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俺の子供の頃は土曜は半日授業があり、午後から女子との練習試合が始まりギャラリーもそこそこいた。達郎は適当組で仲間とワイワイやってた、適当組には規格外のモンスターがいた。通称ポス、背はヨコよりも大きく体格の才能にも恵まれてるのにスタメンに入れない。それはポスが運動能力が皆無だからだ、本人のやる気次第だったかわからないが今思うと逸材だったのに勿体ない。
試合の始まりはヨコがボールを弾きスタメンメンバーが速攻をかけて1ゴールで女子との戦いが幕を開けた。男子スタメンはヨコ大介は鉄板で山崎というヨコほどでないが背が高く真面目に練習して体力もドリブルの速さも持ち合わせ更に顔が整っていて女子から人気あるスター選手だったと思う。
プレイスタイルは俺と同じ鋭い切り込みが得意で背もあるので全てのポジションが出来る万能型。今振り返る俺の上位種だったなぁ、そこに真水君という山崎と同じ背丈を持ち速さはないが高さの有利でスタメン入りを果たしている。
「オッケェオッケェいけるよぉ」
そして最後のスタメンが声を上げて盛り上げる、通称和田わっち。和田は速さも高さも更にスタミナもない、なぜスタメンに選ばれたのか今思っても謎。俺は前回の練習試合の活躍はあったがスタメン入りはなく隅の方でボーと見てた、多少は悔しさはあったと思うが山崎君のプレイで相手女子のベンチが黄色い声を出しててスゲェなぁって馬鹿顔だった。
1ゴール決められ女子からのボールでスタートした時に俺は異変に気付いた。女子を舐めていてよく見なかったがボールをもった女子を見ると背がヨコ並……しかも女子全ての選手が高い。ヨコほどではないにしろ山崎や真水と同等かそれ以上。
「当たれぇ!」
男子ミニバス顧問の矢部が声を上げる。外見は眼鏡で細い体格からは想像できない熱くなりやすい男。女子の顧問は安部、いつも白シャツに黒い縦じま模様があるスキンヘッドで髭の親父。その外見からプロレスのレフェリーと皆で笑っていた。今回の審判を務め腰を落とし走り回る姿は本当にレフェリーに見える。
たぶん最初の異変に気付いたのは大介だったと思う。女子は高さを生かしてパスを回してじっくり攻めて和田わっちの穴を即座についてきた。一度でもゴール下に切り込まれると高さが物をいう、当然ヨコが当たるが女子がゴール下に2人でも入られたら止める術がない。
「なぁヤスオ、俺大介にポジション奪われたんだよなぁ」
「そうかぁ~大変だなぁ」
適当組の頭杉本の愚痴を聞き流しながら俺は見入っていた。女子は高さもあるが単純に上手い。パス回しの速さ、腰を落としてからドリブルまでのゴール下への切り込む速さ、何より男子の弱点がわかっている。
「走り負けるなぁ」
矢部の声が上がりスタメンが一斉に走り出すと、その機動力が奪われてしまう。女子はマンツーマンで徹底的に張り付いた。背が同等の山崎真水組は息がかかるほどの距離で迫られボール持ってないのに前にいけない状態になり司令塔の大介がパスを出しづらくなりヨコに頼るしかなくなる。
男子はやはりヨコに頼り部分がかなり多くあり得点のほとんどはヨコだった。しかしそれも熟知していた女子はヨコにボールがわたると2人がかりで潰しにきた。当然マークは1人マークが空くが和田わっち、大介と山崎がなんとかヨコから繋ぎシュートを狙うが外れてしまう。
「プッシング!!」
和田わっちが激しいディフェンスに対して腕を振り回してボールを守ってた時に肘が女子の顔に当たったらしい。一度時計を止めたが女子はすぐ復帰して再開すると酷かった。
「男子なんてやっつけちゃえ」
女子ベンチから声が上がるほど劣勢になる。まず自分達のバスケが出来ずリズムが崩れてしまうと普段入るシュートも外して体力と精神が削られてるのは外から見ててもわかった。大介も冷静だったがヨコ大介以外の選手とは自力が違ってた。
やはり高さの有利が目立つ、対抗できるのはヨコと山崎ぐらいでディフェンスに回ると好き放題パスを回され切り込まれると止めるのがヨコぐらいしかいなかった、女の恐ろしい所は和田わっちという穴を徹底的に攻めて容赦なく得点を挙げていく。
1クォータ目が終わると10点差は離されてしまう。インターバル中は安部は監督役に戻り女子ベンチからは喜びの声と気を抜くなよって阿倍の声が響く。
「お前ら相手は女子だぞ」
一方男子ベンチは体は細いが熱い魂を持つ矢部が吠える。俺という昆虫は体育座りで女子はすげぇなぁって口を半開きにしてた。適当組もいつか試合を真剣に見るようになりスタメンの息の激しさがやたら耳に響いてたのは覚えている。
「ヤスオ出てくれ」
大介を声をかけてきて俺は驚いた。スタメンを外された時点で観客気分だったはずなのにいつもより汗の量が多く焦った表情の大介に言われ立ち上がる。
「正直に言うよ」
スポーツドリンク飲みながら大介は本心を俺に伝えた。
「お前はクラスでは勉強も出来ず馬鹿にされてる。でもバスケに関してはお前は馬鹿じゃないと思う、だから和田と変わってくれ監督には俺が言う」
ゼッケンが入った網っぽいユニフォームを渡されて頭から被り着ると素直に思った。頑張ろうと、俺の技術なんてヨコや大介には遠く及ばず、適当組でも真面目組でなく中途半端だったが大介の言葉が昆虫のプライドに火をつけた。
初めてだったんだ……あんな真っ直ぐに期待されたのは、大介の冷静な判断力と自分の意見をはっきり言える度胸が俺の背中を押してくれた。




