太もそれを見て同じように安堵した。
「おーい!どこにいるんだー1」
夜の林の中にどこからか声が聞こえてきた。知っている・・・・高山の声だ。千里と光太は大声で「おーい!」と返す。
高山と千里達が合流する。懐中電灯で二人を照らし出す、高山は驚いた顔をしていた。
「お、お前ら無事だったか!?心配したぞ。つーか何をしていたんだ!?
「・・・・・・・・」
なんとも説明しようがない。自分達だって信じられない光景だったのだ。夢のような出来事だったのだ・・・
「さぁ・・・・僕らもなにがなにやら?なぁ光太」
「え・・・ええ・・・」
と千里と光太は誤魔化すことにした。
「そうだ!高山さん、そんなことより、じゃじゃーん!行方不明なった女の子見つけましたよ!」
「え!?」
高山が地面を懐中電灯で照らす、確かに眠っている大石春美がそこにいた。高山もびっくりした。
「本当だ!?よし、なんか知らんが彼女を捜索本部に運ぶぞ!」
高山は眠っている少女を背負った。そして全員で捜索本部のテントへ向かった。
彼らは捜索本部に合流すると沢山の警察関係者の大人達が驚きと歓喜の声を出した。涼と智子もその場にいて驚いていた。
「春美!?」
高山に背負われた春美を見て智子が涙を流す。しかし、それは悲しみの涙ではない。喜びの涙だ。千里はそれを見て、「ああ・・・よかった・・・」と気持ちが少し救われたような気がした。
涼が千里と光太に抱きつく。涼も少し涙目になっていた。
「お前ら、心配したんだぞ!」
「ごめんよ。涼!」
「先輩、痛いですって!」
千里達は自分たちが無事であるという事を喜び合っていた。
――――一方。
「ここは・・・・」
藤原が目を覚ます。藤原は走行中の車に乗っていた。自分の愛車、デロリアンの中だ。しかし、自分が運転している訳ではない。藤原は助手席に乗っていた。運転している人物を見て藤原はニヤリとした。車の運転しているのは黒人だった。
「やはり、君か・・・サミュエル」
「ボス、オメザメデスカ」
サミュエルは流暢な日本語でそう返した。サミュエルは実は特務機関L.O.C.K.のエージェントの一人だったのだ。
「そうか・・・私は千里君にメールして山の麓に下りた所で気を失ったのか。そこを君が拾ったのか」
いくら壱発屋の薬を飲んだとは言え、回復には限度があった。アディブに殴られ続け、急いで山を下りたのだ。降りた理由は警察関係者に見つかるとやはり厄介だと思ったからだ。その結果、最後は気を失った。そこを駆けつけたサミュエルにより、藤原は拾われた。藤原はデロリアンを運転するサミュエルを褒める。
「ナイスタイミングだ。お前は本当に気が利くよ。」
「イエイエ、ボクハ、アノ人ノ指示ニ、従ッタマデデス。ボスヲ助ケテ欲シイッテ」
自分はある人物の指示に従ったまでとサミュエルは謙遜した。それを聞いて藤原は笑顔になる。
「ああ、彼女か。君を紹介してくれたのも彼女だったな。ホント健気で良い子だよ。あの娘は」
「ホントデスネー」
そんなやり取りをする二人を乗せたデロリアンは何処かへ去っていた。当然、空を飛ぶことも、タイムスリップすることもなく。
第7話「不条理ナ世界ノ住人達」〈了〉




