第7話「不条理ナ世界ノ住人達」(5)
遡ること少し前、藤原も真野山に来ていた。現在の真野山はもう日が暮れて夜だ。昼に降っていた雨は現在やんでいる。片手には懐中電灯を持っている。
但し、一人来た訳じゃない。壱発屋から借りてきた化猫兼黒猫の九十九と一緒だ。九十九は藤原の肩にぶら下がっている。
彼は行方不明になった女子高生捜索隊(現在はそれ+姿を消した千里と光太も探している)である警察関係者達に見つからないように別ルートでこの真野山に入っていた。彼らに見つかると色々と厄介だと藤原は判断したのだ。
『驚いたぜ。お前さん俺のテレパシーが聴こえるようになったんだな。確か、昔は聴こえなかったはずなのに』
藤原に肩に乗っている九十九がテレパシーでそう語りかける。九十九のテレパシーに反応して藤原も返事する。
「ええ。昔はあなたの声が私には聴こえませんでしたので歯がゆい思いをしました。でも、このサングラスのおかげであなたの声が聴こえるようになりました。九十九様」
九十九様・・・九十九は確かに猫であるが、人間の藤原からしてみれば、遥か大昔からこの世に生を受けて生きている九十九を、もはやある種、神に近い存在だと彼は考えていた。なので、尊敬と畏怖を込めて「九十九様」と呼ぶようにしているのだ。
『サングラス?』
「ええ、このサングラスは実は我々の組織で開発した特注品でしてね。色々な機能があるんですよ。テレパシー受信機能もその一つです。このサングラスを身に付けることであなたのテレパシーを感じ取れるようになりました」
『よく分かんねぇけど、人間も妙な物を作るようになったもんだなぁ』
九十九は藤原の説明を聞いて感嘆な言葉を出していた。そんな九十九に藤原がお願いする。
「この真野山に九十九様をわざわざお連れしたのは他でもありません。道中でもご説明したとおり、彼らのいる場所をあなたのお力で探すことができないか・・・・と私は考えたのです。お願いします。お力をお貸しください。」
「千里と光太も真野山で姿を消した」という報告を受けて藤原は九十九を真野山に連れてきたのだ。藤原はまだこの真野山のどこかにあの二人と、行方不明なった女子高生と、そして裏切り者である・・・あの男「ライ」もまだこの山にいると確信していた。組織の情報ネットワークを使ってライがこの日本に来ているとが確定した。やはり今回の一件はあの男の仕業だったのだと。
『だから、事が起きてから動くなって!』
藤原に九十九が怒る。そしてそんな猫に藤原が謝る。
「恐縮な上に申し訳ありません。こちらも色々と事情があるんですよ。人手不足とか人手不足とか人手不足とか」
『お前、そればっかりだな!お前の組織は今流行りのブラック企業か?全身黒いし。その上人手不足だから、猫の手も借りたいってか!?』
「あ!上手い事言いますね!さすが!」
『褒めたって、何も出ねーよ!・・・で、俺は何をすればいいんだ?俺の力で奴らを探すって言っておくけど俺は警察犬じゃないぞ。見て通り猫だぞ』
「私どもはあなたの能力はもう1つのあることは知ってまいすよ。テレパシーを応用したサーチ能力といいますか。それを使って彼らを探したいのですが」
『ほう・・・よく勉強しているじゃねーか』
確かに藤原が九十九に指摘した通り、九十九には得意能力者を見つける能力も持っていた。それで千里達を探せと彼は御願いしているのだ。
『じゃあ、やるか』
「ありがとうございます九十九様」
九十九が「ニャーーー!!」と鳴いた。その鳴き声が夜の山に響く。九十九が藤原に再度語りかける。
『北へこのまま、まっすぐ行け』
「了解しました」
猫の指示通りに藤原は足を進めた。北へひたすら歩いていく。歩いていくと舗装された道がなくなっていた。
「まだまっすぐですか?」
『そうだ』
九十九が同意する。藤原がそのまま林のような場所へ入っていく。10分ぐらい歩いたところで。
「なにもありませんけど。まだまっすぐですか?」
『おかしいな?ここらへんだ』
九十九がそう言うので藤原は懐中電灯で回りを照らしながら、おかしな物や異変がないか探す。
「?」
夜の山という事で光りもなく分かりづらいが、周囲のある特定の部分がボヤけているような感じだった。そこに藤原が近づく。
「ここは・・・?」
藤原がそのボヤける部分に足を踏み入れる。踏み入れるとそこには突然、大きな銀色の物体が出現した。びっくりした藤原は一旦その領域から出る。見間違いじゃないかともう1度その領域に入る。間違いなく銀色の物体がそこにはあった。それはドームのように見えた。
「間違いない。これですよ。妙な装置使って回りの風景に擬態していたんでしょうね。これならいくら探しても見つからない訳だ。」
『へへへやったぜ!』
九十九が誇らしげな台詞で藤原に向かって返事をする。ドームには入口も窓もないようだ。藤原はドームの周りを1週して確認する。どこから入れる場所がないものかと藤原は警戒しながら、ドームに触れる。触れると銀色のドームに穴が彼の目の前に空いた。穴は道だった。ドームの中心部に続いているようだ。道が続く奥底は暗くてわからない。どういうメカニズムなのか不明だが、これで中に入れる。
「恐らくこの中に千里君と天野君がいるはずです」
それと行方不明になった女子校生とあの男・・・・ライもだ。
「九十九様、すいませんがここからは先は危険なのでお別れです」
『オイオイ、こんな夜の山に連れてきて。ここでいたいけな猫放置とか動物虐待レベルだぞ』
九十九が藤原に怒りの言葉を出す。しかし、九十九に藤原も反論する。
「お言葉ですが、この中はどうなっているか不明ですよ。もし中に入って何か起きても私は責任を負いかねます。それにあなたは化猫と言えど、いくらなんでも不死身ではないでしょ?死んだらそれこそ動物虐待ですよ」
『・・・・仕方がねーな。』
藤原の言葉に納得したのか、「我が身大事」と判断し、そう言って九十九は藤原の肩から飛び降りた。藤原の方を見ながらテレパシーで気休めの言葉を語りかける。
『死ぬんじゃねーぞ!』
「こう見えても鍛えていますから」
『そんな細川茂樹のやったライダーみたいな事言ってもダメじゃね?』
「ではお元気で!」
『達者でな』
そう別れの挨拶を言って九十九はその場から真野山の暗闇の中に姿を消していった。それを見届けた藤原は黒スーツのうちポケットから拳銃を取り出し、先程開いた銀色のドームの穴に向かって飛び込むような形で入り込んだ。
警戒をしながらドームの中を歩いていていく。ドームの見た目と中の大きさがマッチしてないようにも思えた。しばらくすると遠目からどこかの部屋に続いているのが分かった。近く付くにつれ、その部屋の中が少しずつ見えてきた。銅のキリストが貼り付けられた十字架、スレンドグラスに描かれた天使・・・・藤原にはその部屋の中がある建物の中にも思えた。
(なんで教会がこんな中にあるんだよ?)
声が聞こえてきた。
「離せ!離せ!離せ!」
光太の声だった。そして藤原は部屋に入り込んだ。部屋には謎のシスター風な女に光太が引きずられていた。千里が腹を抑えて床で苦しんでいた。そして・・・自分が行方が追っていた男、ライもその場にはいた。




