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サペリアーズ-空想科学怪奇冒険譚-  作者: 才 希
第2章「お化け屋敷での新生活」(シーズン壱)
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第2話「転居」(1)

この世界に未知なる物は実在する。


Unknown presence is real.

 天野光太は先輩の皆川涼との約束通りお化け屋敷の主・・・・早先見千里との同居をすることを同意した。最初はいくら約束したとは言え、奇人の千里と同居を迷った。


(そうだ!引っ越しするための資金が今はない!とか言って有耶無耶にしてしまおう!)


等と光太は考えた。

 その旨を伝えると、


「安心しろ!引越しなら手伝ってやるよ。実は知り合いにトラックの免許持っている奴がいてね!これで引越し代金浮くな!優しい先輩を持ってお前は幸せ者だぞ!」


と涼は笑顔で答えた。逃げ場はなかった。光太は浅はかな自分の考えを呪った。

 光太は両親には「大学の友人と近くの家でルームシェアすることになった」と説明した。両親は心の中で息子を一人暮らしさせることに多少の迷いがあったようだ。しかし、同居人が出来たと聞いて安心しきっていた。まさか息子が奇人兼変人というべき男と同居する羽目になったとは知らずに・・・。


 4月30日、大学は既に大型連休に入っていた。4月の末から5月8日までは休みだ。完全に講義もない。光太はその間に引越しを済ませようと思いついた。

 その日の午前中、光太は自宅自室の部屋で引越し用の荷物を整理し終えた。

教科書、参考書やお気に入りの本、テレビとBDレコーダー、ノートパソコン、ゲーム機、布団とベッド、衣類一式、生活用品、机などなどを持っていく予定だ。ベッドは一旦バラして早先見家で再び組み立てる予定だ。それがもろもろいくつかのダンボールに入っている。


「ある程度荷物をまとめ終わりました」


と携帯で涼にメールした。荷物の整理が終わったら連絡が欲しいと涼に言われていたからだ。両親は今日も仕事で家にはいなかった。彼は一人昼飯を食べ終えたあと少し横になっていると家のチャイムが鳴る。

涼が来たと思って光太は玄関に行き、「はーい」とドアを開けた。

 ドアを開け目の前にいる人物を見て光太は固まった。そこには涼ではなくサングラスをかけた黒人の大男が立っていた。

光太は


「あ、あの・・・・」


と声をかけた。


「・・・・・・」


 黒人の大男は何も答えない。


(この人はなんなんだ!?尋ねる家を間違えたのか?)


 光太は困惑していると黒人の後ろから涼が身を乗り出した。


「よぉ!天野!さぁ引越しやるかぁ!」


 涼は元気の良い挨拶をした。知っている顔を見て光太は少し安堵した。


「せ、先輩!?こ、この人は?」

「ああ、こいつは知り合いのサミュエル君だ。ほら?この前言っただろ?トラックの免許を持っている知り合いっていうのはこいつの事さ。」

「さ、サミュエル君・・・?」

「サミュエルデース!ヨロシクデース!」


 黒人は流暢な日本語で答えた。玄関にいる光太の目には自宅の敷地外に停めてある5トントラックが映った。


(お化け屋敷の主といい、この前の事件の時の刑事といい、この黒人といい、なんでこんな妙な知り合いが多いんだよ、先輩!?)


 光太は目の前にいる妙なコネを多く持つ先輩を怪訝な顔で見た。


「さぁさっそく始めようか荷物は?」

「2階にまとめてあります」


 涼は光太に確認をした。


「よし、サミュエル!」

 横の黒人は「マカセテクダサイ!」と元気よく靴を脱ぎ、玄関を上がり、階段を登っていた。その姿が光太には大きな黒犬にようにも思えた。

 サミュエルは引越し用にダンボールや荷物を次々と運んでいった。重たいものでも軽々と持ち上げていった。


「一緒に持とうか?」


と光太が言うと


「イイデース。コンナノ屁デモアリマセーン!」


と断り、あっという間に5トントラック荷台に全ての荷物が積み終わった。


(すげぇ15分も終かかってないぞ!?)


と光太はそんな光景を見て心の中で驚いた。


「ジャア、先ニイッテマース!」

「おう!任せたぞ!」


とサミュエルは涼にそう伝え、トラックに乗り去っていた。

 それを見送った涼は光太に


「じゃあ、こちらも行くか!」


と促した。涼が顎で指した方向には1台の白いバンが停車してあった。バンのフロントには若葉マークが貼ってあった。


「あれ先輩の車ですか?」

「そうだよ。まぁ正確には知り合いから借り物だ」

「免許持っていましたっけ?」


 涼はジャケットのポケットから財布を取り出し、さらにそこから自動車免許を取り出した。確かに涼の顔写真も貼ってあるので偽物でも借り物でもないようだ。


「ほれほれ!すごいだろ!バリバリの初心者免許だけどな!春休みに取得したんだよ」


 涼はそれを見せながらドヤ顔をした。


「へぇそうなんですか・・・」

「ああ何回教習所のハゲ頭教官を殴り殺そうかと思ったことか・・・・」


 涼は嫌なことを思い出したのか、明らかに機嫌悪そうな感じでそう呟いた。


(ええ・・・・)


 光太はふとバンのナンバープレートを見た。緑色の文字で「42-74」とあった。


(もしかして「42-74」でシニナヨ・・・「死になよ」!?いやいや考えすぎだろ・・・)


 光太は自分の頭に浮かんだ不吉な考えを即座に否定した。

 

「じゃあ、行くか天野!」

「は、はい・・・」


(先輩の運転に行くのか・・・死ぬかもなぁ・・・・)などと考えながら取りあえず家のドアに鍵を掛ける光太。そして建家をしばしジッと見つめて


「もしかしてもう帰ってこられないかもしれない・・・じゃあなぁ!」


と20年近く済んだ我が家に彼は別れを告げた。

 涼が既にバンの運転手で待っていた。光太は「失礼します」と言いながら車内に入った。彼はあえて後部座席に座った。


「あ!?てめぇ、なんで後部座席なんだよ!?」

「いや・・・・なんかこちらの方が、生存確率が高いといいますか・・・・」

「何をわけわからんことを。どうでもいいいけど後部座席でもシートベルトしろよ!」

(言われなくてもそうするよ!)


 光太は即座にシートベルトした。それを確認すると涼が車のキーを回した。自動車のエンジンがかかる。


「天野、いいかぁ。お前はまだ免許取得してないから言うけど。自動車なんてものはゲーセンでガンダムやMS操縦するのと同じようなものだ!」

「全然違うと思います!」


 涼の意味不明な持論を光太が即座に否定したが、涼は尚も続けた。


「高校の頃からいろいろ操縦したよ。1番のお気に入りはストライクフリーダム!そうストライクフリーダムガンダムだ!あいつアニメでも強いしな!自由というのは良いぞ!」

「自由すぎるのもどうかと思います!」


 後輩の突っ込みを無視して涼が叫んだ。


「皆川涼、ストライクフリーダムいきまーす!」


 バンが発進した。自由すぎるドライブが始まった。


「マジでもう実家には帰って来られないかも・・・・」


と光太は後部座席で嘆いた。


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