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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第3章「魔ノ山」(シーズン壱)
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第5話「嫌ナ思イ出」(7)

「思い出したのか?」

「ああ・・・・でもまだ完全じゃない・・・」


 涼の問いになんとか千里はそう答えた。苦しみは引いたが、頭がズキズキと痛む。薬が不完全なせいで完全には千里の記憶は蘇らなかった。

 そんな不完全な薬を調合してしまった計里は何も言わないが「私は悪くない!」という顔をしていた。千里は計里を咎める事なく語りだした。


「小学生2年生の頃、真野山に遠足に行った・・・その際に真野山で妙な物を沢山見た。あそこは確かにオカルトスポットだ。細かい事は思い出せないけど、確かに幽霊を見たんだ。女の人の幽霊だったと思う。あそこで自殺かなんかした人だったんだろう・・・そしてもう1つ・・・空飛ぶ円盤・・・いわゆるUFOって奴も目撃した。それらは、やはり僕にしか見えなかったみだいだ。理由はもちろん、僕に妙な力があるせいなんだろう。そして僕は図工の授業で出された「遠足の絵」という課題でそれを描いてしまった。なんでそんなのを描いてしまったのかは、実のところ思い出せない。多分、みんなにも世の中にはお化けやUFOがいるという事実を知って欲しかったのかもしれない・・・・・」


 しかし、結果はクラスメイトと先生から「嘘つき」呼ばわりという悲惨な結果だった。だが、あの子だけは自分の味方になってくれた。そう、あの子だけは・・・・


「その子の名は・・・・・・うっ!」

「おい!千里!?」


 その子の名前を思い出そうとして千里は苦しんだ。おもわずそんな彼に涼が駆け寄った。千里は涼に「大丈夫だ」と言いなんとか彼女の事を思い出そうとした。千里は自身に念じた。


(名前を思い出せ、思い出せ、思い出せ)


 チリーン・・・その時千里の耳にそんな音が聞こえてきた。音の方向を見た。この壱発屋に住み着く化猫の九十九がそこにいた。九十九も千里を見ていた。


『ほれほれ、頑張れ頑張れ思い出せ!』


 九十九が持つ特殊能力のテレパシーで千里にそう語りかけてきた。千里は九十九の首輪についているある物体に着目した。それは首輪についた金色の鈴だった。


(そうだ・・・・彼女の名前はすず・・・・鈴・・・・・鈴ちゃんだ!)


「・・・・・その子の名前は音城おとしろ すずちゃんだ!」


 千里は昔、唯一自分の味方になってくれた女の子の名前を思い出した。ようやく名前は思い出せた・・・しかし、正直なところ顔はぼやけたような感じで、しっかりと思い出せなかった。彼女が長い髪だったことや、確かどこかの大きな屋敷のお嬢様という事なども段々と思い出してきた。

 千里は話を続けた。


「僕は鈴ちゃんと仲良かった。小学1年生の頃も同じクラスでね、隣の席だった。正直に言う鈴ちゃんは僕の初恋の女の子だった。鈴ちゃんだけはいつも僕の味方してくれたからね。他の子とケンカとかしたり、いじめられても鈴ちゃんだけは僕を守ってくれた。大人の言葉で言うと僕は知らずにそんな鈴ちゃんに依存していたのかもしれない」


 そして、あんな絵を描いてしまって、回りから非難轟々を受けてもやはり鈴ちゃんだけは千里の味方になってくれた。そんな鈴ちゃんが千里は大好きだった。

 そして、鈴ちゃんと共に自分が描いた事が本当の事だと証明する為に心霊写真やUFOの写真を撮りに真野山に向かった。


「真野山に二人で行って、写真とか撮ったんだ。正直、僕は鈴ちゃんだけが信じてくれたんだからそれでもう満足だったけど、彼女はもう躍起になっていた。なんとして心霊写真やUFOを撮るんだ!って」


 お昼になって二人でお弁当を食べ終わった時だ。千里は写真撮影を続きを開始しようとした時、妙な物を上空に見かけた。


「妙な物・・・・UFOかなんかですか?」


 光太が聞く。すると千里は目を瞑って、その目撃した妙な物を思い出そうとした。だが、何故か真野山とは全く関係ないと思われる映像が彼の頭に浮かんだ。それは・・・どこかの教会と思われる光景だった。千里はおかしいと思った。真野山に教会なんてなかったはずだ。

銅製のキリストが貼り付けられている十字架、天使の絵が描かれているステンドグラスなどが見えた。そこに神父の格好した男・・・・青年が見えた。その青年がこんな事を言った。


「神の声が聞こえないのか?」


と・・・・。千里は「神の声」という言葉に聞き覚えがあった。死んだ木原景子が4月に彼の大学で血を吹きながら倒れた際に同じ事を言ったのだ。


(く、くそ、なんだよ。これ・・・僕は教会なんて言った覚えはないぞ。薬の副作用のせいか・・・?)


 不完全の薬のせいで関係のない妙な物が見えたのだ。彼はそう考える事にした。妙な物の結局正体は分からなかった。


「わからない・・・恐らく光太の言うとおりUFOかなんかだったと思う。気が付くとさっきまで昼だったのに何故か夕方になっていた。さらに・・・何故か、横にいたはずの鈴ちゃんはいなくなっていた。」


 千里はいなくなった鈴ちゃんを探した。何度も彼女の名を呼び続けた。


「鈴ちゃんー!どこ行ったのー!?」


 しかし、返事は無かった。いくら探しても見つからないので、そのうち、千里は彼女が先に帰ったのだと考えてしまったのだ。あと、何故かは知らないが真野山に一人でいるのが異様に怖くなった。彼は急いで山を降りて、ちょうど来たバスに乗り込んだ。


「そして、僕は一人、家に帰ってきた。夜、じいちゃんとテレビ見ていたら、鈴ちゃんのお母さんから連絡が来た。「鈴ちゃんが帰ってきてない」って聞いて青ざめた。その時になってようやく僕が鈴ちゃんに置いて行かれたんじゃなくて、僕が鈴ちゃんを置いてきてしまったのだと気がついた。」


 そして3日後、鈴ちゃんは遺体として発見された。祖父の乖里からは


「お前は悪くない。鈴ちゃんの死は事故だったんだ」


 そう告げられた。しかし、千里は決してそんな考えはしなかった。何もかも全て自分が悪いと責めた。自身を責め続けた

 その結果、彼は本来出なければならないであろう鈴ちゃんの葬儀にも出られなかった。鈴ちゃんの両親に責められるのが怖かったのだ。出たら何と言われるのか・・・彼女の両親から「人殺し!」なんて言われるのだろうか・・・幼い千里はそう思い込んで逃げてしまったのだ。さらに鈴ちゃんの両親も葬儀から数日後にこの街を去ったという話を聞いた。やはり、嫌な思い出を忘れたいのと、原因を作った子がいる場所にいたくはなかったのであろう。

 それらは千里自身をさらに追い込む事になった。千里は塞ぎこんでしまった。何日も小学校を休んだ。そして励ましに来た祖父に千里はこう呟いた。


「僕は・・・最低の人間だ・・・・」


 孫から出た言葉を聞いた祖父の乖里もショックを受けた。このまま、乖里も孫のそんな姿を見続けるのは苦しかった。そして、乖里は壱発屋に彼を連れて行き、羅針に頼んで千里の記憶を薬により消したのだ。


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