第3話「壱発屋」(1)
この世界に未知なる物は実在する。
Unknown presence is real.
天野光太が早先見千里の住むお化け屋敷に引っこしてきて数日が経過した。「お化けがこの屋敷の至る所にいる」そう千里は話していたが特にこれといった心霊現象は何も起きなかった。
「何も起きないし、幽霊とか見えないはやはりあの人と違って、やっぱり変な力が俺にはないからかな?」
そんな風に考えた。千里が言ったとおり例え幽霊がいたとしても、見えない上に、無害であれば生活に大した支障はない。
「明日から講義が始まるなぁ・・・」
大型連休も最終日になっていた。そんな風にお化け屋敷の2階の自室で彼は一人虚しく呟いた。
思えばこの大型連休はずっと早先見家で過ごした。この屋敷の1階には千里が集めたという映画、ドラマ、アニメのDVD・BDのコレクションが沢山しまってある部屋と、小説や漫画がぎっしり棚に入っている書庫が存在した。
古今東西色々なジャンルとタイトルがあった。あまり映画などを見ることが少ない光太でさえ知っているタイトルもあれば、まったく知らないタイトルもいくつか存在した。(棚の中にはAVもいくつか入っていたが)
「君もこのコレクションは自由に使っていいよ。でも勝手に売っちゃダメだよ。そんなことしたら、本当に絶対に許さないからね!」
千里がそう言ってくれたのだ。お言葉に甘えてそれらのコレクションを借りて、読書するなり、映画を視聴するなりして、連休の暇を潰した。
「お金もあまりないしなぁ。レンタル代金も払わず済むし、借りたり返しに店に行かなくてもいいのは助かる」
光太は千里の好意に甘えた。自室にて、読書をすることをあれば、一人でパソコンやテレビでそれらの映画やアニメを見ることもあれば、千里と一緒に見る機会もあった。
千里と一緒にDVD・BDを見る場合は
「ああ、この映画はねぇ、このオタク二人組と宇宙人を追っかけている敵である男が実はなんと宇宙人とは親友だったりするんだよ」
「へぇ・・・そうなんですか(オイ!ネタバレはするなよ!)」
などと、まだ見たことない映画の内容と先の展開を言われてしまう事も何回かあったが。
ベッドの棚に乗せてある目覚まし時計を見る時刻は午前11時50分になっていた。
(ああ・・・そろそろ昼ご飯でも作るか)
彼は部屋を出て階段を下り、1階の台所に向かった。
千里と光太の二人の共同生活において、光太が料理担当になっていた。千里も光太の料理を食べ「美味しい」と言ってくれたので光太も悪い気にはしなかった。むしろ嬉しかった。
何より光太自身が、絶対に料理をしなければならないと決心する事件が起きたことがあったからでもあった。
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光太がこの屋敷に引っ越してきて3日目の夕方のことだ。
「いつも作ってもらうというのもあれだから、今日は僕が作ろう」
と千里が申し出てた。
「え?いいんですか?」
「いいよ、いいよ、光太テレビでも見ててよ」
そう言って千里が笑顔で台所に向かった。光太は言われたとおり適当にテレビを見て夕方を過ごした。そしてしばし経って千里が作った料理は、見た目は美味しそうなカレーに見えるが、中身はカレーではない「何か」だった。
「ぐうわああああああああああああああああああああああああああ」
光太はその「何か」をスプーンで一口食べて悶絶した。口の中に辛さとは全く違う衝撃が走ったのだ。彼の顔は別人のように苦しみで歪んだ。
「どうしたのさ?ドラゴンボールの悟空に本気でみぞうち腹パンされた魔人ブウみたいな顔してさ?」
千里はそんな光太を不思議な顔で見ながら、平然と自分で作ったカレー(に見える「何か」)を美味しそうに食べていた。
(あの人は平気なのか!?なんでだ!?自分で作ったからか!?それも超能力なのか!?)
苦しみながら光太はそんなことを考えた。
「ご、ごめんさない。き、今日は実はちょっと調子が悪くて・・・・し、食欲が・・・・」
もう目の前のカレー(に見える「何か」)から逃れたい一心で嘘を付いた。そう光太が伝えると千里は
「あらそう。じゃあ君の分も僕がいただくか」
と光太の残した皿も自分の方に引き寄せ、それをまたも美味しそうに食べだした。
(ええええええええええ!?)
驚きながら(もうこの人に料理に作らせてはいけない!こんな料理を食べていたら自分はいつか死んでしまう!死んでしまったら、この世界にはドラゴンボールも神龍もないのだから生き返れない!)と硬い決心をした。
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「・・・・・もうあんな悲劇を繰り返してはいけない・・・・」
そう呟きながら光太は今日も台所に立った。彼は棚の中を漁りだした。(たしかラーメンがあったかな・・・・)この前、調理する時に調味料などを出す際に見かけた物を探した。
棚から味噌、とんこつ、醤油のいくつかの即席のラーメン袋が出てきた。
「昼飯はまぁこれでいいか・・・・」
とりあえずまずは、ラーメンに入れるためのゆで卵を彼は作ろうと思い冷蔵庫から2つの卵を取り出した。
鍋でそれを茹でること15分後、無事にゆで卵が出来て、卵の皮も綺麗に剥けた。
次にラーメンを作るための準備をした。
(俺は味噌味にしようかな・・・・あの人、何味のラーメンヲ食べるんだ?)
そう思い、この屋敷の主が何味のラーメンをご所望か確認するために、彼がいつもテレビ見ながら寝ている部屋に向かった。




