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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第2章「お化け屋敷での新生活」(シーズン壱)
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第3話「壱発屋」(9)

 千里と計里が争いを初めて、15分後・・・・・。


「・・・・・まぁ・・・この店は半分、非合法みたいな場所だけどさぁ、どうせ婆さんの作ったあの変なシステムのせいで警察なんかも来ることもないだろうよ。僕と君は昔馴染みだし、売ってくれよ。別に麻薬とか大麻とか、違法薬物を売ってくれとか言ってないよ。ただの風邪薬が欲しいだけだよ。僕が風邪で大学休んだら、涼の機嫌も悪くなるんだよ。そんなの君も嫌だろ?」

「え・・・涼先輩の機嫌が・・・?」

「そうだよ。それに僕もここの店の昔からの常連で、大切にしているから通報なんてしないよ。例え、何かの間違いでバレちゃって万が一、警察が「法律違反だ!」とか文句言って来たとしても、婆さんの力でどうにか出来るんだろ?」(ハクション)

「・・・・・・・わかった・・・・仕方がないな・・・・・ちょっと待っていな!」


 千里の長い説得の言葉とクシャミを聞いて、ようやく計里が重い腰を上げた。計里は怒りで鬼の形相になっていた彼女の顔は、元の美少女顔へと戻っていた。彼女の中から怒りは消滅していた。そして店の奥へと消えていった。そして店の奥から彼女の声が聞こえてきた。声も可愛らしい物に戻っていた。


「風邪薬でいいんだよなー?」

「ああそうだよ・・・・ついでに傷薬も頼むよ。軟膏みたいな感じの奴!」

 

 千里の身体は計里にボコボコに殴られて、全身傷だらけや打撲だらけのボロボロになっていた。顔もパンパンに腫れていた。先ほどまで彼が身に付けていたマスクが、自身の血で白色から真っ赤に変色してしまっていた。そして、それは千里の足元でボロ雑巾のようになって落ちて転がっていた。(対する計里は完全なる無傷だったが。)

光太はそんな千里を見て、(なんでこの人、ただの風邪薬を買いに来ただけなのに、さらに重症になっているのさ!?)と思った。



「ふう・・・・すっきりした・・・・!」


 計里が出した、風邪薬と傷薬により、千里の風邪と身体のダメージは完治した。

風邪が治ったというのは目で見てわからないが、千里が自分自身の全身にベトベトと塗った傷薬により、計里とのケンカによって負った彼の体中の傷がすぐに癒えていったのは光太の目にも見て取れた。


「うわ・・・凄い!どうなっているの!?」

「なぁ?凄いだろ!さすが壱発屋という名は伊達じゃないな」


 光太も千里も薬の絶大的な効果に感動の声を上げていた。


「ほら、これでいいだろ?治ったなら早く帰りな」

「ああそうだな」

 

 計里が「これであんたらの目的達成しただろ」と言うような感じで彼らを帰るように促した。


「そうですね。これで明日の講義にも行けますね」

 

 そんな事を光太が言い出したせいで、千里は顔をしかめた。


「嫌な事思い出させるな・・・・君は」

「そのためにここに来たんでしょうが!」

「ああ、そうだ。計里さ、この光太もこの店を今度、利用できるようにしておいてよ。」

 

 怒る光太を無視して、この店の美少女に向かって千里はそう言った。


「ああ、そう。わかったよ。えーと名前は・・・・童貞君でいいの?」

「天野光太です!あ、ま、の、こ、う、た!」


 光太は強めの口調で自分自身の名前をしっかり、計里に伝えた。


「はいはい・・・・じゃあ、涼先輩にもよろしくね」

『じゃあな、千里と童貞ボーイ!』


 店を出ようとした彼らは計里の声に続いて、九十九のテレパシーが聞こえたので振り返った。先ほどまでいなかったはずの化猫が計里の足元にいて尻尾をなびかせていた。どうやって消したのか、先ほどまであったはずの額の「肉」の字は既に消えていた。



(・・・・俺って今日は化猫と可愛い女の子にまで童貞扱いされちゃったんだよな・・・・)

 そんな悲しい事を考えながら光太が帰り道を歩いていた時だ。一緒に歩いていた千里が立ち止まって壱発屋の方向を振り向いて見ていた。光太がそんな千里に向かって声をかけた。


「どうしたんですか?」

「近いうちにまた壱発屋に行かなきゃならないかもしれない・・・・」

「それどういう意味です?またなんか風邪でも引くんです?」

「いや・・・そういう意味じゃない・・・でも何故かそういう気がするだけだ・・・・」

「?」


 光太には千里の言葉の意味がわかっていなかった。しかし、それを言った千里にも何故自分がそんな事を言ったのか、この時はまだよくわかっていなかった。




 その夜の事である。彼らは二人、居間で夕飯を食べ終わった。


「光太の作った、オムライス。美味しかったよ。ホント、君は良い主夫になれるかもよ」

「いやーそんな・・・・」


 またも千里は光太の手料理を褒めていた。光太も満更ではないような感じで照れていた。光太が食器を下げようとした時だ。電源が入ったままになっていた居間のテレビから知っている場所の名前が聞こえてきた。


『GWスペシャル!緊急特番!UFOのメッカ 真野山の謎に迫る!』


 そんなニュースキャスター男性のナレーションがテレビから聞こえきた。


「真野山・・・・」


 光太には数日前、高山から聞いた話を思い出した・・・F大学からも見えるその山はオカルトスポットであり、UFOスポットで有名だった。そして、彼の大学で事件を起こして、現在も謎の昏睡状態で入院中の木原景子がそこで2月に不思議な体験をしたという・・・・


「千里さん、真野山だって・・・・」


 そう言って彼は千里と話をしようとしたが、千里は


「ああ・・・明日は講義があるからね。もうお風呂入らなきゃね!」


とまるでその場から逃げるかのごとく、部屋から出て行った。千里がお風呂に入りに部屋から出ていき、一人部屋に残された光太。

 光太は考えた・・・「もしかして、千里は「真野山」の話題を避けている・・・?」

 数日前に高山が話した、真野山関連の話を聞き終わった時も彼の手は震えているように見えた。まるで何かに怯えているような感じに光太には思えた。

 千里が怯えていたといえば、4月の事件で木原景子が血まみれになった時に発した「神の声」という謎のメッセージ。それを耳にした時の彼も酷く狼狽してるような風に光太には見えた。

 「真野山」・・・・「神の声」・・・・・一体、何がそんなに千里を怖がらせているのか・・・・

そんな事を光太がいろいろと考えていた時だ・・・・


「ぎゃあああああああああああああ!!!」



 千里の悲鳴が聞こえてきた。何が起きたというのか。


「千里さん!?」光太は慌てて、悲鳴を発した本人がいる風呂場に向かった。


「千里さん!?どうしたの!?大丈夫!?」


 風呂場に駆けつけた光太。屋敷の主を心配する。しかし、当の本人は何故か、苦しそうな顔をしては湯舟で身体を温めていた。


「いやぁ・・・・一応薬で完治したのかと思ってたけどさぁ・・・計里に殴られた所がお風呂に入ったら染みちゃってね・・・・」

「ああ・・・それで絶叫したんですか・・・・」


 光太は拍子抜けして、呆れながら風呂場を出た。そしてこう呟いた、


「自分の考え過ぎかも・・・・・」


 こうして、彼らのGW最終日は終わったのであった。



第3話「壱発屋」 〈了〉

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