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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第3章「魔ノ山」(シーズン壱)
37/56

第5話「嫌ナ思イ出」(6)

「そ、そんなことが・・・・」

「・・・・・・」


 現在、壱発屋の店の奥では羅針の指示の元、計里による千里の記憶を復活させる為の薬の調合が行われていた。その間に千里は光太と涼の二人にも電話で教えられた自分が過去にやってしまったとんでもない事を説明した。

 それを聞いて、光太は驚き、涼は何も言わず黙っていた。千里は二人に説明し終わって、俯いて床をじっと見つめていた。すると、店の奥から計里が姿を現した。


「ほらよ、婆ちゃんの指示で作った薬だ」


 彼女は橙色の液体・・・オレンジジュースが入った陶器のマグカップを千里に手渡した。


「オレンジジュース?」

「ああ、なんでも婆ちゃんは昔あんたにこうやって薬を飲ませたんだとよ。もう既にこの中には調合した薬が入れてある。」

「ありがとう、計里」

「本当は薬剤師の資格もないのに薬作るなんて気が引けるけど、婆ちゃんに逆らったらどうなるか分からないからな。私は警察とか法律よりあの人の方が怖いよ」


 そこまで孫娘に言われる砂時羅針とはいかなる女性なのか・・・まだ会ったことない光太は(きっと凄いオニババァなんだろうな・・・)と勝手に想像を膨らませていた。


「さぁ、飲むんだ。一気!一気!一気!」

「・・・いや、ビールじゃないんだからさ・・・・」


 そう、計里に促されて千里は薬の入ったオレンジジュースを飲もうとマグカップに口を付けた時、先程まで羅針と電話する為に使っていた黒電話が鳴った。計里が急いで受話器を手に取り、電話に出た。


「もしもし・・・」

『おお、計里か。薬の調合は終わったか?』


 やはり羅針からの電話だった。既に作業は終了したと計里はそう伝えた。


「無事終わったよ」

『その事なんだけどさぁ・・・間違えちゃった』

「え?」

『薬の調合方法を伝え間違えちゃった・・・赤い粉7:青い粉3の比率じゃなくて、逆だったわ。赤が3:青が7の比率だった』


 計里は受話器を耳に当てたまま、千里のいる方を見た。もう時既に遅し、千里は薬入りオレンジジュースを飲み終わっていた。


『えーと、こういう時はお前ら若い奴の言葉でなんて言うんだっけ・・・?テヘペロって奴?まだあいつ薬飲んでないよな?間に合ったよな?』

「婆ちゃん、それもう少し古い・・・つーか遅い・・・」


 そう計里が電話越しの羅針に言い終わる前に、ジュースを飲んだ千里が苦しみだした。


「ああああああああああああああああああああああ!!!!」


 絶叫をしながら、苦悶の表情を浮かべていた。マグカップを落として、苦しんでいた。幸い、マグカップは割ることなく床に転がったが、それと同じように彼も床を転がりのたうち回っていた。


「千里さん、大丈夫!?」

「千里、おい!千里!?」


 光太と涼は床の上で苦しむ千里を心配していた。千里の大きな絶叫は受話器を通して海外にいる羅針にも伝わったようだ。


『私は知らん。悪いのは計里だ!』


 そう言って羅針は電話を切った。計里は受話器を使って、祖母を呼ぶがもう受話器からは声はまったく聞こえなかった。


(あ、あのババァ!逃げやがった!)


い つもの千里の事が大嫌いな計里なら彼の苦しんでいる姿を見て


「ざまぁないわね!wwwww」


とか某大型匿名掲示板でいう「草生やした状態」で彼のそんな無様な姿を笑う所だが、今回の場合は、自身の作った薬のせいで千里が今にも死にそうな感じで苦しんでいる。なので、今の計里は


(不味い、私もしかして殺人で捕まっちゃう!?殺人容疑で少年A・・・じゃない・・・少女Aとして逮捕されちゃう!?)


「我が身大事」と自身の保身を心配する事を優先していた。オロオロする計里、苦しむ千里を心配する光太達。

 当の本人の千里は苦しみながらも、死にそうになりながらも、なんとか自身の過去を思い出そうとしていた。


(た、頼む・・・・もしここで死ぬとして・・・・死ぬ前にせめて、あの子の事を思い出させてくれ!)


 彼は必死に自分自身の脳とか肉体とか記憶に呼びかけていた。すると一人の少女のシルエットが浮かんできた。しかし、少女の顔はモザイクがかかった状態だった。

 小学生の頃の自分と少女との記憶が彼の頭に蘇ってきた。その記憶が徐々に呼び起こされる事で、彼自身が今味わっている薬の副作用による苦しみもどんどん引いていくのも同時に感じ取っていた。

 そして、彼の消された記憶は復活した。ただ、まだそれは完全ではなかった。薬の調合が正しくなかったせいだろう。記憶の復活・・・それにより、千里の苦しさも大分和らいだ。


「はぁーはぁーはぁーはぁー」


 千里は荒い息遣いを繰り返していた。しかし、それも徐々に収まっていった。


「お、おい・・・お前大丈夫か・・・?」


 涼の言葉に千里は反応した。千里は虚ろの目をしながら、涼を見て


「ああ・・・涼か・・・大丈夫だ・・・・思い出した・・・・ようやく・・・・」


そう力なく答えた。


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