第52話
「依頼完了!
全兵士生存、シーサーペント魔法師の討伐に成功!
依頼達成度評価:S!
獲得功績値:450!(S評価ボーナス×1.5)」
依頼完了の通知と同時に、シーサーペント魔法師が轟音を立てて崩れ落ちた。
兵士隊長は懐から信号弾を取り出し、緑色の光弾を空へと打ち上げる。
「エリアアナウンス:エリート級侵入魔物を撃破。グリーンシグナル区域の危機は解除されました!」
「助かった! この区域の危機はひとまず去った。これで避難民も安全に通行できる!」
「もし可能であれば、引き続きシーサーペント魔法師の掃討に協力していただけないか! 奴らの破壊力は凄まじい……詠唱を止められず、我々では対処が難しいのだ……!」
負傷した兵士たちは互いに肩を貸し合いながら立ち上がる。危機が去り、傷病者もすぐに治療を受け始めた。
「安心して。ちょうどそのつもりだった」
功績値は、いくらあっても足りない。
シーサーペント魔法師の掃討は、安全かつ最も効率のいい稼ぎ方だ。
「頼んだぞ!」
私たちは老人たちを避難所まで送り届けた直後、空に二発目の赤い信号弾が灯った。
ガウに跨り、即座に出発する。
◇
精鋭ハンターとして、私たちは十三時間ぶっ通しで戦い続けた。
討伐したエリート級シーサーペントは、合計十五体。
道中で処理した小型魔物も合わせ、功績値はすでに六千に到達している。
功績ランキングでは、私たちのパーティは一人当たりのスコアが断崖のように突き抜け、二位に実に四千以上の差をつけていた。
「もう無理……死ぬ……詠唱しすぎて喉が焼けそう……」
千夏がその場にへたり込む。
私も肩に鈍い痛みを感じていた。弓を引き続けた腕は激しく震え、水筒すらまともに持てない。
周囲を見渡す。
富士山降臨エリアから大量の攻略者が到着し、第一陣の支援によって防衛圧力は大きく緩和されていた。
攻城魔物は、ほぼ掃討されつつある。
「休もう。援軍が来た」
私は座り込み、ガウの体に背を預けた。
張り詰めていた神経が一気に緩み、意識がわずかに遠のく。
十三時間に及ぶ索敵、判断、射撃。
まだレベル三十にも満たない身体には、さすがに負担が大きすぎた。
だが収穫も莫大だ。
全員の功績値は六千超え。合わせれば、西フヴニア王国の小規模な封地すら交換できる。
私自身もレベル二十九へ到達し、海族素材を大量に獲得した。
通常の狩場で一週間狩り続けたとしても、今日ほどの成果は得られないだろう。
魔物は次々と姿を消し、王都への襲撃も止んだ。
戦火と硝煙が薄れ、戦闘音も静まり返っていく。
すべてが好転しているはずなのに——
胸の奥に、言いようのない不安が渦巻いていた。
ゴゴゴゴ……。
突如、大地が再び揺れる。
降臨の瞬間に似ている。
だが、比べものにならないほど激しい。
……違う。
前世に、こんな地震はあったか?
くそ……十年前の記憶が曖昧すぎる。
そのときだった。
大気そのものを震わせるような、超低音が遠方から響いた。
まるで巨大な鯨の鳴動。
だが規模が違う。
防空警報のように都市全域へ反響し、背筋が凍る。
「……大阪湾の方向?」
私たちは崖の上に立っていた。
夕陽がゆっくりと大阪湾の彼方へ沈んでいく。
次の瞬間。
海面の下から盛り上がるように巨大な波が隆起し、岸へと激突した。
「……あれは、何だ?!」
違う。
前世にこんな出来事は絶対にない。
細部は忘れていても、一つだけ確信している。
私は前世、日没の頃に大阪降臨エリアへ到着した。
ほどなく襲撃は終息し、そのまま結果精算へ移行した。
新たな魔物も、異常事態も——
ましてや、津波など存在しなかった。
「世界アナウンス:
警報!!!
西フヴニア王都南西部・海竜湾にて津波を確認!
全員、ただちに内陸へ避難せよ!」
再び——
世界が軋むような重低音。
その咆哮は途切れることなく、十数分にわたって響き続けた。
拡散した衝撃波が雲を吹き散らし、海水は沸騰したかのように跳ね狂う。
巨大な波が幾重にも重なり、狂気の勢いで西フヴニア王都へ襲いかかった。
「逃げろ!! 逃げろ————!!」
海水が一気に市街へ逆流する。
冒険者も兵士も、ただ走ることしかできない。
「……あれ、生き物なのか?!」
「あり得ない……!」
王都の四分の一が、すでに崩壊していた。
——たった一声で。
それなのに、人々は何が起きているのかすら理解できない。
「……あれは何だ……何なんだ……?!」
未曾有の恐怖が、全身の熱を奪っていく。
「——樹——」
微かに。
海の底から響く声が変質した。
空虚な咆哮ではない。
何かを——唱えている。
その声は、世界の空そのものに反響した。
「——樹——」
「——……の……樹——」




