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小学6年生最後の大会はヨコの圧倒的な高さでコート中央でジャンプボールを奪い山崎が速攻1ゴールから始まった。俺はベンチでボケーと見てたがチーム皆は興奮していたと思う。最後の大会もあるがバスケ漫画のおかげで全国の学生達にバスケブームがきてたのだ。
普段やる気のないサボり気味の連中も声を上げていた、やはりヨコと大介の活躍が目立ちどんどんゴールを重ねていく様は見てて爽快。熱き監督矢部は1回戦にも関わらず喉を潰す勢いで叫びまくり我ら真砂小学校ミニバスケ部は熱気に包まれていく。
「よっしゃ」
ヨコが声を上げると試合終了のブザーが響き終わってみたら圧勝とまではいかないが余裕のあるスコアの差で勝利。あの時は確かにチームは一丸となっていた。休憩中もスタメン同士が次の試合について作戦を立ててる中俺は階段脇のある自販機でジュースを飲み間抜け顔。
「コマタ君」
いつかの体育館で山崎が気になっていたと話してた女子が近づいてきて俺は驚いた。まず女子と同じ場所で大会だったのすら知らなかったのだ。
「あ、どーも」
「山崎君凄い活躍だったね、見てて驚いたよ」
「山崎のとこいってやりなよ喜ぶと思うぞ」
この頃になると山崎に嫉妬すら感じなくなり素直な気持ちだった。確かにヨコや大介の陰に隠れてはいるが得点はしっかり稼ぐ点取り屋として華がある。
「そう思ったんだけど他の女子が既に何人かいてね」
「あぁ~確かにモテモテだもんな山崎、まぁ話しかけるチャンスなんていくらでもあるだろ」
この頃の俺は女子と喋るのが恥ずかしく話しかけられてもクールぶっていた、その方が感情が表に出さなくていいからやりやすかったのだ、しかしクールぶってる自分に少し酔っていた隠れた悲しき過去。2回戦が始まるとスタメンは驚きの俺起用、正直勘弁してくれとも思った。
この頃から注目されるのは苦手でリスクを嫌う傾向が出てきた。相手チームは1回戦の時に見たけどとにかく攻撃的、常に速攻を狙うわかりやすいがシンプルすぎて対策が取りづらいと大介がコートに入ってから言ってきた。
「うーむ、作戦かぁ」
ならば対策はと昆虫らしからぬ頭を使ってるとパスが勢いよくきて昆虫らしく走り出す。相手も毎回速攻かけるだけあってスピードもあり俺にマークがついた奴なんて俺と髪型と長さまで一緒でかなり驚いたがとにかく1ゴール決めると相手の驚きの攻めがくる。
「いくぞぉ!」
5人全て速攻タイプとは予想もしなかった。コートを常に全力、短距離走でもやってるのかってくらい突っ込んでくる。その速さを常に発揮して一息か二息ぐらいの感覚でゴール返されてスタメンの5人は一度足を止める。
「おいヤスオ俺あーゆの燃えるわ」
我らがスター選手山崎は同じ土俵で勝負したいらしく単身で敵陣に突っ込み囲まれるがマンツーマンのマークを振り切るからなんとか隙が生まれそこから1ゴールに繋がる。そこからはスピード対決になりスコアもどんどん跳ね上がっていく。
「走り負けるな!ここで負けてるようじゃ上にはいけないぞ」
熱き魂を持つ矢部は遥か上を目指してるが俺はというと1クォータから走りっぱなしで汗だくでゼェゼェ言いながら勘弁してくれと思う。とにかく相手が早いのだ、少しでもこちらがスローペースになれば押し負けるので付き合うしかないがいつも以上の速さで走るので体力の消耗が激しい。
「ヤスオ矢部と同じ意見だ。ここは力勝負でいこう」
ヨコは生き生きとした顔で俺の肩を叩くと純粋にバスケを楽しんでいたのだと思う。俺も最後の大会の熱気に当てられたのかこうなったらとことんやってやろうと思うが悩み所もある。
「……っ!! くそ!」
コート上で愚痴を吐くほどマークしてる憎い奴が早い、正確には俺とほぼ同様の速さで俺が攻めれば同じ速度でマークされるのでとにかくやりづらい。そいつが攻める時も同様に俺も鏡のように守ると一進一退。相当単独で切り込むプレイに自信があるのか俺が防ぐと同じく愚痴を漏らしていた。
お互いこいつには負けたくないと思っていたはずだ、スタイルどころか体格も髪型も鏡見てるような気分だった。俺がこいつを抜ければ攻め手が増えるんだ、抜いてやるよって意地になっていて何回も挑むが抜けない、相手も同じだから俺の所だけでボールが止まってしまう。
「コマタァ!! 抜けえええ」
矢部の咆哮は俺が何度失敗しても響いたが失敗すれば逆にカウンターのチャンスを与えることを知りボールを止めてしまう。しかしこいつはそんなの気にせずガンガン前に出てきてくれるからボールを奪いたまにカウンターが決まる。
そうして4クォーター目までズルズルとお互い交代されないままくる。点差は1ゴール差を繰り返していく。さずがにヨコや大介は警戒されてパスが出せない。そうなるともう強引にでもドリブル突破して少しでも前に出るしかないが宿敵が俺と同じ速さで横から手を伸ばしてくる。
「頑張れぇええ!!」
視界にチラっと見えたのは自販機で話した恋するあの子だ。その声援を送られてる山崎も走りながらスペースを見つけようと奮闘している。
「何を意地になっていたんだろうな」
これまで徹底的にマークしてる奴と1対1でどちらが上かを決める戦いだったが小さな体から声を上げる女の子を見て頭が冷えた。マークしてる奴も驚いただろうな、俺がファウル覚悟で突撃をしたと思えば寸前でパスを山崎に出し華麗に1ゴール決まる。
お前なんで勝負しないんだと睨みつけてくる目は今でも覚えている。悪いなお前はきっと今までレギュラーを任せられ一人で得点を重ねてきたんだろうな。俺は違うんだ、自信もなく気になる女の子出来たと思えば山崎が好きだってよ。勝負する理由もない。
「おい逃げるな」
俺にしか聞こえない小声で奴は言ってきたが無視し徹底した。奴にはない武器を俺は持っていた事に気づいたからだ。奴は単独で得点を上げる純粋なアタッカーだがそれ故に個人でしかない、俺には山崎という上位種がいる。2年間同じ体育館で汗を流し呼吸を合わせてきた相棒がいるんだ。
そこからは簡単だった、俺がドリブルで抜くというフェイントが必ずかかり落ち着いて山崎にパスを繋げてそれが攻めの起点になり少しづつだが点差に響いてくる。4クォーター同じリズムで動いてきた相手チームが崩れていくのがわかる。
今まで絶対パスが出なかった場所からパスが通れば警戒しなくてはならない、意識する場所が増えればそれだけでも負担になり逆に我がチームは山崎を起点にさらに攻めの幅を広げていけた。
「ラスト1分!!」
最後は我ながら完璧だった、パスを出す俺に警戒した奴を一瞬で抜き去りレイアップシュートを決めたと思ったら時間切れで得点にならなかったあたりが俺らしい。
「勝ったぞ!!ヤスオ」
山崎が背中越しから抱き着いてきた時に汗が全身から噴き出して一気に疲れたが体を重くしたがトーナメントなので連戦が待っている。少しでも休みたいからコートの端っこで座り込み水分補給していると山崎の周りには女子数人、もうお決まりの光景だが羨ましいなぁと再び嫉妬に火がつく未練タラタラ昆虫。
あの時はチームも見に来てくれた保護者も夢を見ていたんだと思う、優勝という夢を。




