第3話「壱発屋」(6)
「あれ?な、ない・・・・!?」
千里が目的地に着いてそう言った。屋敷から南へ15分程歩いたところに来ていた。そこにはざっと見て100坪程の空地があり、立ち入り禁止との看板もあった。両隣には普通の家屋があり、それに挟まれるような形になっていた。
「え?もしかして潰れたんじゃないですか?場所を間違えたとか?」
看板と空地を見ながら千里にそう光太が質問した。
「そんな訳はない!あの店は潰れることはない!場所もここで合ってる・・・・・あ!もしかして・・・!じいさん!」
何かに気づいたのか千里が肩にいる黒猫に向かって声をかけた。黒猫が嬉しそうな感じで『ニャー』と鳴いた。
『くくくく・・・そのまさかよ!』
九十九がテレパシーで語りかけてきた。何がおかしいのか若干愉快そうな声でそう言った。
「酷いな!そうなら、ここに来る途中で教えてくれれば良かったのに・・・・」
『お前が、忘れるから悪いんだろ!ガキの頃から何回もあの店には行ってるくせに!』
「あの・・・どういう意味なんです?」
千里と九十九のやり取りの意味がまったく分からない光太が質問した。
「・・・・ああ、あの店はねぇ・・・実は正規な道順というか・・・ある正式な方法で行かないと辿り着けないというか・・・・・」
「はぁ?」
光太には千里の言葉の意味がまったくわからなかった。納得がいかない顔をしていた。
(正式な方法でしか行けない店ってなんだよ!?)
「まぁ最初は意味が分からないってのも理解できるよ。でもそういう店なんだよ。久しぶりに来たせいで忘れてた」
「はぁ・・・・?」
(うーん、まったくわからない!)
「とりあえず元来た道を引き返そう」
そう言って千里は元来た道を、再び歩き始めた。光太も仕方がなく千里について行く。どんどん歩いて、とうとう屋敷まで戻ってきてしまった。しかし、千里は屋敷を通り過ぎた。さらに歩いていく。そして、ついに光太と千里が通っているF大学をも通り過ぎてしまった。
「ちょっと、千里さん?どこまで行くんです?」
「駅だよ。駅!(ハクション)」
クシャミしながらそう千里はそう光太に返した。
「え?駅?」
F大学から歩いて5分ぐらいの所に最寄りの駅がある。光太も4月末までは通学に利用していた。だが、こうして大学近くの屋敷に引っ越してきたのだから、今後は利用回数が大幅に減るはずだが。
「駅がどうして?」
「電子マネーカード持ってるよね?」
「ええ。電車乗るんです?」
「そうだよ」
駅に向かって歩きながら千里が「当然そうだろ」というような感じでそう言った。
(ますますわからない)
駅に来た。改札口前で一旦、千里は肩に乗せていた九十九を地面に置いて語りかけた。
「じいさん、悪いけど、あんた猫だからね。駅員さんとかに見つかったら色々メンドくさいから、ちょっとここで待っていてね」
『ちっ・・・仕方がないな・・・』
「そこらへんのメス猫をナンパしちゃダメよ」
『しねーよ!早くしろ!』
そう言って千里は電子マネーカードを改札機に通して、改札口を通った。光太は
(え?マジで電車のるの!?)
とその様子を呆気にとられて見ていた。
「どうした?光太?早くしなよ」
改札口を既に通った千里がそう言ってきた。(なんか納得いかないな・・・・)と思いながら光太も改札口を通った。千里は壁に設置してある時刻表示を見た。
「うーん、もうすぐ来る電車があるな。それでいいか」
下り線の方のホームへと移動する二人。
「マジで電車乗るんですか?」
「ああそうだ。そして正直、電車はどれに乗ってもでもいい。この駅以外の駅に一旦行く必要がある。」
「???」(意味が本当にわからん!)
混乱しながらも千里と同様にホームに来た電車に乗る光太。発進した電車の中で千里は
「すぐに降りるからね」
と光太に告げた。その言葉とおり、千里は隣の駅で降りた。光太もそれにあとに続く。そして二人でその駅の改札口を通った。
「よし、これで準備は整った。本当に行くのが面倒くさい店だな(ハクション!)」
「ここで何をするんです?」
「まずは取り合えず、改札口の前で一礼するんだ」
千里はそう言って改札口の前で深くお辞儀した。改札口の駅員が怪訝な顔でこちらを見た。光太はその様子を驚きながら見たが、なんか恥ずかしくなってきた。
「ほら光太も!」
「え?俺も!?」
「当然だろ(ハクション)」
「・・・・・・・・・・」
千里に促され、光太も仕方がなく同じポーズをした。ますます彼は恥ずかしくなった。千里が姿勢を元に戻してたので光太も同様に背を伸ばした。
「そして、「ああ神様、仏様、コックリさん、スタン・リー様、わたしをあの場所に連れて行って」言いながら改札を通るんだよ」
「ええ!?」(スタン・リー様って誰!?)
「ほら、早く!」
光太は千里に言われた通りに
「え~と・・・ああ神様、仏様、コックリさん、スタン・リー様、わたしをあの場所に連れって行って!」
と若干ヤケクソ気味に言いながら改札機を通った。その様子を見ながら、遅れて千里が無言で隣の改札機で通っていく。
「あなたは言わないんですか!?」
「セリフは嘘だよ。何本気にしてるのさ?」
「・・・・・・」(騙されたああああああ!!)
「ほら、もう1度、電車乗って大学の最寄り駅行くよ」
そして、もう1度電車に乗って、大学の最寄りの駅に戻ってきた。光太はまだ納得がいかない顔をしていた。二人で改札を出た。千里が
「九十九じいさーんどこー?」
と先ほど、ここに置いてきた化猫を呼んだ。『ニャー』と言いながら、九十九が姿を現した。九十九の姿が先ほどと若干変化していることに光太と千里は気づいて笑ってしまった。
「じいさん、どうしたのさ?その格好!」
『笑うんじゃねーよ!くそ・・・ワシとした事が・・・クソガキどもめ!』
九十九のおデコには白いサインペンで書かれたと思われる「肉」という字がデカデカと自己主張していた。
「ああ・・・近所の子供達にやられたか・・・ご愁傷様」(ハクション)
『クソが!どうせ、いたずらされるならカワイ子ちゃんがいいぜ!』
「まぁまぁ。待たせて悪かったね。さぁ行こうか。」
と、先ほど同様に千里は九十九を肩に乗せて歩き始めたので光太もそれを追うような形であとに続いた。




