第二十五話
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炎に包まれ、方々が崩れ落ちた要塞。
その中にあって、唯一と言って良いほどに原形を保ち、炎の渦とは縁無き場。
新興各国が生みだした超兵器“女神の檻”の動力源が置かれた本拠地最上部のその場にて、一組の男女が互いを見つめ合っていた。
そんな男、シオンは不敵な笑みを浮かべたまま女を見据え、手には赤い塗装の施された砲筒を構えている。
それに対し、女、ミオの方は自身の得物に手をかけつつ、静かな怒りの表情をシオンに対して向けていた。
「顔を偽り、心ある者達を扇動してこの様な事態を起こしたか……、何が目的だ?」
怒りを抑えつつ、シオンに対してそう問い掛けるミオ。
彼がサレムとしてシロウ等を扇動し、自分達に接近してきたこと。
そして、それをジェガ等に伝え、同時に本拠地を爆破したことなど、辻褄の合わぬ行動が多いとミオは感じていたのだ。
「単に貴様等を利用して、最大に報酬を得る機会を得ただけのことだ。そいつを奪う合うことを目的に俺を利用し、俺は報酬のために動く。ジェガ等も、こいつらにとっては不要になったのさ」
そんなミオの問いに、相変わらずの態度でそう答えるシオンは、動力源に取り込まれているミナギに視線を向けた後、手元にあった水晶球に触れる。
すると、水晶球が光を放つと、壁に埋め込まれた水晶壁が光を灯しはじめ、やがては円卓に座する男女の姿がそれに映し出された。
『そう言うことですよ。ツクシロ閣下』
そして、声とともに画面に映る男女を睨み付けるミオ。
暗がりのために顔や表情を窺うことは出来ないが、その口ぶりから自身を知ることと、スメラギに対してどういった手管を向けてくる相手であるのかは理解できる。
『ジェガ等は秘密を知りすぎた。スメラギの争乱もヤツの暴走に拠るところが大きいですしね。そろそろ、潮時と言うことですよ』
「…………組織を潰し、すべての痕跡を消し去った上で“女神の檻”のみをシオンに持ち帰らせると言うことか」
『ヤツは秘密を知りすぎておりますのでね。そして、貴女方も』
「……私がこの島にやって来ることも、折り込み済みだったと言う事か」
『ミスズとの接触はこちらも把握していた。あそこまで巧妙に潜り込むとは思わなかったがな』
「……そして、ミナギや殿下を盾にすれば私は手を出さない。そう踏んだと言う事か」
「そう言うことだ。結局貴様は、俺達の引いた線の上を走り続けただけさ。こうして、俺達の前に現れた時点でな」
そう言って、シオンや画面の中の者達は静かに笑う。
“女神の檻”が完成し、スメラギに向けて攻撃をすれば、ミオは必ず状況を察して、この島にやってくる。そして、ジェガ等もろとも消してしまえば、後はスメラギの重鎮たちが事情をわずかに掴んでいるだけになる。
そうして、新興各国をはじめとするその他の国々は、正体不明の超兵器の存在に恐れおののき、結果として彼らの暗躍は果たしやすくなる。
スメラギはそのための体の良い生贄と言う事なのであろう。
「サゲツ等によってお前を闇に逃がされた時は正直焦ったが、まさか子を産んでいるとは思いもしなかった。おかげで、事が上手く進んでくれた」
『母親譲りの素晴らしい娘ですね。今更ですが……、安産を祝福いたしますよ』
「クズが……っ!! シオン、貴様だけでもっ」
そして、事の言及が娘ミナギの存在に対しても及んだ時、ミオは抑えていた怒りが沸騰し、得物手にシオンの元へと斬りかかっていた。
赤く塗装された砲筒が、鈍い光を放ってミオに向けられるが、それが乾いた音を上げるほんの数瞬前、ミオは手にして短剣にてそれを弾き飛ばし、シオンの身体を後方へと突き飛ばしていた。
「ぐっ……やるではないか」
「もう、あの頃の小娘ではないっ」
背後の壁に叩きつけられ、痛みに表情を歪めながらも、不敵な笑みを浮かべるシオンに対し、ミオはゆっくりと剣を突き付ける。
因縁で繋がった男女の戦いは、まだ始まったばかりであった。
◇◆◇◆◇
地に浮かび上がった方陣が柔らかな光をたたえはじめている。
周囲には巫女様とミュウ様を中心に、数人の武装神官達が座し、目を閉ざして術式の完成に注力していた。
“転移”
その場にあるモノを特定の場へと転送する法術であったが、一般には夢物語として認識されているそれ。
歴史上でも、“巫女”なる存在だけが使役可能とされるそれをこの目で見ることが、そしてその法術に預かることが出来るとは思いもしなかった。
「さすがに連続は無理だから、一度に行くけど海に落ちても許してね」
「かまわん。時間もないしな」
時間をかけ、一人二人であれば正確な場所への転移も可能だという。ただ、今は時間の方が貴重な状況であり、正確さは求めていない。
何より、女神の檻の攻撃を突破できるかどうかの方が重要であった。
「……皆さんは、どうしているでしょうか」
「思いとどまっていてくれることを祈るしかないな」
私達からの“成功”の合図となる法術は、何者かによってすでにされてしまっており、島の状況はまるで知れない状況。
状況的には最悪の方向に向かっているため、ヒサヤ様の表情も厳しい。
ただ、取り決めを考えれば脱出を決行してしまっていると考えるのが当然であった。とはいえ、本拠地への陽動や女神の檻の状態を見てからの決行を考えれば、今戻れば間に合う。
ただ、先ほど、真相を知り、私が激しく取り乱してしまった時間が本当に無駄であった。お母様の行動を見ればある程度の覚悟を決めねばならなかったのに、いざ話を聞いてみればあの通り。
結局、私は周囲に甘えているだけの小娘でしかなかったのだ。
「ミナギ。大丈夫だとは思うが、決して無理はするなよ? ただ、決着はお前がつけるんだ。俺達はその支援しか出来ん」
「殿下……」
「正直、いまだに信じられないけどね。行ってみたら、巫女さんの勘違いって事もあるんじゃない?」
「失礼ね。ただ、そうあってくれるよう、祈っておきますよ」
「嫌味な女ね」
「どっちが……」
「ま、まあまあ二人とも……。サキさんも、巫女様の集中を邪魔してはまずいですよ」
「ふーん、ケーイチさんは巫女様の肩を持つわけ」
「そ、そういうわけでは」
一人、そんなことを考えていた私に対し、ヒサヤ様が顔向けてくる。
サキもまた、私を慰めようと口を開いてくれるが、巫女様との嫌味に応酬になってしまい、止めに入ったケーイチさんにも絡んでいる。
私に対する気遣いであることは分かるし、それだけ私がまだ不安定のように見られているのだろう。
「ふん。それより、そろそろだ。用意をしておけ」
「分かりました……。皆さん、無事だといいですけど」
そうしているうちに、方陣はさらに光を増していく。
そんな眩い光に包まれていると、不意に残った人達の事が気にかかる。お母様、アドリエル、リアネイギス、シロウ、ユイ、ミツルギさん達は、今もなお危険な状況に置かれているのだ。
「合図があっても、時間を決めておいたから、それがどう作用しているかね」
「それでも、変事があれば予定を早めることもあります」
「ああ。それに、どこに飛ぶか分からん以上、戦いの用意はしておくぞ」
ただ、私達が戻ったとしても、“女神の檻”の破壊は私達の手で行う必要がある。巫女様もミュウ様も私達の転移でこの場を動けないのだ。
だからこそ、女神の檻の、動力源に取り込まれている供給源の破壊。それは私が背負うべき咎であるのだ。
そして、お母様もまた、そのことを知っているが故に、私達をこの地に送ったのだと思う。あの人の性格的に、最後まですべてを背負ってしまうように思えるのだ。
「それでも、私は……」
「ミナギ? どうし……むっ!?」
そして、一人そんなことを呟いた私に対して目を見開いたヒサヤ様が何事かと問い掛けようと口を開きかける。
しかし、その刹那。
広間に通じる扉が乱暴にこじ開けられ、警備に当たっていた武装神官達が、倒れ込んできたのだ。
「っ!? 何事……?」
「巫女様っ!! 賊がっ、先ほどの者達が牢を破り……ぐあっ!!」
「案内ご苦労……。逃がしませんよ、殿下」
そうして、苦痛に顔を歪める神官に止めを刺してこちらに冷めた笑みを向けてくるのは、先頃に巫女様によって捕縛された組織幹部、地獄天のスザク。
その背後には、彼に付き従っていた暗殺者たちが、不敵な笑みを浮かべてそれに続いていた。
「どうやって……っ!? そういうこと……」
「巫女様?」
「さっさと行って。こいつ等は私がどうにかするから」
「だ、だがっ!!」
そして、はじめこそ驚きの表情を浮かべていた巫女様であったが、すぐに何事かを察したように頷くと、ゆっくりと両の手を方陣にかざす。
すると、方陣はさらに光を増してゆき、目を見開くのはつらくなるほどに激しい光を灯しはじめる。
「巫女様っ!!」
「行かせるかっ!!」
そんな様子に声を上げる私達。
島へ戻るべきか、巫女様を守るべきか。どちらもスメラギの未来を考えれば必要な事であり、瞬時に判断できることでもない。
そして、方陣の変化を察したのか、スザク等が室内に雪崩れ込んでくる様が見て取れ、慌てて私達は得物を構える。
「それは、こっちのセリフだっ!!」
「ケーイチっ!?」
そんな時、一人方陣を飛び出したケーイチさんが、目を閉ざして精神を集中するミュウ様に躍りかかろうとしていたスザクに飛び掛かり、駆け込んでくる暗殺者たちを薙ぎ倒す。
「ちょ、ちょっと、何をっ!?」
「自分が残って巫女様達を守ります。皆さんは島にっ!!」
思いがけない行動に、目を見開いて声を上げる巫女様。
私達もまた思わず顔を合わせるが、考えている時間は正直なところない。ケーイチさんの武勇を欠くのは正直、痛かったが、巫女様達を残していくことにも懸念はある。
転移法術は連続使役が不可能であると言う。それはつまり、魔力等々がほとんど残らなくなるほどの消耗があるのだろう。
となれば、巫女様を守るための戦力は多い方が良いはずなのだ。
「頼んだぞっ!!」
「えっ、殿下っ!?」
「な、き、貴様、どういうっ!?」
そして、光がさらに瞬く同時に周囲の巫女様やケーイチさんの姿は消えてゆく。
しかし、その直前。何を思ったのか、ヒサヤ様はケーイチさんと対峙していたスザクの襟元を掴んでこちらに引き込んだのだ。
何を思っての行動なのか、問い掛ける間もなく、私達は光に包まれるのに身を任せるしかなかった。
◇◆◇
光が消えると、最後のヒサヤの行動に一同が沈黙するしかなかった。
「……まあいい。貴様等の指揮官は去った。降伏しろ」
ケーイチは、将来の主君となるべき人物の、一方では同窓達の仇である人物の思いがけぬ行動の意図を察すると、残された暗殺者たちを睨み付ける。
転移法術を終え、カエデやミュウ、巫女直属の神官達も息を荒げているとは言え、法術に関してはスメラギ最高の人材がこの場には揃っているのだ。
暗殺者たちも、殺しに関しては一流。つまり、相手の力量を見定めるだけの力量はある。
だからこそ、スザクが去った今となっては、状況が不利になったことを悟っているようにも見受けられる。
しかし、島へと戻る手段も彼らにはほとんどなく、すでに薬剤の効用が届く時間も僅か。
進むも戻るも死という状況が彼らの目の前には転がっている以上、目の前の標的だけは始末せんというのだろう。
先ほどまでの不敵な笑みを消し去り、ケーイチ等を睨み付けるように得物を構える暗殺者たちからは、はっきりと身を振るわせるだけの殺気が放たれてくる。
「やるしかないかっ」
そう言うと、ケーイチはゆっくりと槍を手に腰を落とし、暗殺者たちを睨み付ける。駆けつけてきた武装神官達が取り囲んでいる以上、状況はこちらが有利である。
ただ、巫女様の反応を見るに、敵はこの者たちだけではないのだ。被害は出来る限り減らしておきたい。
「シイナ君」
「はっ、なんでしょうか?」
「出来れば、彼らは殺さないようにしてあげて」
そんな様子で状況を見据えていたケーイチに対し、背後からミュウが息をきらしつつ声をかけてくる。
「なにか、意図が?」
「ええ。難しいとは思うけど……」
「やってみましょうっ!!」
そして、ミュウの言に頷いたケーイチは、そう言うと力強く床を蹴り、暗殺者たちへと躍りかかっていった。
リアルがばたばたしていて、上手く書けませんでしたが、なんとかまとめてみました。
長らくお待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。




