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夏休み直前の授業中俺は電池の切れたゲームボーイのようだった。熊田が黒板に書く文字も見ず出したはいいが何が書いてるのか理解できない教科書を広げるだけでボーと外を眺めていた。学校て所に何も楽しみを感じれなかったなぁ。


テスト中もボーと授業中もボーと休み時間は友達と話して笑ってたと思う。この頃から周りの皆が凄い人達と思えた。俺が少しも理解できない計算や漢字を当たり前のように書けるのがすげぇなって思っていた。


「コマタァお前将来どうするんだ」


昼休み前の授業で出されたプリントの問題も1問も解けず熊田に説教をされてる最中に出た言葉に対して俺は特に何も考えず思ったままに答えた。


「普通の家庭が作りたいっすね。なんつーか贅沢は言わないので小さな家建てて嫁さんと子供がいて普通ってのがいいです」


その言葉を聞くと熊田は眉間を指で抑えて全てを諦めたように手を振り俺を下げた。今なら熊田の気持ちがわかる気がする。小学6年生で自分の名前の漢字以外ほぼ書けない奴が家を建てるとか言い出したら相手するのも嫌になるわなぁ。


でも俺は本心だった。ボロアパートで母親の怒鳴り声や金がないとか愚痴を毎日聞かされお前は本当に馬鹿だなと言われ続けた毎日で思った夢みたいなもんだった。あの頃に俺にいってやりたい普通なんてもんはお前には不可能だと。


「ヤスオ部活いこうぜ」


山崎に言われミニバス部に行くと俺に電池が入る。バスケは心底楽しかった。授業中のわけのわからない漢字という暗号もなく算数という数字の並べ変え問題のような計算もない。ただドリブルしてるだけで何も考えずゴールだけを目指せばいい。


「こんにちわ」


ヨコ父がくると皆が集まり人気は絶大だった。ジャージ姿にバッシュを腰から下げる大きな大人は子供ながらに格好よく見えた。ヨコ父は真面目組にも適当組にも平等に接して話もいちいち面白く、休んでる間も子供を笑わしてくるいいおっさんだっと思う。


「コマタ君ちょっといいかな」


俺がミスするとコートの外に呼び出されるが説教はしなかった。ミスした理由と対策を具体的に教えてくれて昆虫にもわかりやすく言ってくれた。この頃から矢部の元気がなくなっていく、あの熱い咆哮はなくなり指示を出すときも声が小さい。


「はじめまして」


更に大人が現れると山崎父だった。ヨコ父の話を聞いたのかミニバスに参戦してよく練習試合に参加してくれたが問題がある。山崎父は子供相手に一切の手を抜かない、昔バスケをかじってたらしいが大人の背丈で小学生に本気出したら無双である。


1回だけヨコ父と山崎父と分けて練習試合して負けた山崎父は本気で悔しがっていたがチームメイトにジュースをおごってくれて憎めないおじさん。


「はぁ」


部活後にモップで床掃除していてため息をつく、小学生が終わればもうこの環境は終わりかと思うと寂しい。皆が帰った静かな体育館で転がっていたボールを拾いゴールに向かい鋭いドリブルでシュートを決めるとこんなもんかと思う。


ヨコ父に褒められた速さも俺にとって誇れるものではなかった。他の学校の試合を見た時は俺以上に早い選手なんてゴロゴロいた。もうこの頃から諦め癖が染みついててどうしようもなかった。


「コマタ君」


俺と同じで掃除当番だった女子が声をかけてくると前回の練習試合で俺を苦しめた小柄な女子だった。この子は名前は忘れたが男子にも気軽に話しかけ色恋に目覚め始めの男子達に人気はある。頭の中が空っぽの俺にも可愛い子だなぁって思っていた。


「ちょっと聞きたいんだけど」


いつもの眩しい笑顔で近づいて話しかけてくる仕草に2人きりの体育館に俺はドキドキした。


「山崎君の好きな食べ物何かわかる」


ドキドキは一瞬だった。


「パンて言ってたぞぉ」


「パン!パンのなに!」


それから他愛のない話やバスケについて30分くらいは話したと思う。この時女子にモテる山崎に本気で嫉妬した。こんな可愛い子が自分のために弁当を作ろうとしてくれるのは羨ましくて仕方ない。


「……」


夜になり星を見ながらトボトボ歩いて帰宅途中に山崎を思い出すと嫉妬は消えた。山崎は顔だけでもなく男女問わず人気がありスポーツ万能、勉強もしっかりやっている。比べて俺はどうだ、毎日体育館で動く事しか脳にない昆虫。


毎日同じ服だなってからかわれた薄汚れた着ている自分の服を見て空しくなり妙に足が重くなる。子供ながらに出た言葉は。


「金だよなぁ世の中」


夢も希望もない言葉だった。

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