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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第2章「お化け屋敷での新生活」(シーズン壱)
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第2話「転居」(5)

 全員で光太が茹でたそばを食べ終わった。台所で食後の麦茶を飲んでいる。


「ふうーおいしかったよ。天野君、君がやったのか?」

「ええでも、俺は茹でただけですよ」

 

 高山の問いに光太はそう返した。確かに茹でただけだ。しかし、「おいしかった」と言われるのは悪い気がしないな・・・と光太は思った。


「そういえば、勇兄さぁ。あいつどうなった?」


 涼が爪楊枝で歯茎を掃除しながら高山に質問した。


「あいつ?」

「木原景子のことだよ」


 木原景子・・・光太は「思い出したくない名前」を聞いて一瞬ぎょっとして涼を見た

。先月、大学で起きた事件の際、彼女は光太自身に濡れ衣を着せようと企んだ悪女なのだから。


「・・・・まだ昏睡状態で入院中だよ」


 高山は罰の悪そうな顔をしてそう答えた。

 あの時、研究棟で急に血を噴き出した木原景子は「神の声が聞こえる」と謎のメッセージを発し気を失った。あの場にいた光太はあの時の光景を思い返していた・・・血まみれなって倒れる景子が頭に蘇った。


「食後に回想するシーンじゃないな・・・・・」


 千里も同じようにあの時のことを思い出したのか、苦々しくそう呟いた。

(その通りだ)光太も心の中で頷いた。


 即座に彼女は病院に運び込まれ治療が行われたが、医者の話では外傷とかもなく、内出血などもなく、何故体から血を噴き出したのか原因がわからないとのことだった。なんとか輸血などの治療で命を失うことを留めた木原景子はそのまま意識不明で昏睡状態になった。今現在でも彼女は病院の集中治療室で眠り続けている。何故昏睡状態になったのかも原因がわからず謎のままだった。


「木原景子って波平さんの子供身篭っているんだよね?子供どうなるのさ?」

「医者の話ではこのまま眠り続けたら助からないかもしれないとのことだ」

「・・・・そうか。波平さんはなんて言っているのさ。あのハゲ親父、自分の子供じゃないとか彼女に向かって言ったんだよね?」

 

 木原景子の話では波平(波野平助教授)が「君のお腹の子は本当に僕の子か?」などと言ったせいで口論になり、最終的に事件に発展したと言っていた。

 事件後、どこから漏れたのか「波平が女と揉めたせいで殺されかけた」と大学中では噂になっていた。あの時の何人かの野次馬が光太に「お前あの時、事件現場いたよな?詳しい事情を教えろ」と聞いてきたが、彼は「何も知らない!」と言い続けた。

 そのおかげか今はもう誰も事件のことを光太に聞くことはないが、「波平が学生を身篭らせた上で、さらにお腹の子を降ろすように要求した」などと噂は変化し始めていた。


「波野教授は今現在も入院中だが、容態も安定しているので話を聞いたが、妙な事を言うんだよ。」

「妙な事?」

「自分は性行為の際、避妊具を一応付けていたから、彼女が本当に自分の子を妊娠したのか怪しんでしまったってさ」

「はぁ?ゴム付けようが妊娠する場合はあるでしょ?」

「ああ・・・・確かにそうだな。」


 (ええ・・・そうなんだ・・・知らなかった・・・!?)涼と高山の会話を聞いていた光太は自分が知らない未知の領域な知識を聞いて仰天していた。


「それに波野教授はバツイチなんだよ。しかも離婚の原因は前の奥さんと教授の間に子供ができなかったことで、不仲になったってさ。不妊の原因は波野教授の方でさ、いわゆる乏精子症の疑いがあったってさ。当時、元奥さんと通ったという病院にもカルテが残っていたよ」


 高山はそう捕捉した。


 昨今は色々の事情で子供が欲しくても出来ない夫婦が増えている・・・なんてニュースで見たなぁと光太はそんなことを考えた。


「ふーん。確かにそれは怪しんでもおかしくないかもね・・・・他に男がいた?」

「わからん。色々とこちらも木原景子の周辺を洗ったけど、そんな男の情報は今のとこ出てないな・・・・でも変な話は聞いた」


 高山は少しニヤリと笑った。それを見て涼が身を乗り出した。


「変な話?」

「真野山って知ってるよな?」


「え?真野山?」光太には千里がふとそう呟いたような感じがしたが高山達には聞こえてないようだ。

(千里さん、今なんか言ったか?)


「ああ、知っている知っている」


 高山の言葉に涼がそう頷いた。

F大学から北に5キロほど行った所に真野山という名前の小さな山がある。そこはオカルトスポットで有名だった。

 やれ「昔、実はそこに死刑場にあって首を切られた罪人たちの幽霊が出る」とか、「彼氏に振られて自殺した女の幽霊が出る」とか、「女の子が神隠しにあった」とかそんな噂が飛び交う場所だった。

また、訪れると恋愛運や金運がアップされるパワースポットとも呼ばれていた。


(そういえば・・・あそこも色んな幽霊が出るんだったな・・・この屋敷よりどっちが数多いだろ・・・)


光太は大学に入学して聞いた数々の真野山にまつわるオカルト話を思い返しながらそう考えた。


「その真野山の入口には小さな祠があって、そこは恋愛の神様がいるとかなんとか」

「ほぉーそれで?」

「2月14日に波野教授と木原景子はそこへ二人でお参りに行ったらしい、そしたらなぁ・・・・」


高山がそこで一旦 言葉を区切る、


「そしたら・・・・?」


「UFOを見たんだとよ!」

 

 高山は少し笑いながらそう言った。

 

「ハァ?UFO!?あそこ確かにそういうのも目撃されるけどさぁ・・・・」

 

高山の以外な答えに涼が驚きの声を出した。

確かに、真野山は未確認飛行物体・・・・いわゆるUFOもしばし目撃される場所でもあった。テレビでも何回か「ここが日本のUFOのメッカだ!」なんて取り上げられたこともあった。



「ああ、なんか2月の夕方5時の空なんてもう夜みたいな感じなのに、一瞬パァアと頭上が青白く光って気がつくと、数時間立っていたとかなんとか」

「嘘癖ぇえええええ!!」


 高山が続ける話に涼が否定の言葉を大声で発した。


「俺もそう思う。木原景子は大学の友人に、彼氏と一緒に真野山の祠に参拝行って、そこでそんな体験したとか話していたらしい。まぁその友人は木原景子の彼氏が波野教授とは夢にも思わなかったようだけどな」

「UFO見たも充分夢みたいな話だと思うよ」

 

 涼が笑いそうになっていた。高山は尚も話を続けた。


「まぁその直後だ。彼女の妊娠が発覚したとか。教授にも木原景子は「きっと神様が私たちに子供プレゼントしてくれたのよ!」とか嬉しそうに報告したって・・・波野教授からも確認は取れた。」

「本当かな・・・千里、お前どう思う?」

「へ?」


 さっきから黙って高山の話を聞いていた千里に向かって涼が訪ねた。いきなり話を振られて千里が返答に困っていた。そんな彼に向かって涼はさらに質問した。


「お化け屋敷の主様兼超能力者様には木原景子の一件はどう思うんだい?」

「・・・・うーんなんか作り話くさいねぇ・・・・」


 彼は天井を見上げながらそう答えた。その顔はなにか考えている風に光太には見えた。


「ははは、存在がオカルトその物の奴に言われちゃあなぁ。なぁ勇兄」

「全くだな」


 その時高山の携帯が鳴った。「失礼」とそう言って彼は電話に出た。


「長居しちまったな。署から呼び出しくらったわ。」

「あれ?今日非番じゃあないんだ?」


 涼が呑気な言葉を高山にかけた。


「当たり前だろ!お前ら学生様とは違うんだよ」

「そうですね。こんなところで油売ってちゃ、血税が勿体無いですよ。無駄使いですよ」


 高山の言葉に千里がまたも挑発的な言葉を発する。


「ああそうだな!お前たちの血税のために少しでも頑張るよ!天野君、そばおいしかったよ!じゃあな!」


 そう言って早足で高山は屋敷から出て行った。


「なんで千里さん、高山さんに兆発的な事言うんです?」

「いいんだよ。僕たちの血税で働いてるんだからさ。光太、お茶おかわり」


 そう言って千里は空になった湯呑を光太に差し出した。


「?」

一瞬見間違いか?とも思った。湯呑を受け取りながら、光太には千里の手が若干震えているように見えた気がした。まるで何かに怯えているかごとく・・・・。




第2話「転居」 〈了〉

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