第6話「其ノ名ハ、「L.O.C.K.」」(4)
「今日は帰るだァ!?」勝手に人の家に入っておいて」
突然「帰る」そう言った藤原に千里は怒っていた。光太も千里も「何しに来たんだこのおっさん」と思った。
「言っただろ。うちは慢性的な人手不足なんだから仕方がないだろ」
「おいちょっと待ってよ!」
「そんなキムタクみたいな台詞言っても駄目さ」
千里を避けるかごとく藤原は玄関に向かって歩いていく。それを追いかける千里と光太。あっという間に藤原は靴を履いて急いで屋敷の門へと向かっていく。藤原が向かった門の方を見て千里と光太は驚いた。
「おい、光太、見間違いか?さっきあんなのなかったよな」
「ええ・・・俺も見た覚えがない」
二人がさっき屋敷に帰ってきた時にはなかったはずの物がそこにあった。それは一台の車だった。
「あ、あの車は・・・・!?」
その車はある有名映画でタイムマシンへと改造された事で有名な車だった。千里は映画大好きなのでその映画は当然見たこともあったしファンでもあった。映画には疎い光太でもその車を知っている程だった。・・・そうDMC-12の「デロリアン」だった。
「で、デロリアン!?」
「どうだ?凄いだろ!私もあの映画のファンでね。無茶して買っちゃった。さすがに空を飛んだり、タイムトラベルとかできないけどね。羨ましいか?」
「いやいやそんな事は・・・・(すげええええええええええ羨ましいいいいいい!)」
口では「羨ましくない」と言いつつ映画オタクの悲しい性なのか、そんな心の叫びを千里は発していた。
「乗りたいか?」
「だからそんな事は・・・・(あああああああああ!デロリアン乗りたいよ!マジ乗りたい!)」
またも藤原の言葉を否定しつつ、千里は羨望のまなざしをデロリアンに向ける。
「まぁ乗りたいって言うなら、機会が会ったらな。あと真野山に注意しろよ。私も行けたらあの山へ行く。じゃあな」
そう言って、デロリアンのガルウィングを開けて車に乗り込んだ。そして藤原の乗ったデロリアンは何処かへ走り去っていた。
二人はそれを見ながら「ああ・・・やっぱ空飛んだり、タイムスリップはしないんだな・・・」と同じことを思った。
「おい!光太、見たか!デロリアンだ!デロリアンだ!本物初めてみたよ!マジカッコイイ!」
「ええ・・・・」
興奮した子供みたいな千里の横で、光太は彼の言葉に頷きながら、全く別のことを考えていた。
(暗くてよくわからなかったけどあれは俺の見間違いか?)
光太は暗闇の中で一瞬だけ、藤原の乗り込んだ車の車内に黒人の姿が見えた気がした。黒人の大男だった。
光太の中に先月の末に引っ越しを手伝ってもらった黒人の大男、サミュエルの姿が浮かんできた。
(いや、黒人=サミュエルというのは安直じゃないか・・・俺。黒人なんて日本にも沢山いるだろうし)
横にいる千里に「あれにサミュエルが乗っていませんでしたか?」と聞こうと思ったが、今の千里はデロリアンを見た興奮でその事に気づいていないだろうと考えた。聞くだけ無駄だろうと光太は考えた。
その深夜、いつもベッド代はりにしているソファーで横になり、寝床に入りながら千里は考えていた。
(明日は真野山に行く。今日みたいに気絶とかはしないだろ・・・・)
何故自分は真野山を恐れているか理由がハッキリした今、朝みたいな気絶はしないだろうと彼はなんとなく確信していた。あれは理由が分からなかったから、恐れていたのだ。
「人間は正体不明な物、未知なる物に一番恐怖を覚える」
生前の祖父の言葉を千里は思い返していた。
しかし、彼はもう一つ別の事も寝転びながら考えていた。
「あのサングラスマン・・・・藤原の考えや過去が読めなかった・・・・・」
実は千里は藤原と会話しつつ、自身の能力で藤原の考えと過去を読み取ろうと考えていたがまったくそれが出来なかったのだ。
祖父からの言いつけで千里は「能力は極力使うな。人の心や過去を出来るかぎり読んではならない。不幸の元だ」という言葉を守っていた。それが自身の不思議な能力と付き合って生きていく処世術だという事は彼も理解していたし、納得もしていた。・・・それでも寝ぼけて、時たまに暴走してしまい、光太と初めて出会った時ような事が起きてしまう事もあったが。
しかし、あんな怪しい人間が相手では話が変わってくる。自分は特務機関の人間だとか言い、黒のサングラス、黒スーツの藤原が今一信用できなかった。だから、彼は藤原の事を自身の能力で調べようと思った。
でも、できなかった。藤原の考えがまったく読めなかったのだ。何故なのか。
「なんであのおっさんの心や考え、過去が見えなかったんだ?」
再び考える千里。千里自身の能力が効かない人間・・・・そんな奴がいるのか?いや、他にもいた。そんな人間に千里は以前会ったことがあった。その人物に対しても千里は心が読めなかったのだ。
(そういえば、あいつにも僕の能力が効かないな・・・なんでだ?)
世の中広いのだから、一人や二人ぐらいそういう人間がいるのだろうか。
「まあ、考えても仕方がないね。明日は真野山で頑張らなきゃいけないから。早く寝なきゃ」
そう誰に言うことなく千里は一人部屋の中で呟く。彼は寝る前にもう1度、トイレに行こうと思いベッド代わりのソファーから起き上がった。ふと、立ち上がった彼の目にソファーのすぐ横に置いてあるゴミ箱の中が見えた。ゴミ箱はほとんど空だったが、奥底に何かが落ちていた。
「なんだこれ?」
と千里はそれを拾い上げた。それは1枚の紙だった。手のひらサイズの小さな紙だ。千里はどこかでそれを見たことがあったが、思い出せなかった。
「わかんねぇや。まぁトイレ行こう」
そう言い、彼は寝る前のお手洗いに向かったのであった。
第6話「其ノ名ハ、「L.O.C.K.」」(了)
・・・・・to be continued・・・・・・




