第7話「不条理ナ世界ノ住人達」(1)
この世界に未知なる物は実在する。
Unknown presence is real.
5月25日の水曜日の朝、早先見千里は、同居人の天野光太、友人の皆川涼、腐れ縁の知り合いの刑事高山勇司と共に真野山の麓に来ていた。(涼の運転する車に乗るのが嫌だったので光太は高山の運転するパトカーで来ていた。)
当然、行方不明になった女子高生である大石春美の捜索に参加する為である。先週の金曜日の夜に姿を消して以降、彼女の足取りは依然掴めていない。
「じゃあ、山に入るよ」
「あんまり無茶するなよ」
千里がそう言い涼が心配の声をかけた。千里が真野山に一歩足を踏み入れた。3人がそれを固唾を飲んで見守る。前回来た時のように千里が気絶しまいか心配なのだ。
千里は平然と真野山に入り、数歩歩いた後、振り返り背後の3人に声をかける。
「ほら、大丈夫」
3人もそれを見て安心した。千里、同様に足を真野山に向けた。高山が千里に声をかける。
「お前、本当に大丈夫なのか?無茶してないよな?」
「大丈夫ですよ。やっぱ高山さん、怖顔のくせして優しいですね」
「怖顔は余計だよ。まぁ大丈夫なら良いか。じゃあ捜索本部のテントへ行くぞ」
全員で高山の案内でその本部テントへ向かう。山道を歩きながら、千里は考える。
(やはり、原因が分からない恐怖心で前回は気絶してしまったんだろうな。鈴ちゃん、ごめんな・・・・君は死んでしまったけど僕は・・・・・)
千里は道中で自分のせいで死んでしまった少女への思いを馳せた。
捜索本部のテントで女子高生の探索を仕切っている偉い人を紹介された。高山が
「この子達は行方不明になった女子高生の先輩達です。なんでも彼女の事が心配で、是非自分たちも探索に参加したいと申し出てくれました」
というでっち上げ話をしたところ手厚い歓迎をされた。
「おお!なんという美しき友情かな!是非、こちらからもお願いしたい!」
と笑顔な大きな声をかけられる。高山の言ったとおり捜索本部の偉いおじさんは「浪花節大好きなおじさん」だった。
千里達がテントから出ると捜索隊の大人の中に一人のジャージ姿の少女が混ざっているのを見つけた。大石春美の友人である辻智子だった。
「高山さん、あの子は・・・?」
「ああ、あの子は辻智子と言って行方不明になった大石春美の友人だ。大石春美はあの子と一緒にこの真野山に来て行方不明になったらしい。彼女は大石春美の事が心配で学校を休んでまで、この捜索に参加したいと申し出たんだとよ」
千里の問いに高山はそう答える。千里達は智子に声をかける。
「あのすいません、君が大石さんの友人の辻智子さん?」
「ええ・・・・あのあなた達は?そちらの高山さんって人は知っていますけど、あなたたちは警察の人には見えませんけど?」
突然声をかけられた彼女は怪訝な顔を千里達に向ける。とりあえず、高山と同じようなでっち上げ話を千里はする事にした。
「ええ・・・僕ら大石さんの先輩といいますか・・・」
そう言い、千里、涼、光太はそれぞれの名を名乗った。
「そうなんですか?春美からは聞いたことないですけど・・・」
「そうですか?おかしいなぁ・・・まぁとにかく僕らも彼女の事が心配でこの捜索隊に参加する事にしました」
「本当ですか。ありがとうございます!でも、春美が行方不明になったのは私のせいなんです!」
「え!?それどういう意味ですか?」
彼女の言葉に千里らは驚いた、智子は春美が行方不明になった経緯を千里達に説明した。金曜日の夕方、真野山に来て謎の飛行物体を見た直後、何故か数時間経過していて、一緒に来たはずの彼女が姿を消したという謎の体験を・・・。それを聞いた千里らは驚いてた。
「なるほど、そして君の目の前で大石さんが消えたと・・・・」
「ええ・・・私自身も信じられないし、誰も信じてもらえないかもしれませんけど、本当なんです!」
涼のそんな問いに智子が悲鳴のような言葉の返答をする。そして、智子は友を心配するあまり泣き始めてしまった。そんな彼女に涼がハンカチを手渡し、涙を拭うように促した。
「泣かないで。きっと大石さんはすぐ見つかるよ」
「あ、ありがとうございます皆川さん」
そんな事を二人のやり取りを見ながら光太は(先輩のああいう所が女の子受け良いのかな・・・?)と思ってしまった。彼はふと横にいる千里の方を見た。千里は黙って智子を見つめていた。千里は考えていた。まるで自分と同じだ・・・・と。
千里も12年前にこの真野山に来て、謎の飛行物体を見た直後に、何故か一瞬で数時間経過していた後、一緒に来たはず鈴ちゃんがいなくなっていたのだ。
千里の目の前で泣いている彼女の姿が過去の自分と重なる。もう過去の自分と同じような人間を出してはならない。なんとしても大石春美を探し出さなければならない・・・そう千里は改めて決意した。智子に千里は声をかける
「辻さんだったかな・・・その大石さんが行方不明なった場所に僕らを案内してくれないか?」
「ええ・・・いいですよ」
そう言われ智子は千里らを引き連れて、春美が姿を消した場所に足を運んだ。




