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3クォーターは男子メンバーが気迫で女子を押した。エース級の長身の女子にヨコが張り付き大介真水山崎も体力の限界が近かったが必死に張り付きコート半分付近で女子のボールを止めて攻めさせなかったがどうしてもヨコ以外で高さの差が出てパスを通してしまう。


俺は背丈同じくらいの女子に苦しめられていた。この小さな体のどこにこんな体力あるのかと思うくらいよく動く。マンツーマンで張り付いてるだけで汗が吹き出し喉が焼ける。点差は変わらず8点差のままお互い1ゴール決めては決められの繰り返し。


ここまで戦うとお互いのリズムより試合全体のリズムが出来てしまう。ヨコは頑張ってエースを止めてるが大介のマークがどうしても薄くなってしまう、身長差をいかして切り込まれてゴール下にもっていかれる。


「クソッ」


冷静な大介にしては珍しく愚痴を吐くが現実は厳しい。大介の技術は凄いが身長差を埋められるほど技術は小学生にはほぼない。女子が1ゴール決められた瞬間に俺の仕事が始まる。


「走れ!」


ヨコが素早く自陣のゴール下からボールを山崎にパスを回し女子が戻るより早く走り出す。お互い両サイドに広がり山崎と俺でパスを回しながら一気に切り込む。お互いプレイスタイルが似てるのが息は合い、得点をどんどん上げていくが女子のオフェンス力も負けておらず8点差のまま3クォーター前が終わる。


「いいかこれで最後だぞ、もう1回言う。相手は女子だぞ」


我らが監督矢部は今までのように声を張り上げるでもなく静かにスタメンメンバーに言う。よほど頭に来てるのか肩を震わせていた、無駄にヨコや大介という優秀な選手がいるためにプライドが敗北が許さなかったんだろか。


「ヤスオ山崎、パスを回してくれないか」


汗だくで息を切らしながら最終クォーターに向かう途中大介が小さく言うと山崎は笑顔で頷き俺も肩を叩いた。俺のマークしていた女子を振り切るには直線勝負のかけっこしかない。山崎はマークしていた女子をドリブルで抜ける、だから攻めの起点となる速攻が出来る。


当然ヨコが後ろから追いつけばゴール下に強引に切り込めるが速攻が決められる内は決めたいが点差と時間がどうしても重くなってくると考えながら山崎からパスが通り切り込もうとすると声がかかる。


「ヘイ」


後ろで大介が構えパスを回すと綺麗なフォームだった、何回繰り返したんだろうと思うくらいに華麗なフォームからシュートが繰り出されパシュという心地よいい音と共に点が加わる。


「よぉーし」


ヨコが珍しく声を張り上げガッツポーズをすると俺は気付く。大介が決めたのはスリーポイント、これならいけると残り時間を見ると残り3分ちょいで5点差。


「時間を使え!焦るな!」


審判をやっていた安部が指示を出し始めるが誰も咎めない。ここからはワンミスが致命的なり誰もが慎重になる。


「女子にはスリーポイントはない!中を固めろ」


マンツーマンから即座にゾーンディフェンスに切り替えるためにヨコが吠えると皆が即座に対応して固めるが俺だけがエース級に張り付く。もう頭では考えず体が反応したと思う。攻める場所といったら身長差がある大介の所しかなくパスが通ると切り込まれていく。


大介は小さな体を力の限り広げ両手を振り回して懸命に身長差が埋めようとするが……それが裏目に出る。ベチィと鈍い音が響くと安部の笛がなる。大介の手が女子の手首に平手打ちのように当たり反則を取られてしまう。


「……っ」


男子の音のない溜息が大きく響いた気がする。そこからはあっという間だった。再び大介の所から攻められると反則を恐れて縮こまり抜かれてしまう、ヨコがフォローにいくが間に合わず1ゴール。再び点差は開き俺と山崎が速攻をかけて大介でスリーポイントを狙うが当然大介には厳しいマークがつく。


得点を入れなければと速攻で1ゴール返すが女子も再び大介を狙う。機転を利かせヨコが抜かれる前にフォローに入るが逆にマークが無くなったエースが決めて再び点差は元に戻る。その繰り返し。


「そこまで」


最後の3分間は終わり女子達が飛び上がり喜んでいるのはよく覚えている。7点差のまま漫画のような逆転劇もなく男子は負けた。よほど悔しかったのはヨコは汗を拭いていたタオルをバックに投げつけ真水は茫然としていた。


山崎は試合が終わり休んでいると女子が寄ってきてキャーキャー言われていた。そして大介は誰にも顔を見せないように背中を向けていた。俺はというと気のいた事をも思いつかず大介から少し離れた所で立っていたが自然と足が前へ出た。


「あ~なんていうか、お前のおかげで試合出れて楽しかったよ……またバスケ教えてくれ」


大介は振り返り笑顔で答えてくれて心底ホッとした。しかし次の瞬間雷のような声が体育館に響く。


「何度言わせるんだ!相手は女子だぞ!」


矢部の怒りが臨界点を突破して噴出した。まずスタメンメンバーを並べられてあそこがダメとか説教を始まり思いつく限りの悪態を吐きだしていく。そこからなぜか当時適当組だった臼井という男子と矢部が口論が始まる。


内容はよく覚えてないがとにかくお互い引かず指を付き合い唾を飛ばし合いながら激論だった。最終的に矢部が臼井に対して二度とくるなと言い。涙目の臼井は出て行った。安部がそのあと矢部と何か話していたが男子達はドン引きである。


「とりあえず臼井のとこいくか」


ヨコが言い出し男子全てが体育館から抜け出し下駄箱がある学校入り口にいくと意外な人物が臼井を引き留めていた。


「親父!」


ヨコ父である。とにかくデカい、ヨコの親だけあって巨大。臼井から事情を聴いたのかなだめて体育館に臼井と共に戻り矢部と話すと意外なほど丸く収まる。それから度々ミニバスに顔を出しては練習に参加してくれた。矢部と違う所は指示を出すだけではなく自ら練習に加わりアドバイスをくれた。


「コマタ君、まず君はシュートだ。外からも打てるようになれば必ず役に立つ」


シュートフォームとドリブルからの落ち着いたシュートを打てる体の使い方と具体的に教えてくれた、そーゆ事が重なり男子の信頼を得たヨコ父。今思うとあんな親父いたらそりゃヨコがバスケにハマるわなって思う。


今ではいい思い出だ、俺の数少ない青春てやつだなぁ~

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