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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第2章「お化け屋敷での新生活」(シーズン壱)
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第3話「壱発屋」(7)

「おい!嘘だろ!?」


 再び、目的地の場所に来ていた。今度は光太が驚きの声を上げ、腰を抜かしそうになっていた。先ほどまでは空地だった場所には、光太のイメージした通りの早先見家の屋敷と良い勝負をするぐらい、お化け屋敷というような木造の古い店が立っていたのだ。


「どうだ?驚いただろ?」

「ええ・・・でもどうして?」


 千里にそう言われて光太は実はさっき来た場所とは全く違う場所・・・とも考えて周囲を見渡し、確認してみるがそんなことは全くなかった。さっきと完全に同じ場所に来ていた。唯一違うのは、やはり突然現れた目の前のいかにも古臭い店だった。店の上の方には木製の大きな看板があった。デカデカと「 屋 発 壱 」と書いてあった。横書きが右から左になっているので、戦前からあるのではないかと思われる雰囲気も感じた。


「名前が壱発屋って・・・名前からしてそりゃあ凄い効きそうな薬置いてありそうだけど・・・」

 

光太は頭上にある看板を見つめて、そう呟いた。


「この店を作った婆さんがかなりめんどくさい人でね・・・・なんでかは理由は忘れたけど、電車で一旦最寄りの駅に来た上で、ここに来ないと辿り付けない・・・一言で言うと「正規の方法でないとここに辿りつけない」とか面倒くさい仕組みを作ったんだよ(ハクション)」

「はぁ?」


 千里のクシャミまじりの説明を聞いても、光太はよく分からなかった・・・そんなおかしな魔法みたいな仕組みを構築できる店を作った人間がこの世に存在するというのか・・・そしてその人間は、いかなる人物だというのか・・・。

(そんなことできる人間がいるなら「魔女」じゃないのか・・・化猫の次は魔女か・・・・)

 光太はそんな事を考えた。店の店主のイメージが和服の妖怪・砂かけババァから、黒いローブを着た老魔女へとまた変異した。


「確かに化猫の飼い主は魔女っていう話はよく聞きますけど・・・・」

「まぁとにかく入ろう」


 店の今時珍しい、戸を引いて開けるタイプだった。千里が戸を開け、店に入った。光太もそれに続く。店の中は薄暗かった。光太は辺りを見回した。店内には棚がいくつかあったが何も入ってなかった。本当にここは店なのか?とも光太は思った。天井を見るといたるところに蜘蛛の巣もあった。実はとっくの昔に潰れていて、千里がそれを知らないだけじゃないのか?とも思った。

 千里の肩に乗っていた九十九が、そこから飛び降りた。


『タクシー代わり、ご苦労さん、あばよ!』


 そう九十九は千里と光太にテレパシーで呼びかけて店の奥へと消えていった。九十九が消えていったのと同じ方向に向かって千里が声を発する。


「婆さーん!いるー?」

「いないよー」


 千里の問いに店の奥の方の暗闇から何者かの声が聞こえてきた。本当に誰もいないなら返事が返ってくるはずはない。何者かがここにいるという事だ。

 暗闇から誰かが近づいてきた。光太は恐怖で「マジで魔女か!?」と身構えしまった・・・・。光太の体には変な汗まで流れ始めてきた。そして、その暗闇の中の人物は千里に向かって


「婆ちゃんならいないよ」


と返した。そこには光太の想像した妖怪・砂かけババァや老魔女などいなかった。暗闇の中にいたのは紺色のセーラー服を着た黒髪が腰のところまで伸びた可愛らしい、背が小さい超絶美少女が立っていた。

(すげぇ可愛い子だ・・・・)

 光太はその少女におもわず見蕩れてしまった。千里が彼女を見て


「なんだよ婆さんいないのかよ・・・しかもお前かよ・・・ちびっ子」(ハクション)


と呟いてクシャミした。


「人に向かって、お前とかちびっ子とか失礼だろ!しかもあんたは・・・うわぁマスクしているから一瞬わからなかったけど、千里じゃん!?うわー!ショックあんたなんかとGW最終日に会うなんて超最悪!」


 少女が千里の顔を見て、睨みつけて、さらに苦虫を噛み潰したような顔でそう叫んだ。どうやら千里とこの美少女は知り合いらしい。


「婆さん、いないの?(ハクション)」

「知っての通りいないよ。あんたも知っているじゃないの?」

「ああ、今も海外飛び回っているの?良い年こいて元気だねぇ」

「まぁあの人はいろいろ特殊だからねぇ・・・」

 

 千里と少女の言葉から察するにこの店の本当の店主は現在、不在で海外らしい。少女が千里の姿と状態を見て彼に質問した。


「マスクしているし、クシャミしてるのは風邪引いたの?」

「ああそうだよ・・・見ての通りさ(ハクション!)」

「ざまぁないわね!」


 少女は千里が風邪ひいたとの事実を知って、少し嬉しそうな感じでそう言った。


「千里さん、この子誰?」


 さっきまで黙っていた光太が千里に少女の事を問う。


「ああ、この子は砂時計すなどけいちゃん。この家の婆さんの孫で、僕の遠い親戚さ! (ハクション!)」


 (・・・・・うん?聞き間違いか?今、「すなどけい」って言ったか?)


「はぁ?」

「だから砂時計ちゃん」

砂時計すなどけいじゃない!砂時さどき 計里はかりだ!」

 

 目の前の少女が千里に向かって怒鳴った。


「似たようなもんだろ!」

「似てない!長い付き合いなのに間違えるな!私はそう名前を間違えられるのが一番嫌いなんだよ!お前も知っているだろ!まったくなんでこんな変な名前を私に付けたのさ!」

 

 少女・・・砂時 計里が千里に向かって抗議の声を出して、自分の名前が変であることを嘆いた。(光太も彼女の名前を聞いて正直、変な名前だと思った。)計里は千里をまたも睨みつけた。千里も負けまいと彼女に反論する。


「僕に文句言っても仕方がないだろ!文句あるなら、お前の婆さんに言えよ。名付け親は確か婆さんだろ?(ハクション)」

「そりゃあそうだけどさぁ・・・そういえば、そいつ誰?」


 計里は光太の方を見た。女の子慣れしていない光太は美少女に見つめられて心臓の鼓動が高鳴ってしまった。可愛い子と視線が出会い、頬も紅潮してしまった。胸がドキドキした。だが、そんな高鳴る胸の鼓動の息の根を止めるようなセリフを少女は発した。


「千里、こいつなにさ?このいかにも生まれてこの方女と縁のなさそうな顔をしている男は?」


 光太はさっきまで高鳴っていた鼓童が急に消えていくような感じがした。

(・・・この子もそんなネタで俺のことを馬鹿にする・・・もしかして俺ってみんなからそんな風に見られているのか・・・?)


 計里は、見た目はかなり美少女だが、口は相当悪かった。そんな辛い現実を美少女にまで言われて光太は悲しくなった。


「こいつは天野光太君さ (ハクション!)」


 そう千里が光太を計里に紹介し、またもクシャミした。光太は「天野光太です」とおもわず、年下と思われる少女に敬語で頭を下げた。


「ふーん・・・千里とどういう関係?お友達?ああ、でも千里って性格悪いし、友達少ないからそれはないか?」


 またも辛辣なコメントを出す計里。光太はそんな彼女を見て(可愛いけど、この子絶対性格悪そう・・・)と思った。


「・・・まぁそのなんというか・・・・」


 光太が説明しようとするが、少し躊躇した。変人である千里と実は現在、同居していると知られたら、目の前の口の悪い美少女になんて言われるか恐ろしかったからだ。

(あの顔怖いけど優しい高山さんにでさえ、あんな反応されたしなぁ・・・)数日前の出来事を光太は思い返して、彼は震えた。しかし、そんな光太の心配なんてお構いなしに千里が話した。


「彼と僕は同じ大学さ。学年は一つ僕が上だけど。この度、彼と同居することになってね」

「!?あの千里さん、そこはもう少しオブラートにですね・・・」

「だって、本当のことだろう?(ハクション!)」

(まぁそれはそうだけどさぁ・・・)


 光太は計里を見た。計里は千里の言葉の意味がわからないって顔をしていた。そして叫んだ。


「・・・・・はぁ!?同居!?誰と?あんたと千里が?」


 光太は観念して、小さくコクりと彼女に向かって頷いた。事実だし、肯定するしかなかった。隠したり、否定していても遅かれ早かれバレるだろうと、なんとなく思った。それを見て彼女は「いやいやいやいやいや・・・」と震え出した。そして二人を睨みつけて、


「キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ・・・」


 まるでなにかの魔法の呪文のような感じで「キモイ」という単語を連呼した。光太からしてみれば彼女の反応は予想通りだった。・・・少し予想よりオーバーしていたが。


「キモイなんて言葉使うんじゃありません!お父さん悲しいよ!」


 そんな彼女の反応を見て、千里が計里を咎めた。


「あんたは私のお父さんじゃないだろ!あんたが私のお父さんなんて輪廻転生してもありえないわよ!地獄に堕ちろ!」


 計里が千里に向かって吠えた。そして、彼女は汚物を見るような感じでもう1度目の前の二人を見た。


「キモイって言ったのは勘違いしないでよ!そういうのは本人達の自由だし。別に馬鹿にしてるとかじゃないから!千里みたいな奴と同居するからキモイって言ったのよ!」

「それひどくないか!?あと、本人たちの自由とか馬鹿にしてる訳じゃないとはどういう意味合いだよ!?」


 千里の抗議を無視して計里は口を開いた。


「・・・・あれ?あれなの?そのなんていうの?男同士で一つ屋根の下とか・・・・今風に言うとボーイズラブとか?ストレートにいうとホモなの?ゲイなの?そりゃあ私の友達にはそういうの好きな奴も少なからずいるけどさぁ・・・でも言っておくけど私にはそういう趣味ないから!馬鹿にするわけじゃないけど、まぁそういうのは本人同士の自由なんだけど・・・理解できないつーか・・・」


 そう目の前の少女に指摘されて、光太の中には衝撃が走った。男同士で一つ屋根の下で二人で住む・・・という事はそういうことなのか・・・そう思われても仕方がないのか・・・考えてもいなかった。今の時代そういうのが好きという輩が存在するということも知っていたし、同性愛者の問題に関するニュースをよくやっているが・・・。千里の方を見た。あちらも光太の方を見ていた。

 しばし、男ふたりで見つめ合うような状況になってしまった。沈黙がその場を支配した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「千里さん・・・・」

「光太・・・・・」


 お互いに名前まで呼び合ってしまった。そして二人顔を見合わせて同時に


「「ないわー!」」


と口を開いた。


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