第6話「其ノ名ハ、「L.O.C.K.」」(1)
この世界に未知なる物は実在する。
Unknown presence is real.
「「とくむきかんろっく」だぁ?」
「そうだよ千里君」
早先見千里の問いに黒スーツと黒サングラスの男・・・藤原は早先見家の居間にて千里の同居人である天野光太が出したお茶を飲みながら、そう頷いた。
藤原は「自分は特務機関ロックの極東支部」の人間と名乗った。
「ロックってのはなんだ?焼酎ロックか?ロックンロールのロックか?」
「それなぁ・・・よく間違われるから嫌いなんだよなぁ・・・。綴りはLOCK・・・鍵の方だな。我々はレベル・オーバー・ケース・キーパーズ(Level.Over.Cace.Keepers)。超常現象事件保護委員会と言うべきか・・・それらの頭文字を取って通称L.O.C.Kだ。」
レベル・オーバー・ケース・キーパーズ・・・・で略してL.O.C.K.・・・・。千里はそれを聞いて納得してない顔だった。
「無茶がないか!?その名前?」
「私に文句言われても仕方がない。偉い偉い人のそのまた偉い人が、大昔に決めたんだからな」
「なんだかなー」
「君の好きな映画の「アイアンマン」や「アベンジャーズ」とかに出てくる、S.H.I.E.L.D.(シールド)とかいう組織があるだろ?あれも「戦略国土なんとか・・・」っていう長たらしい名前の略称だったじゃないか。あれと似たもんだよ」
そんな映画に出てくる組織と似たような物と言われてもますます納得がいかなかった。
「じゃあ、なにかあんたはニック・フューリーか?フィル・コールソンか?それともクリント・バートンか?弓矢で宇宙人やロボット軍団と戦うのか?まぁあんた男だから、ロマノフには見えないよな・・・?」
「君、昔からそういうの好きだったよね。残念だがそのどれでもないよ。どっちかっていうと、S.H.I.E.L.D.よりは「メン・イン・ブラック」のエージェントKやJに近いかな」
「いや、確かにあんた、黒いスーツに黒いグラサンだけどさ・・・・」
MIBのエージェントのようなもの・・・改めて、千里の目は藤原の全身の姿を見た。確かに現在の彼は黒いスーツに黒いネクタイ、さらに黒いサングラスだ。見た目からも多くの人間があの映画のキャラを連想する姿をしていた。千里も光太も(夜なんだからサングラスぐらい外せよ)と思いながら、彼を見ていた。
「残念ながら、記憶を消す装置とかは持っていないから安心して欲しい」
記憶を消す・・・そう言われて、千里は藤原を睨んだ。そうだ、こいつは自分の幼い頃の記憶を奪った大人の一人だった。
「ああ・・・だから、羅針の婆さんの薬に頼って僕の記憶を消したのか!」
千里は藤原に向かって皮肉を込めた風にそう言った。藤原は驚く事も詫び入れる事もなく千里に返事をした。
「ほう・・・記憶を思い出したか」
「ああ、お陰様でな!色々とあって、死にそうになったよ」
「あの時は先生・・・君のおじいさんは落ち込む君を見て苦しんでおられた。苦しんだ末の苦渋の決断だったんだ。お孫さんである君の為にやった事だったんだよ。それは理解して欲しい」
それは先程、電話で羅針に言われた事、そのままだった。千里はもうそれに関しては、祖父の自分への愛情を痛いほど感じていた。
「ああ、それはもう納得したよ。」
「そうか、なら良いよ」
藤原は笑顔を千里に向けた。そう言えば、夢の中でも藤原は祖父の早先見乖里の事を先生と呼んでいた。二人はどういう関係だと言うのか。
「でもじいちゃんも残念な人だったんだな・・・」
「先生が残念な人だったとはどういう意味だい?」
「だって、そうだろ?あんたは鍵を勝手に開けて、この家入ったんだろ?泥棒じゃん。そんなの。泥棒と知り合いとかさ、じいちゃんには、少し失望したよ。それとも、そのL.O.C.K.っていう組織は鍵屋さんか何かか?名前だけに」
「ああ・・・その事か。確かに勝手に家に入った事は悪かった。しかしな、私は君のおじいさんから、この屋敷の合鍵を一応預かっているんだ。もしもの時の為に」
「え!?」
驚く千里を尻目に藤原はスーツの内ポケットから鍵を取り出した。確かに、この屋敷の合鍵のようだ。そんな合鍵を渡す程の関係とは一体・・・。
(オイオイ、僕のじいちゃん、実はホモかゲイかバイかなんかで、この男が愛人だったなんて事はやめてくれよ・・・)
そんな事を勝手に千里は想像し始めた。その様子を見て藤原が察したのか
「君ねぇ・・・・よからぬ想像はやめたまえ。私と先生は君の想像する関係ではない。あの人には生前、色々とお世話になったし尊敬しているから「先生」と呼ぶんだ。先生もそんな私を信頼してくれて、この屋敷の鍵を私に託したのだ」
と言った。「千里の祖父を尊敬している・・・」そう言ってくれるのはありがたいが、ここで一つの疑問が千里の中に生まれた。
「でもさぁ、あんた2年前のじいちゃんの葬式に来なかったよな?世話になった上に尊敬している人間の葬式に来ないのはおかしくないか?」
藤原は黙った。千里の記憶が確かなら2年前の祖父、乖里の葬儀に目の前のグラサンは来てないはずだ。そして、藤原は少し困った顔をしながら千里に答えた。
「確かに君の言うとおりだ。私は特務機関L.O.C.K.の極東支部の人間と名乗ったが、私の所属する組織も色々事情があってね。恥ずかしながら、慢性的な人手不足なんだよ。そのせいで極東支部の私も海外への任務・・・他の支部の任務、作戦などへは参加するように通達が来る場合もあるんだ。」
「そうなのか?」
「ああ、私も中間管理職の端くれだ。海外の任務や作戦に借り出される。当時も私は海外支部の手伝いを命じられた。だから君のおじいさんの葬儀にも参加出来なかった。そのことは謝ろう。すまなかったな。ああ、でもな、一応、墓参りは時々行ってるんだ。」
そう補足しながら、千里に藤原は頭を下げた。
「まぁそれなら良いけどさ・・・」
「それに先生なら、自分の葬儀と職務どっちが大事だ!って言うかと私は思うんだ」
藤原は姿勢を正しながらそう言った。ますます千里はこの男・・・藤原と祖父の関係がわからなくなった。




