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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第2章「お化け屋敷での新生活」(シーズン壱)
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第2話「転居」(4)

 朝が来た。ベッドのすぐ横にある窓から入る太陽の光を浴びて、光太は目を覚ました。


「この部屋に茶髪の女の幽霊がいる・・・・らしいがなにも起きなかったみたいだな」


 無事に朝が迎えられたことを安心しながら光太は1階に向かった。台所に入る。そこには千里がいて椅子に座りバナナを食べていた。


「おはよう。ぐっすり眠れたかい?」

「あ、おはようございます」

「ほら、君の朝食だよ」


 千里は冷蔵庫からバナナを取り出して光太に差し出した。


「ありがとうございます」


 光太も千里と向かいあう形で椅子に座った。


「しかし、あれだね。これから二人でこの屋敷で住んでいくのだから色々ルールとかを決めたほうがいいのかな?」

 

 1本目のバナナを食べ終わって、2本目の皮を向きながら千里は不意にそんなことを言い出した。


「そうですね。でもここ、早先見さんの家だからあなたのルールに従いますよ」

「お、そうかい?君はいいやつだね。まぁゆっくりとそこらへんは追々決とめていこうか」

 

 光太の答えを聞いて、千里は機嫌良さげに笑顔でバナナを頬張った。


「あの早先見さん」

「その「早先見さん」って呼び方はやめよう。せっかく一緒に住むんだよ。なんか堅苦しい。千里って呼び捨てでいいよ。敬語もなしでもいい。僕もこれからは「天野君」ではなくて、光太と呼ぶから。」

「そうですか。いやぁ・・・・でも年上ですし」


 良い提案だとも思ったが、いくら本人が呼び捨てで良いとか敬語もなしと言っても、真面目な光太は面と向かって年上の人物を呼び捨てするのに若干抵抗があった。


「年上と言っても、僕は3月の遅生まれだからね。君とはおそらく誕生日は数ヶ月も違わないよ」

「そうですか・・・じゃあ千里さん」

「こう言っても、光太は「さん」付けかい?真面目だねぇ・・・なんだい?」


「・・・・せめて、パンツ履いて!」


 千里は今日も全裸だった。それなりのものが下半身からぶら下がっていた。


「おう、失敬!失敬!」


 そう言って服を着るために千里は台所を出て行った。


(やっぱり、あの人とやっていけるかな・・・大丈夫かな・・・・)と目の前のバナナを見ながら光太は、これからのあの変人との共同生活に不安を覚えた。


 テレビとBDレコーダーの設定は説明書を見ながら行い、あっという間に終わった。リモコンで操作して各チャンネルが映るかどうか確認作業を行った。若干いくつかのチャンネルの映りが悪いふうにも思えた。


「ブースター(電波増幅器)とか買ったほうがいいかな?」


 光太は部屋を改めて見回す。手伝ってやってもらったおかげで引越しはほぼ1日で終わった。

引越し用のダンボールの中にまだ入っている服を部屋で整理をしていた時だ。


「おーい!そば持ってきたぞ」


1階から声が聞こえてきた。光太が玄関に向かう。涼とサミュエルがいた。


「ああ、いらっしゃい」

 光太がそう答えると涼は「ほれ!」と彼に近所にあるスーパーの袋を手渡した。スーパーの袋の中にはメンつゆとそばの韓麺がいくつか入っていた。


「ああ、本当にやるんですね。引越しそばパーティー」

「当たり前だろ!調理は任せたぞお化け屋敷の専属コックよ」

「え?コック?」

「お前に決まっているだろ!」


 確かに料理は出来ると言ったが、もうすでにこの屋敷のコック扱いにされてしまうとは・・・と光太は嘆いた。


「千里は?」

「さぁ・・・・?」

「まぁどうせ寝ているんだろう。あとで起こすか。さぁそばの準備しようぜ」


 光太は台所でそばを茹で終えた。朝、千里から台所のどこに調理道具や調味料、皿などが置いてあるかはある程度聞いていた。


「熱いそばにします?ざるそばにします?」


 涼とサミュエルに確認する。


「ざるそばでいいよー。今日なんか暑いし」

「ボクモ、同ジク!」


 そうふたりは答えた。ざるそば用の準備をしようとした時だ。「ピンポーン」と家の玄関が鳴った。「え?誰か来た?出るべきか」と一瞬光太は躊躇した。


「・・・おいどうした?ここはお前の家でもあるんだぞ!千里が寝ているならお前が応対しなきゃ」

「ああそうでした」


 涼にそう促され、光太が玄関に再び向かった。「ハーイ」と玄関を開けた。目の前にはスーツ姿の男が立っていた。スポーツ刈り頭で図体が大きく、目がつり上がっている男・・・どこかで見覚えある顔だった。


「あの・・・・・」

「早先見はいるか?」


 その声を聞いて、光太は目の前の人物が誰か思い出した。4月に自分の大学で事件が発生した時に来て、光太のことを疑った刑事だった。

 (名前はたしか高山って言ったかな・・・)光太の頭の中に無実の罪で疑われた嫌な思い出が蘇ってくる。あの事件のせいで、自分はこんなお化け屋敷に住む羽目になったのだ。


「おお、勇兄じゃん」


 光太がふと考えていると、背後から涼の声がした。涼の顔を見て高山が若干眉をひそめた。


「涼・・・またお前かよ・・・」

「そんな人を害虫見るような目つきで見ないでよ」

(そういえば、この刑事と先輩って知り合いだったな・・・でもどんな関係なんだろうな?)


 二人のやりとりを見ながら光太は色々想像した。


「で、今日はどうしたのさ?」


 涼が何故、高山にここに来たか問いた。


「まぁたまたま近くまで来たからな。連休に入って大学も休みだろ?その間にこのお化け屋敷の主が死んで本当に幽霊になってないか確認しに来たのさ」

「へぇー怖い顔して優しいじゃん」

「怖い顔は余計だ」

「千里なら永眠ははしてないけど、寝ているよ。そうだ!遊兄もそば食べるかい?ちょうど昼時だし?」

「いいのか?」

「ああ、いいよ。どうせそば沢山あるし。いいよな天野?」


 涼に光太は声をかけられて


「え、あ・・・はい」


 若干戸惑いながらそう彼は答えた。


「そうか・・・じゃあお言葉に甘えて」


と高山は靴脱いで玄関から上がった。台所に行った高山は一瞬固まった。そこには黒人の大男がいたからだ。高山とサミュエルが見つめ合った。二人とも黙っている


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「あ、あのですねこの人は・・・・」


 光太がサミュエルのことを説明しようとすると高山が目の前の黒人に向かっていく。そして


「おーサミュエルじゃないか!元気にしていたか?」

「ゴ無沙汰シテマス!ミスター・タカヤマ!」

 

 二人は歓喜の声を上げながら熱い抱擁を交わし、再会を喜びあった。

(この二人も知り合いなのかよ!?)


「ああ、サミュエル良かったな。勇兄に会えて。ほら天野、早く怖顔公務員様にお茶でもだしてやれよ。」


 驚いている光太に涼がそう指示した。



 「はい、どうぞ」と光太は麦茶が入った湯呑を高山に出す。


「・・・ありがとう・・・そういえば君は天野君とか言ったな・・・以前会っているよな?」


 高山が光太の顔を見ながらそう言った。あちらも光太のことを思い出したようだ。


「ええ・・・・」


 光太は返事しながら、またも4月の事件を思い出して、若干嫌な感じがした。すると高山の口から思いがけない言葉が出てきた。


「あの時はこちらも仕事とは言え、無実である君のことを疑ってすまなかったな。事件当時は色々あって謝罪するタイミングを逃してしまった。それも踏まえてここに謝罪するよ。本当にすまなかった。」


 高山は光太に頭を下げた。目の前の怖顔刑事の思いがけない行動に光太はビックリした。


「いやいや・・・別にもう過ぎた事ですし。僕も気にしていませんよ。」


 光太も恐縮してそう返す。ニュースでは警察関係者は疑った人間などには謝罪の言葉など一切かけないという酷い話をしばし報道されているだけあって彼は余計に驚いた。


「ありがとう。そう言ってくれるとこちらも助かるよ。」


 高山は怖顔をできる限り笑顔にしてそう答えた。


 (この刑事さん、怖い顔だけど良い人なのだなぁ)光太がそんな感想を抱いている時だ。


「・・・・ホント、気をつけてくださいよ。あなたたち警察関係者は僕たち一般市民の血税で給料とかでてるんですから!そんな無実の一般市民を疑うなってことはあってはなりません!!」


 昼寝から起きたのか千里が眠そうな顔して、高山に向かって嫌味を言いながら台所に入ってきた。


「早先見ぃ、貴様!」


 高山の額に怒りマークが見えた気がした。


「そんな人の家で怒らないでくださいよ。高山警部」

「警部じゃない!警部補だ!」

「あれ?まだ出世してないんですか?早く出世しなさいよ!柳葉敏郎みたいにさぁ!」

「俺は室井さんじゃねぇぞ!ドラマと現実の刑事とでは色々勝手も違うんだよ!」


 そう叫ぶ高山を無視して、千里はざるカゴに置いて冷やしてあるそばを見つめた。


「ああそういえば引越しそばパーティーやるって言っていたね?おいしそう」

「引越し?パーティー?誰の?」


 千里の言葉に高山はそう質問してお茶を飲んだ。


「なんと、この天野光太君がここ、お化け屋敷に住むことになったのです!イェーイ!」


と涼がそう答え、パチパチと拍手した。それを見て横にいたサミュエルも一緒に拍手した


ブ゛ウウウウウウウウウウ!!


 意外な返答を聞いて高山は口に含んだ麦茶を盛大に吹き出した。


「うわぁ!汚い!」

 

 涼が悲鳴を上げた。光太が慌てて雑巾を手にしてぶちまかれた汚水を吹いた。


「すまん。マジかよ!?」


 高山以外の全員が頷く。


「そういえば、この前パトカーの中で「同居」とかそんな話しをしていたな・・・」


 そう言いながら高山が哀れな物を見る目つきで光太見た。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 言葉には発しなくても「なんでよりにもよってこんな変態野郎と君は同居するのさ」とか

「ご愁傷様」とか「親御さんが悲しむぞ」とかそんなセリフがその視線から感じ取られた。


 困った顔をしながら高山は

「・・・・・・・二人の門出に乾杯!」と中身が半分ぐらいになった湯呑手して、それを天上に向かって上げた。


「そのセリフはおかしいと思います!」


 光太は即座に突っ込んだ。


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