第4話「嫌ナ汗」(5)
先週の金曜日に真野山の行方不明になった大石春美の捜索は今日も行われた。高山もそれに協力する形で捜索隊に加わった。しかし、結局この日は彼女の行方どころか、手掛かりも掴めずにいた。 一部からは「もうこの山にはいないのではないか」との声も上がっていた。
高山も現場に聞き、色々調べたが結局何一つ分からず仕舞いだった。もちろん木原景子に関することも分からなかった。
分かったことといえば、大石春美が行方不明当時に、一緒にいた友人である辻智子が「UFOらしき物を見た」とか言っていたらしいとの事ぐらいだった。
「だから、UFOなんて有り得ないですって」
捜索隊の人間から冗談交じりそんな話を聞いて高山はそう否定した。そうUFOなんてありえないのだ・・・何かの見間違いだ。そんな事をしている内にやはり、何も分からずに夕方になり本日の捜索は一旦お開きになった。
行方不明から3日経過したが、一応、今現在はマスコミには報道を規制をかけていたので、当然、ニュースなどではやらずに千里たちの耳には入っていなかった。千里は高山の話を聞いて、天井を見上げながら何かを考えていた。
「へぇそうなんですか・・・・女子高生が行方不明・・・・。まぁそれも大事なんですけど、木原景子の件はどうなったんですか?彼女亡くなったって聞きましたよ」
「涼が話したのか?あいつ余計なことを・・・」
千里からは木原景子の件を聞いていなかった光太は驚いていた。
「え!?あの人、死んじゃったんですか?なにか分かったことありました?」
「・・・・・・・」
高山は黙った。正直何一つ、わかっていないから答えようがない。高山が現在着ている黒いスーツは実は喪服だった。今はネクタイを外しているのでわかりづらいが、今日は木原景子の通夜に向かった足でこの早先見家に来ていた。娘を亡くしたばかりである木原家の両親には自分が刑事である事は伏せながら、通夜には参列してきた。悲しみにくれる木原景子の両親の姿を見て、
「行方不明になった女子高生の親御さんにはあんな思いをさせてはならない・・・・」
と決意して、千里に捜査協力を申し出た。
「まぁ色々と事情があってな・・・死者より、生者って訳じゃないってのは理解して欲しい。今はこっちの捜査を優先したいんだ。頼む協力してくれ」
再度、高山は頭を下げた。千里は天井を見たまま唸っている。
「うーん・・・捜査協力してあげたいっていう思いもあるんですけど、何か今回は調子が悪いというか・・・」
「何だと?調子が悪いのか?以前言っていたスイッチが入らないとかの問題か?それなら何時ぞやの時みたいに涼にぶん殴ってもらってスイッチとやらを入れてもらうか?」
「そういう訳じゃないんです・・・・なんというか・・・乗り気とかやる気が入らないっていうか・・・・」
「乗り気とかやる気の問題だと!?」
自身の調子が悪いのではなく、モチベーションの面の問題と聞いて高山はイライラしてしまった。渋る千里の姿を見て光太は「この人、やっぱ真野山に関わりたくないのかな?」と考えた。
「怒らないでくださいよ!確かに僕には妙な力がありますよ。そんな力を頼りにしてくれているのも理解できますし、嬉しいという面もありますよ。でもね、こっちにも色々事情あるんですよ。それに他にはいないんですか?僕だけなんですか?こういうこと出来る奴は?」
「「他にはいないのか?」とか「こういうこと出来る奴」とは、どういう意味だ?」
「僕以外のこういう力がある奴とか、凄い奴とか探偵とかがいないのか・・・という意味ですよ。ほら例えば・・・原作小説だと佐野史郎がモデルのはずなのに、何故かドラマ版だと配役が福山雅治になっちゃった天才物理学者とか、「あのー犯人、分かっちゃったんですけど」が決め台詞の東大出身の天才女刑事とか、かの有名な名探偵のお孫さんの高校生とか!」
千里はどこかで聞いたことあるような探偵みたいな人物達の特徴を上げた。それを聞いて高山は吠えた。
「そんな、福山雅治顔の物理学者様も、中谷美紀の顔した女刑事様も、堂本剛顔の高校生探偵様もいない!俺が知っているのはお化け屋敷に住んでいる超能力が使えるおっぱい星人ぐらいだ!そんな奴らがいたら、お前じゃなくてそいつらに頼ってるよ!」
千里は目の前の刑事の吠え声を聞いて何が可笑しいのか少し笑いながら返した。
「高山さん、古いですね・・・今の金田一一はHey! Say! JUMPの山田君ですよ」
「え!?へいせいじゃんぷの山田君!?誰だよ、そいつは!?金田一一といえば堂本剛じゃないのか!?」
高山は現在の金田一一のキャストを知らなくて驚愕した。彼の頭の中では小学生の頃、大好きだった金田一一といえば堂本剛で決まっていた。
「あーでも、松潤版と亀梨版の金田一少年とかもありましたね」
光太まで金田一少年談義に参加してきた。その2つのバージョンの名を聞いて千里は何故か悲しげな顔をした。
「ああ・・・そんなのもあったね。でも僕はやっぱり堂本版が一番かな・・・」
「松潤版は聞いたことあるけど、亀梨版なんてあるのか!?そんなのもあるのか・・・知らなかった・・・って!だから、俺はお前と推理ドラマとか金田一少年の事件簿とかを語りに来たわけでもねーよ!いい加減にしろよ!貴様ぁ!」
だんだんと高山の怖顔が千里への怒りと苛つきで、それを超えたスーパー怖顔マンに変化しているような感じにも光太には思えた。(こりゃあ・・・不味い!)と彼は即座に判断し、高山を援護するような事を言った。
「千里さん、もういい加減にしましょうよ!高山さんもこんだけお願いしているし、その行方不明になった女子高生の為にも力貸してあげてくださいよ!」
「・・・・それもそうだな・・・仕方がないな。その女子高生の為に協力しましょう」
光太の言葉で千里は頷いた。




