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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第3章「魔ノ山」(シーズン壱)
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第5話「嫌ナ思イ出」(3)

 早先見千里、天野光太、皆川涼の三人は老舗薬局「壱発屋」の店先に立っていた。当然、三人ともあのめんどくさい正規の手順を使ってこの店の目の前に来た。


「さて、入るか・・・でも店主の婆さんは今、海外なんだろ?そしたらどうするんだ?」


 涼がふいにそんな事を千里に質問した。


「ああその事か。婆さんは店にいなくても孫娘の砂時計ちゃんが多分いるだろ?あいつ、婆さんの言いつけでこの店の様子を時々見に来ているらしいからな。多分、今日もいるだろうよ。そしたら彼女に頼んで婆さんに連絡取ってもらうよ」


 千里の言葉を聞いて、「なるほど」と光太と涼は納得した。千里が店の戸を開けて、


「おい!婆さんいるか?いないというのなら、計里、いるのか!計里!いるなら出てこい!」


と乱暴に叫んだ。そう呼ばれて、店舗の奥の暗闇からこの店の店主の可愛い孫娘である砂時計里が姿を現した。彼女は腕にこの店に住み着く化猫・・・九十九を抱き抱えていた。彼女は乱暴に呼ばれたのが感に触ったのか、若干怒った顔をしていた。


「うっさいわね・・・・げぇやっぱ千里じゃん・・・・最悪だわ・・・今日は厄日だわ」


 千里の顔を見て、彼女はあからさまに嫌そうな顔をした。そんな彼女を無視して、千里が無言で店に入った。後に続く形でまず光太が入った。光太の顔を見て、またも嫌そうな顔をした計里がこう言った。


「あら・・・あんたはえーと・・・・・何時ぞやの童貞君じゃん。あんたも来のか・・・」

「ど、どうも・・・・」(俺、名前すらこの子に覚えてもらえていないのか・・・・)


と、光太は美少女に挨拶しつつそんな悲しい自分の性を嘆いた。光太に続いて、涼が店に入った。涼の顔を見て、これまで機嫌が悪そうな計里の顔が笑顔になった。その変化は誰の目から見ても明らかだった。彼女は嬉しそうな声で涼に挨拶した。


「!!!涼先輩じゃないですか!お久しぶりです♥もう、来るなら来るって行ってくださいよ!言ってくれたら、お茶とかお菓子とか手料理を用意して、お迎えしたのに♥」

「よぉ計里、久しぶりだな」


 そう憧れの涼と挨拶しただけなのに計里のテンションは最高潮になっていた。もう天国へ行きそうな勢いで涼にメロメロになっていた。台詞にハートマークまで入っていた。


(おい、俺と千里さんの時と先輩とでは明らかに態度違いすぎるだろ・・・・これが恋する乙女パワーって奴なのか・・・・すげぇな・・・)


 誰が見てもそう取れる、あからさまな彼女の態度の違いを見て、光太は心の中で嘆いたと同時に何故か感心までしてしまった。そんな恋する少女に千里が声をかけた。


「おい、鼻水女!涼にあからさまな媚びを売るのはやめろ!こっちは用事があってここにわざわざ来たんだ」

「誰が鼻水女だ!」


 鼻水女・・・・そう呼ばれてさっきまで機嫌がよかった計里の顔が怒り顔になった。ケンカを売ってきた千里に計里が吠える。


「私がいつ、鼻水を垂らしていたぁ!おっぱい星人よ!ああ!?」

「お前が初代のプリキュアの服を着ていた時だよ!鼻水の計里ちゃん!」

「し、初代のぷ、プリキュア!?何の話だ!?何時の話だよ!?それは!?」

「さっきだよ!」

「さっき!?意味がわからんわ!事情をまず説明しろ!」


 そう彼女に言われて、カクガクしかじかと、何故ここに来のかと理由を千里は計里に説明した。千里の説明を聞き終わった彼女がため息混じりに口を開いた。


「はぁー。そんなどうでもいい夢の内容を確かめに、わざわざここに来たとか、あんたも相当暇人ね~」

「ああそうだよ!悪いか!?なぁ海外にいるお前に婆ちゃんになんとか連絡を取る方法はないのか?」

 

 千里にそう問われて計里は黙った。何かを彼女は考えていた。


「取れないこともないけど・・・・」


 彼女曰く、連絡は取れるらしい。でも明らかに嫌そうな顔をしていた。そんな計里に千里が懇願する。


「頼むよ。婆ちゃんに連絡とってくれよ」

「婆ちゃんに連絡か・・・あの人さぁ、機嫌が悪い時に連絡すると怒るんだもんなぁ・・・怒って私の小遣いとか減らされたら、溜まったもんじゃないよ!色々私にも欲しい物があるんだよ!私の高校、アルバイト禁止だからバイトも出来ないし。お金は貴重なのよ!」


 計里は祖母に連絡するのは渋っていた。自分の祖母を怒らせるかもしれない行為はすなわち、自身の財布の事情にも直結する事を意味していた。彼女の祖母、砂時羅針はそんな心の狭い女だったのか・・・これは千里も知らなかった。


「なるほど・・・・そういう訳か。なら計里は悪くない・・・君には非がないとちゃんと僕が婆ちゃんに説明する。これなら良いだろ?なぁ頼むよ」


と、千里はもう1度彼女にお願いした。今度は頭を彼女に下げてお願いした。そんな普段は自分に対して、無礼な態度ばかりとるおっぱい星人の、こうした腰の引くい態度を計里は見たことがなかった。目を丸くしていた。


「おいおい・・・やっぱおかしいよ。今日のあんた・・・・いつもおかしいけどさ。今日は特におかしいよ。」

「頼むよ!」

「・・・・・・・・・・」


 千里が三度お願いされて計里は黙ってしまった。それでも尚彼女は祖母に電話するのは躊躇っていた。


「でもなぁ・・・・」

「こんなにお願いしてもダメか!」


 千里は目の前にいる計里から目を背けて、背後にいる涼にアイコンタクトをした。涼もその千里からのアイコンタクトの意味を即座に理解した。そして、計里に向かって涼はこう言った。


「頼むよ、計里。千里のためにさ」


 そう言われて、皆川涼に憧れる少女は即座に首を縦に振った。


「まぁ先輩がそういなら仕方がないですね♥千里、婆ちゃんに連絡取ってあげるよ」


 そんな計里の姿を見て、光太はおもわず、大声で叫んでしまった。


「わかりやっす!わかりやっす!君、わかりやすすぎだろ!」

「うっさいわね!童貞!千里、ちょっと待ってな・・・婆さんに連絡するにはあれがいるからね。それ持ってくるわ」


 光太に侮蔑の言葉を発して、彼女は何かを取りに店の奥にある母屋の方へ消えていった。しばし、経って彼女が持ってきたのは古い電話だった。今では絶滅危惧種と言ってもいいダイヤル式の黒電話だ。ただし、何故かそれには電話線はついていなかった。


「電話線はついてないけど、婆ちゃんにはこれでしか連絡取れないんだ」


 そう持ってきた計里は言った。千里は納得したような顔をしていた。だが、電話線はない上に、これでしか羅針には連絡取れないとはどういう意味なのかと・・・納得がいかない。そう、涼と光太は思ったが、この店自体も色々と納得がいかない存在なのでそういう物なのだろうと、二人はそれを受け入れる事にした。


「えーと婆ちゃんの連絡先は・・・・」


 計里は黒電話のダイヤルを回し始めた。祖母の連絡先の番号を回し終わった彼女は、電話の受話器を千里に渡した。


「ほれ・・・・あとはあんたが自分の口で説明しな」


 そう言われた無言で千里は受話器を受け取った。彼の耳には「ぷるるーぷるるー」とコール音が入ってきた。何回かそのコール音が繰り返された後に、ようやく連絡した相手が出た。


『はい、もしもし・・・』


 女の声が聞こえてきた。それは千里も幼い頃から何回も会っている、計里の祖母、砂時羅針の声だった。


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