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6年生の梅雨の時期になると窓に当たる雨の音を聞きながらボンヤリしていた。熊田の授業は余計な事はない淡々としたリズムを刻んでいる事が多い。過去に授業中ふざけて怒られたりもしたが、そんな事もしなくなりただの置物のように授業中はボーとしていたのを覚えている。
授業中に問題を出され熊田を生徒を指名して答えさせるという事もあったが俺が何回もわかりませんって言うと当てられなくなった。
「またコクわかんねぇんのかよぉ」
と野次も最初の方は飛ばされていたがその内俺に当てられると反応もなくなる。流れ作業のようなわかりませんから少し怒り気味の熊田の座ってろを繰り返したと思う。友達と休み時間会話はするがあの頃はあまり笑わなかったと思う。
別に悲しいとか寂しいとかではなくずーとボーとしてた。理由は今もわからない。運動だけ多少できる昆虫の相手をしてくれたのがケイ君と達郎だったが思い出してみるとまだいた。
「おぅヤスオ家くるか」
後に仲間内最強の財力を誇る貴族ハルである。ハルの家は丘の上にあり3時になったらおやつが出てくるため仲間内では行きたがる奴が多かった。だいたい太ってるという理由だけでブーちゃんと名付けられた佐藤君、同じバスケ部せっちん、なぜかジャスコと呼ばれてる平賀がよく集まっていた。
ケイ君とハルは野球部繋がりで俺はバスケの話したり最新のゲーム機で遊んでたりしててあの頃は幸せだったなぁ、なんていうか毎日心の底から笑ってた気がする。せっちんは学校では大人しかったがハルの家ではよく笑ってたのは覚えている。
「それでなぁ、あの子がよぉ」
ハルは仲間内では誰よりも早く色恋沙汰に目覚め、その話を聞きながら凄いなぁ~とか馬鹿顔を晒してたんだろうな。小学生の時点で女子たちは派閥を作っていたが男は不思議なもんで外見、成績、運動神経がバラバラでも気の合う同士仲良くしてたと思う。
ケイ君は授業中に先生に当てられると奇声を上げる事にハマりよく熊田に注意されてた、あぁん!とか、うおぉん!とか。あと小渕恵三のオブチて響が気に入ったらしくオブチィとか叫んでた、本当に謎な友達ケイ君。
「あー振ってるなぁ」
家は学校から直線で1キロのない所にあるが大雨で立ち尽くした。傘なんて持つのが面倒という可哀想な理由で上から降ってくる雨粒を眺めて30分はいたと思う。やはり脳に障害があるんじゃないかなと思うほどの昆虫だ。
「傘ないなら途中までいこうか」
もう名前も顔も覚えてないが確かに女子に声をかけられのは覚えている。なんていうか俺とは着てる服とか纏っているオーラが違うってのが印象的だった、その頃の俺は女子と仲良くした奴が噂になったのを知り女子が少し怖かったが雨の中走るよりかはマシだと思い傘に入る。
俺なりに綺麗な服を着てる女子を汚しちゃいけないと思い肩を傘の外に出すと何をしてるのとか言われて怒られたと思う。同級生に見られたら大変だと思い足を速めたが、その足は言葉で止まってしまう。
「お母さんから聞いたけどコマタ君の所大変だったらしいね、元気だしてね」
チンピラが暴力事件起こして子供が病院に運ばれた事件が起これば噂にもなるわなと今は思うが当時の俺にはガツンと頭を殴られた気がして足を止めて大雨の中で立ち尽くした。
「傘入りなよ濡れるよ。ほら早く」
「あ……あぁ悪いな俺馬鹿でさ、いっつもこんなんだから先帰ってていいよ。こんなビショビショの奴触ると汚いから帰っていいよ」
「でも」
ヘラヘラと作り笑いしながらバイバイと手を振るとその子は何度か振り返る帰っていった。時間にして10分くらい雨の中トボトボ歩いて時なんとなく感じた。
「あぁ俺ってやっぱりなんか人と違うんだな」
皆が当たり前のように出来る勉強は微塵も出来ず、友達の家にいくと家具の豪華さご飯の美味しさに驚いたり、その友達の家から帰ってきた自分の家との落差に落ち込んだりと今までなんとなく感じてた違和感が分かった気がした。
「コクゥお前昨日見たぞぉ」
翌日ハルがニヤニヤして近づいてきてハッとした。
「お前違うからな!やめろよ!言い触らすなよ!」
わかりやすいリアクションで顔を真っ赤にしたのは覚えている。あの時だけはハルが悪魔に見えた。クラスでのお馬鹿ポジションの地位が失われるのが怖かったのか必死だった。ほんとどうしようもないプライド。
そんな昆虫と仲良く付き合ってくれたケイ君達郎ハル、今振り返っても友達だけには恵まれてたと思う。ハルは女子と気軽に話してて女子が怖かった俺には度胸あるなぁと思い眺めてた。たまにハル経由で女子と話したがいまいちだったと思う。
「集合ぉ」
ミニバス部顧問が声を上げると体育館の隅に集められて説明受けると、どうやら同じミニバス部の女子と練習試合するらしい。前回も練習試合で気をよくした男の顧問が女子に話を通し同じ学校同士の戦いが始まる。
男子は女子相手かよって舐めてるが準備運動してる女子はやる気満々だった。男子側にはヨコと大介がいるので負けはしないと思ったが悲惨な結果が待ち受けていた。
バスケコート中央でボール上がりヨコと背の高い女子が飛び上がり手の平がバスケボールを勢いよく叩く音で女子と男子の戦いが始まる。




