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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第2章「お化け屋敷での新生活」(シーズン壱)
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第2話「転居」(2)

(オエーオエーゲロゲロ・・・・)


 1時間半ほどの自由すぎるドライブの後、光太は早先見家に着くなりトイレに駆け込み、そして盛大に吐いた。


「おい!大丈夫か!?お前車に弱かったのか!?」


(そうじゃない!そうじゃない!)


 光太は吐きながらトイレのドアの向こうで自分の事を心配してくれる元凶を恨んだ。今日の朝飯と昼食が吐瀉物として全部体内から出てきた。そのおかげで多少は楽になった。涼の運転は本当に悪い意味で自由すぎたのだ。

 「もう絶対に先輩の運転する車には乗らない!」と誓いながらトイレを流しドアを開けた。


「アマノサーン、死ニソウナ顔シテイマシター。デェイジョウブデスカー?」


 先に到着していたサミュエルも心配してくれた。


「本当に死にそうになったけど生きているから大丈夫だよ・・・」


 光太は力なく答えた。


「そういえば千里は?」

「サッキ、オ会イシマシター。2階デ、ナニヤラ、作業シテマース」


 涼の言葉にサミュエルがそう答えた。


「あのサミュエルさんも・・・・・」

「呼ビステデ、カマイマセンヨー」

 

 サミュエルが光太に向かって笑顔でそう言った。


「えーとじゃあ、サミュエル。君も早先見さんとは知り合いなのかい?」

「エエ、昔オ世話ニナリマシター」


 光太の問いにも流暢な言葉でサミュエルは答えた・

(一体、どういう関係なのやら・・・・)


 3人で屋敷の2階に上がる。2階には3つの木製のドアがあった。階段を上がりきって左右に1つずつ、正面に1つ。正面のドアが半開きになっていた。正面のドアから声が聞こえた。


「千里、いるのかぁ」


 半開きのドア越しに涼が聞くが返事はない。隙間から部屋の中を除く。千里があぐらを書いて座っている。


「・・・・うん・・・そうなんだ・・・悪いねぇ・・・ホントごめんね・・・今度埋め合わせするから。僕も彼とは知り合って日が浅くてまだ仲良くなってないけどさぁ悪い奴には思えないから大丈夫だと思うよ」


と独り言をしゃべっている。まるでそこに誰かいて、その誰かと会話しているかのように。

 部屋に3人が入る。部屋は畳み6畳程の広さだった。飽きになっていて何も入っていない本棚がいくつか置いてあった。東の方向に窓が付いていて、そこが空きっぱなしになっている。箒とちりとり、水の入ったバケツと雑巾が部屋の隅に置いてあった。


「千里、お前誰と喋っているんだ?」


 涼が千里に声を掛ける。ようやく千里は3人の存在に気がついて立ち上がった。


「ああいらっしゃい」

「誰と喋っているんだよ?」

「ほら、こちらの人」


と部屋の中央を顎で指した。しかし、部屋のそこにはなにもない。


「え?」


 光太たちは怪訝な顔をした。それを見て千里は少し困った顔をした。


「・・・・ああ君たちには見えないのか!そうだったな!」


 なにやら一人勝手に納得する千里。彼には光太や涼達には見えない物が見えているというのか。


「千里、お前そっち方面のも見えるのか?」

「まぁ・・・一応ね」


 千里にむかって涼が尋ね、彼はそう返した。


(そっち方面ってなんだよ!?何方面だよ!?)

「・・・・何かいるんですか?まさかお化け?」


 いくらお化け屋敷みたいな家だからって、そんなお化けなんているわけがないと思いながら冗談混じりで光太が千里に質問した。


「・・・・・」


 千里がなんとも言えない顔をして黙っている。その沈黙が光太には妙に気持ち悪かった。


「な、何か言ってくださいよ!」


 光太は悲鳴のような声を上げた。


「天野君にはここの部屋に住んでもらおうと思っている。そのためにここの掃除や洗浄・換気をしている最中だった」


 彼の悲鳴を無視して千里はそう言った。


「ええ!?」

「まぁまぁいい部屋じゃないか。ここなら、サミュエルのトラックの荷台にある引越し用の荷物も入り切るじゃないか」


 驚く光太を尻目に涼が部屋を見渡しながら笑顔を見せる。


「ああ、そうだな」


と頷く千里。


「ちょっと待ってくださいよ!」

「どうしたのさ?」

「・・・他の部屋じゃいけないんですか?」


 光太の突然の質問に千里はなにか考える。


「他にもいろいろ空き部屋があるけどね・・・・他の部屋はねぇ・・・・確認したけど、今は鍵や戸が壊れている場所もあったしねぇ、屋敷全体が古いせいもあってか床も悪くなっていたよ。そこらへもん含めて考えるとこの部屋は大丈夫だった。ほら、この部屋の床は何年か前にリフォームしたんだ」


 そう言いながら、千里は何回かその場でジャンプした。床の安全性を証明するかのように。


「そ、そうなんですか?」

「ほら、それにここにはテレビ用端子があるしさぁ。テレビ持ってくるって言っていたよね?古いけどエアコンもあるよ」


 部屋の壁の隅あるテレビ用の端子と、部屋の北側の壁の上側に設置してあるオンボロエアコンを千里がそれぞれ指さした。


(テレビが見られなくてもいいし、エアコンもなしでもいいから、お化けがいない部屋にしてくれ!)

「やっぱり、ほ、他の部屋は・・・・」

「そんなに他の部屋がいいのかい?折角、この部屋の彼女にも君との同居を承諾してもらったのに」

「か、彼女!?」

(やっぱり、この部屋にはなにかいるのか!?しかも女の幽霊!?)

 

 光太の頭の中には心霊番組やホラー映画などでよく見かける髪の長い女のイメージがチラついた。


「あ!君、今いわゆる長い黒髪の貞子タイプの女を想像したね?言っておくけどここにいるのは茶髪のショートカットの美人だぞ!」


 光太の心を読んだごとく、千里が彼の頭のイメージを否定した。


(や、やっぱりいるのかよ!!)

「それにねぇ・・言っておくけどこの部屋以外の部屋にもいろいろいるんだよ。」

「ええ!!?他の部屋にも!?」

「ああそうだ。大河ドラマとか時代劇とかに出てくる落ち武者みたいな感じのおっさんとか、旧日本兵のコスプレしたおっさんとか、ブラック企業のせいで過労死したサラリーマンのおっさんとか・・・その他もろもろおっさんとか」

(おっさんのお化けだらけかよ!?)

「なんでかな?僕に変な力があるせいかな?この屋敷には不思議とそういう類の物が集まりやすいんだ」


 千里の話を聞いたのと、車酔いも残っているせいか光太は少し目眩を起こした。


「大丈夫かい?顔色が悪いよ」

 

 心配してくれる千里に光太こう質問した。


「・・・すいません、そのいわゆる幽霊とかお化けがこの屋敷にいるとして、あれは・・・しないんですか?あれは・・・・」

「あれとはなんだい?」

「そ、その徐霊とか・・・御祓いとか・・・・」

 

 すると彼は「はぁ~」とため息をして、「君は何もわかっていない」と言いたげな顔でこう答えた。


「あのねぇ?僕はゴーストバスターズとか、エクソシストじゃないんだよ。ゴーストスィーパーでもなければ、地獄先生でもないんだよ。確かに変な力は持っているけど、徐霊能力とかないよ。見えるだけだよ。時たまに彼らとは話したりもするけど」

「無理なんですか!?」

「当たり前だろ!それにここに住むあの人達はなにもしない。いわゆるポルターガイストとかラップ現象とか、かなり縛りとか、心霊現象的なことも起きないよ。見ているだけだ。いわゆる地縛霊ともいうべきかな。彼らもいろいろ事情があって成仏できないんだ。例え僕に徐霊能力があったとしても、そんな彼らを無理矢理、退治するなんて野蛮な真似、僕にはできないね!」


 光太の悲痛な叫びを否定するかごとく、千里はそう言い切った。


「そ、そんな・・・」

「いいじゃないか。それに君には僕と違って彼らが見えないのだからさ。何も害はないよ。見えない物を無理に退治する必要はないだろ?」

(そうかもしれないが・・・)


 光太は俯いて黙った。さっきまでなにも言わず聞いていた涼が言葉を発した。


「いいじゃねーかよ。お化けがいようがいまいが、害ないって話だし。お前には見えないんだし!えーとこの部屋にいる茶髪の女のお化けの名前はなんだ?」


「本人曰く「アミ」さんだってさ」


 千里がこの部屋の目に見えない住人の名を告げた。


「アミさーん!後輩の事頼みましたよ!」


 何もない部屋の空間に向かって元気に涼がそう言った。返事は当然返って来なかった。そんな先輩の姿を黙って光太は見つめていた。


「・・・・・」


「ほれ良かったじゃないか。彼女いない歴=年齢のお前からして見れば女と同居なんて夢のまた夢みたいなシュチュエーションじゃないか」

(死んだ女じゃなくて、生きている女との同居なら夢を見たこともありましたよ!)


 涼はこうも続けた。


「それにほら、アニメとかラノベみたいな展開じゃないか。タイトルはそう・・・・「俺の部屋に茶髪の女の幽霊がいるわけがない!」とかさ」

「なにそれ面白そう!」


「ハハハハハハ」と千里と涼が愉快そうに笑っていた。


(ちっとも面白くねーよ!タイトルパクリじゃねーか!)


 光太は心の中で叫びつつそんな二人を睨んだ。


「アノーニモツドウシマースカー?」


 部屋の隅で黙って突っ立っていたサミュエルが話しかけてきた。


「ああ!もうじゃんじゃん運んでくれよ!天野、お前もいいな!」

「・・・・もう好きにしてください・・・・」

(おっさんのお化けよりは女の幽霊のほうがマシかな・・・・?)


と涼の言葉に項垂れながら、光太が力なく返した。


「ハーイ、ワカリマシター」


 サミュエルが作業を返しした。光太の家から荷物を運び出したと同じような要領で、トラックの荷台から部屋にどんどん荷物が運ばれてくる。そんな光景を光太は


(お化け屋敷みたいな家じゃなくて、本当にお化け屋敷だったなんてなぁ・・・・)と虚ろな目で見ながらそう考えていた。


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