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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第3章「魔ノ山」(シーズン壱)
39/56

第5話「嫌ナ思イ出」(8)

 壱発屋から帰り道、千里、涼、光太は3人共黙って歩いていた。千里の過去の体験を聞いて気まずい雰囲気に包まれていた。

 店から出る祭、千里の事が大嫌いの計里でさえ彼の話を聞いて


「まぁ元気だしなさいよ・・・・」


と励ましの言葉をかける程だった。

 そんな静かな夜道で涼がまず口を開いた。


「なぁ・・・・千里、お前の過去に何があったかは理解出来た。真野山が怖いっていう理由もな。だから、お前は今回の真野山の女子高生探索にはもう関わるな。無理しなくても良い」


 涼の思いがけない言葉に千里は驚いた。涼は続けて、自分の口から高山に事情を説明するとも言ってくれた。今の千里に真野山での捜索活動の手伝いは無理だと・・・。しかし、千里はこう返した。


「心配してくれてありがとう。だけど、僕は真野山にもう一度行くよ」

「「え!?」」


 光太と涼は同時に驚きの声を出した。あんな嫌な思い出しかなく、さらには恐れから気絶までした真野山にもう一度彼は行くと言っているのだ。


「お前、良いのかよ!?」

「涼、僕は確かに鈴ちゃんを死なせてしまった。だけど、なんで鈴ちゃんが死んだか理由が知りたいんだよ。」


 千里は涼を向いてこう言った。確かに記憶は戻ったが鈴ちゃんが何故死んだか原因は分からず仕舞いだった。謎だらけだった。


「それに今、真野山で行方不明になった女子高生の話と鈴ちゃんの事件は似すぎている。きっと何か関係あるはずだ。それに、その女子高生がもし死んでしまったら、昔の僕と同じように悲しい思いをする人間がいるのは確かだろ?」

「・・・・・・・・・・」


 千里の言葉に涼は黙った。光太も黙って千里を見ていた。そして、涼は千里にこう言った。


「お前がそうしたいって言うなら止めやしない。お前は昔から頑固な所があるからな。明日、勇兄に頼んで、真野山での女子高生探しに参加させてもらおう。お前も良いなぁ!天野!?」


 涼に名前を呼ばれて、光太はおもわず「は、はい!」とか同意してしましった。


「ありがとう涼。光太」


 千里は笑顔で二人にそう答えた。しかし、続けて千里はこう言った。


「でも、講義の出席大丈夫かな?」

「そんなの、怖顔公務員に頼んで、捜査協力とか公務協力したとかいう事にしてもらって大学側に話してもらえば公欠扱いになるんじゃねーの!?」


千里はそれを聞いて


「その手があったか!涼、君は天才だな!」


と強引な友人を褒めていた。涼はどこか誇らしげな顔をしていた。光太は横で(無茶あるんじゃね?)と疑問に思いながらも黙っていた。


 駅で涼とは別れた。千里と光太、二人っきりになった屋敷に行く道中で光太が口を開いた。


「千里さん・・・あんた凄い人ですよ」

「どうした急に?褒めたって何も出やしないよ」

「そんな重い過去に向き合うなんて俺には出来ません」

「光太、僕はただ罪滅ぼしがしたいだけなんだ。いくら薬のせいでも、僕は鈴ちゃんの事を忘れてのうのうと生きてきてしまった。それは罪だよ」

「でも・・・・」


 「それは100%あなたが悪いという訳じゃないでしょ」と言おうとしたが、千里がそれを遮って言葉を続けた。


「僕はね・・・今、行方不明になっている女の子を探す事が罪滅ぼしになるなんて考えてしまっているんだ。決してそんな事はないのにな・・・ただの自己満足に浸りたいだけなのかもしれない・・・・・」


 寂しげにそう言った千里を見て光太も返答に困ってしまった。「そんなことはない」と言うべきだったかもしれないが、光太は言葉が出なかった。しかし、そんな光太の顔を見て千里は気持ちを読み取ってくれたのか


「心配してくれて、ありがとうな」


と一言返した。


 二人で屋敷の玄関の前まで来て、鍵を開けようとした瞬間、千里が怒りの声をあげた。


「おい、光太、ダメじゃないか!鍵がかかってないぞ!」

「え!?」


 そんな事はないはずだ。朝慌てていたとはいえ、戸締りはして真野山に向かったはずだった。まさか、泥棒が入ったというのか・・・。

 二人して、屋敷に警戒して入る。そこには玄関には黒い革靴が一足揃えて置いてあった。革靴は持っているが、見たことない靴だった。二人には見覚えがなかった。

 警戒を続けて、玄関を上がる二人。すると、いつも千里がテレビやDVD・BDを見ながら寝ている部屋から音が聴こえてきた。光太も千里も驚いてしまった。音が聴こえてきた部屋の前に向かう二人。音は・・・・女性の喘ぎ声だった。光太は「 ま た A V か 」と思った。


「・・・・千里さん、またAV消し忘れました?」

「そんな訳ないだろ!」


 誰かが部屋でAVを見ている・・・・誰が?千里は意を決してドアを開けた。部屋の電気はついていた。テレビも付いていて画面には裸の女性が映っていた。


「おい!誰かいるのか!」


 確かに二人の想像した通り、いつも千里がベッド代わりにしているソファーに一人の男が座って、千里のコレクションのエロDVDを液晶テレビにて鑑賞していた。男は画面を見たまま、二人に背を向けてこう言った。


「やれやれ・・・ようやく、帰ってきたか・・・・千里君、君もこんな物を見るお年頃になったもんだな」


 まるで性やエロに興味を持った少年に対し、「まぁ年頃なんだから仕方がない」というような声をかけるお父さんとかお母さんみたいな台詞を男は千里に向かって言った。


「まぁざっと君のコレクションのタイトルを見たけど全部巨乳物じゃないか。私はお尻フェチなんだよな。君とは趣味が合わないな」


 そう言いながら、男は立ち上がり振り向いた。男の姿の姿を見て千里は「あ!」と驚きの声を上げた。

 男の正体は夢の・・・過去の世界で見た謎の男、藤原だった。藤原はあの時と同様に黒いサングラスに黒いスーツを着ていた。違う事といえば、過去の藤原には、鼻の下や口元に髭がなかったが、現在の藤原の顔には立派な髭が生えていた。


「よぉ、久しぶりだな。千里君。そっちは天野光太君だな。はじめまして」


 千里と光太は驚いた。千里の事だけではなく、光太の事も藤原は知っているようだ。千里は黙って藤原を睨んでいた。


「どうした?久しぶりに会ったから私の顔を忘れてしまったのか?無理もないか・・・君と出会ったのは小学生の頃以来だもんな」


 そんな、久しぶりに出会った親戚のおじさんみたいな台詞を言われて千里は困惑していた。千里は戸惑いつつ、藤原にこう言った。


「あんたには色々聞きたい事とか、言いたい事がある。・・・・・・・だけどな、まずは・・・・・」

「まずは?なんだ?」

「AV消せよ!」


 そう言って千里は藤原の足元に落ちているリモコンを拾い上げ、裸の女が映っている画面を消した。



第5話「嫌ナ思イ出」 〈了〉


・・・・・to be continued・・・・・・

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