第3話「壱発屋」(8)
二人の否定的な言葉を聞いて、再度、計里が彼らに確認をした。
「そういう関係じゃないの?本当に?」
「ない!ない!絶対ない!!」
「そうだよ!ノンケだよ僕らは!!それにね、僕は将来おっぱい大きな美人をお嫁さんに貰う予定だからね!」
光太と千里が二人がかりで、計里の言葉を否定した。さりげなく千里は何故か自身の将来の展望まで語っていた。
「まぁそうだよね・・・有り得ないわね・・・でもさぁなんで同居することになったのよ?言い出しっぺはどっちさ?誰よ、そんな千里と同居なんてキモイこと言いだしたのは?」
「キモイって言いすぎだよ!それに言い出しっぺは僕たちじゃなくて、涼だよ」
千里の返事を聞いて、少女の様子が変化した。明らかにさっきまでとは様子おかしくなった。
「!?涼って皆川涼先輩!?」
「ああ、そうだよ。君もよく知っている涼だよ。他に誰がいるのさ?」
計里は涼とも顔見知りだったようだ。涼の名を聞いて、計里は何故か嬉しそうな顔をしていた。
「・・・・・先輩がそう言ったの?その同居の言い出しっぺなの?」
「そうだよ。細かいところは端折るけど、光太はF大学の近くに一人暮らしするために部屋とか探していたんだ・・・でもね、なかなか良い部屋が見つからなくて、見かねた涼が僕との同居を提案したのさ。そして、いろいろあって同居する事になったのさ。ほら、僕の家、大学のすぐそばだろ?」
「そうなの?それで千里なんかと同居をすることに・・・・?」
千里の説明を聞いて彼女は光太を見つめた。光太は「その通りです」という台詞の代わりに頷いた。すると計里は
「・・・・・・よく考えたら、素敵な提案じゃない。困っている後輩のために動いてやるなんて涼先輩って優しいのね」
先程の台詞とはまったく違う台詞を出した。光太はそんな美少女の姿を見て呆気に取られた。
(オイ!さっきと言っていること全く違うじゃないか!皆川先輩の名前を聞いた途端に明らかに態度が変わったぞ!この子!)心の中でそう叫んだ。そんな光太を見て計里はこうも言った。
「あんた・・・じゃなくて、あなたも涼先輩の知り合いなのね・・・・よく見れば、その・・・・なんというか・・・女性とあまりご縁がないようなお顔をしているじゃないですか!」
「おい!君、さっきと同じような台詞がなんか上品っぽくなっただけで、意味はまったく何一つ変わってないぞ!結局、貶しているだけじゃないか!」
光太が抗議の声を出すが、計里はまるでその言葉を聞いちゃいないような感じだった。彼女には彼の叫びが耳に入っていなかった。何故かうっとりとしたような感じで
「涼先輩・・・やっぱり良いわ~」
と嬉しそうな声を出していた。そんな少女に光太が質問した。
「君も皆川先輩とは知り合いなのか?」
「モチのロンよ!あの人、カッコイイじゃない!」
「カッコイイ・・・・か・・・・」
カッコイイ・・・その言葉に光太に何故か若干、違和感を覚えた。確かに、あの人・・・・皆川涼は整った顔もしているし、面倒見の良い性格もしているおかげで、光太だけに限らず、他の後輩達にも慕われている人気者だ。先輩や同級生、大学の講師達からも信頼されていた。かなり、強引な性格もしているのと・・・・妙な知り合いが多いのがあれだが。でも何故かカッコイイとは違うようなイメージが頭の中にあった。
「あの人はなんつーか、カッコイイというより・・・強引・・・良く言うと大胆・・・野生的つーか・・・ワイルド?」
「そうだな。涼はカッコイイというより、ワイルドマンって感じだな!時々、あいつが元気なゴリラとかに見える時がある。」
「ああ!確かにそうかも!」
ここに涼本人がいない事を良いことに、光太と千里が好き放題言い出した。それを聞いた計里は
「何言っているのよ!あんたたちは!あの涼先輩の特有のワイルドさ!そこがまた良いんじゃない。わかってないわね。これだから、童貞とおっぱい星人は困るわね!」
とそんな二人を咎めた。
「ど、童貞・・・・!」
「お、おっぱい星人・・・・・!」
そんな風に年下の少女に言われると思ってみなかった。大学生2名は固まってしまった。
「そういえば、あんたたち、ここに来た目的はなんなのよ?わざわざ、涼先輩の話をしに来たわけじゃないでしょ?」
計里の言葉で、千里はここに来た当初の目的を思い出した。
「ああ、そうだった・・・見ての通り、風邪をひいたから薬を売ってくれよ。婆さん特製の万能薬!ほらカモーン!」
「え・・・まぁ一応在庫とかあるし、売ってやってもいいけどさぁ。婆ちゃんが海外遊びに行っちゃったもんで、見ての通り、この店、休業状態なんだよね・・・・。ほら私、まだ高校生で薬剤師の資格無いしなぁ・・・」
計里は少し困った顔をしながらそう言った。千里がそれを聞いて機嫌悪く舌打ちした。
「チッ!薬剤師の資格がないから売る資格ないだと・・・・」
「仕方がないだろ!法律でそう決まっているんだからさ!」
「ああもう!・・・・ないのは胸ぐらいにしておけよ・・・このペチャパイ」
機嫌を損ねた千里が彼女に向けて発したある台詞のせいで、場の空気が一変した。
(ペチャパイ・・・・)千里のその言葉を聞いて、光太は思わず計里の身体を観察してしまった。確かに目の前の可愛らしい少女の小さな身体は今着ている制服であるセーラー服の上からも見て分かるとおり・・・・全くの膨らみがなかった・・・。綺麗な真平のような・・・・生板のような胸という感じ・・・と表現すべきか。
千里に自分自身でも気にしている、残酷な事実を指摘された彼女は怒りで小さな身体を震わせていた。どんどんと可愛らしい美少女の顔が鬼のような形相へと変貌していった。
「てめえええええええええええええ!!今なんつったああああああああああ!!」
計里が大きな声で吠えてが千里に飛びかかり掴みかかった。もはや完全に顔は光太が昔、絵本で見た妖怪・鬼ババァのようになっていた。さっきまでのSっ気はあるが、どこか可愛らしいかった声もドスの聞いた声になっていた。そんな彼女の姿は全くの別人のようにも見えた。
計里と千里が激しく、お互いを掴みながら、口論を開始した。その様子が光太には特撮映画の怪獣同士による凄まじいバトルシーンのようにも見えた。
「誰があああああペチャパイだああああああああ!!オラアアアアア!!!」
「本当の事だろうが!!なんで婆ちゃんの薬で大きくしてもらわなかったんだよ!!「ルパン三世」の峰不二子みたいな感じにさぁ!!」
「薬なんかに頼るかよ!いつか自然と大きくなるはずだったんだよ!!もしかしたら、これから、そうなるかもしれないだろうがああああ!!!ルパンもゾッコンの峰不二子になれるかもしれないだろうが!!!」
「残念だけど、僕の見立てでは、君の成長期はもう既に終わってしまったはずだ!これ以上発育することはないだろうよ!もう自力で不二子になることは不可能だ!ずっと一生このままの幼児体型だよ!ルパンにも見向きされない!まぁロリコンには受けがいいかもしれないがな!」
「ルパンに相手にされなくてもなぁ、不二子にはなれなくても良い!!でもなぁ、お前だけは絶対何があってもぶっ殺す!お前も殺して、ロリコンなんてこの世界から全員まとめて消す!ぶっ殺してやるよ!!ゴオラアアアアアア!!」
「それに僕だけじゃなくて、恐らく世界中の人間に君の写真とかを見せて、インタビューしたら、全員中、全員が君の事を見てペチャパイってコメントを言うだろうよ!!」
「ああ!?じゃあ私がそいつらも全員まとめて皆殺ししてやるよ!!ルパンばりにそいつらの全員分の命を盗んでやるよ!オラアアアア!!!」
「そ、それはもう、「命を盗む」じゃなくて「命を奪う」だろ!!!!君はルパンとゴルゴを一緒にしてないか!?」
「どっちも似たようなもんだ!!!本当は違うだろうけど、今そんなことどうでもいいだろうが!!!とにかく全員殺してやるよ!!オラアアアアアアア!!」
千里に「峰不二子(ような体型)になることは不可能」と宣言されてしまった少女・・・計里は激しい怒りで「全人類抹殺宣言」などと恐ろしい事を言い出した。現在の彼女はまさに「我を忘れた」というような言葉がぴったりな姿だった・・・。千里に殴りかかり、激しく吠え続けている。そんな光景を見て、光太は「ヒッ・・・!」と後退り、恐怖した。




