第51話
赤い信号弾のエリアに、エリートが出現しただと?
しかも、その信号弾の真下は——私たちからわずか数十メートルしか離れていない!
「回避しろ! ウォーターキャノン来るぞ!!!」
次の瞬間、信号弾の下方から高圧の水流が激しく噴き上がり、三百六十度を薙ぎ払うように襲いかかってきた!
「木の後ろに隠れて!」
千夏とガウは即座に老人たちを押しやり、木陰へと避難させる。
私は大きく跳躍して水流を回避し、そのまま空中から戦場を俯瞰した。
「シーサーペント系魔法師、レベル21。周囲に王都NPC部隊が二つ。片方はすでに重傷で戦闘不能、負傷者は燈里の九時方向!」
私はパーティーチャンネルで情報を共有する。
「了解。」
『通知:緊急クエスト〈王都兵士の救援〉を自動受注しました。』
『クエスト報酬:功勲100ポイント。
エリート・シーサーペント魔法師の討伐に成功した場合、追加で200ポイントを獲得。』
通常の魔物を一体倒しても功勲はたったの1ポイント。
それなのに、この任務は一気に300ポイントだ!
三百もあれば、小さな土地だって交換できる。
「……注意して! 敵の杖に雷属性の魔法石がある。雷撃系の可能性が高い、通電ダメージに警戒して!」
警告を出した直後、魔法師の杖が眩い雷光を放った。
「まずい!」
「さっきの水圧が弱かったのは前段階ってこと?! 本命はこっちの攻撃魔法か!」
先ほどの水流を浴びたせいで、全員の衣服は完全にびしょ濡れだ。
地面も、木の幹も、水で満たされている。
この状態で高電圧が走れば——誰一人逃げられない!
矢では間に合わない……!
だが、その瞬間。
燈里はすでに魔法師の背後に回り込んでいた。
ギン——!
短剣が雷の魔法石へと深々と突き刺さる。
凄まじい衝撃に魔力回路が激しく揺らぎ、石の表面に亀裂が走った!
しかし同時に、電流が燈里の右腕を貫く。
腕が一瞬で感覚を失った。
それでも——詠唱は止まらない。
だが、燈里が時間を稼いでくれたおかげで……
矢は、もう放たれている。
流星のように落下し——
轟ッ!!
爆裂矢が魔法石の中心を正確に撃ち抜いた。
激しい爆発が石を粉砕する!
魔法は完全に中断された。
爆風に弾き飛ばされた燈里が、後方宙返りのまま片膝をつく。
いつも通り静かな声だが、わずかに恨みが滲んでいた。
「……私ごと吹き飛ばす気?」
「ちゃんと生きてるだろ?」
「……」
燈里は麻痺解除のポーションを飲み干す。
そこへ私と千夏も合流した。
「助かった……! 本当に助かったぞ、冒険者! 来てくれるのがあと一秒遅ければ全滅だった!」
兵士たちは冷や汗まみれだ。
「くそっ、あのシーサーペントども……普段は海竜湾に引きこもってるはずなのに、今日はまるで狂ったみたいに陸を襲ってきやがる!」
「原因は後だ! 冒険者、頼む! あれを足止めしてくれ! まだ救助しなきゃならない負傷者がいる!」
エリート級はボスほどの体力はない。
だが巨体に加え、海妖族特有の強靭な皮膚を持つ。
急所を一撃——というわけにはいかない。
もっとも。
こういう相手への対処法なら、前世で嫌というほど叩き込まれている。
「魔法職は詠唱が長い。その代わり、一度放たれれば広範囲で致命的。……私が詠唱を徹底的に潰す。二人は全力で削って!」
「了解!」×2
「ま、待て! 弓兵が詠唱を止めるのか?!」
兵士が不安げにこちらを見る。
「魔力回路の核心を正確に撃ち抜かなきゃ詠唱は止まらない! 遠距離じゃ難しいはずだ、あの暗殺者に任せた方が——」
ヒュン——!
言い終える前に、魔法師は次の詠唱へ入っていた。
だが。
数音節唱えたところで、巨体が仰け反る。
詠唱は苦悶の呻きに変わり、強制的に断ち切られた。
「一撃で……止めただと?!」
兵士たちが呆然とする。
私は答えない。
すでに意識は、射撃へ完全に集中している。
尾を大きく空へ伸ばし、毛先で微細な横風すら感知する。
《天秤の瞳》の視界の中で、矢の軌道は寸分違わず計算され、魔力中枢へと吸い込まれていく。
燈里の暗殺から逃げられる近接職がいないように。
私の前で詠唱を完遂できる者はいない。
十年の攻略経験。
すべての魔法回路と急所は、すでに頭に入っている。
神器の弓も、《天秤の瞳》もなかった頃ですら——私は災厄の源へ辿り着いた。
ならば今は、なおさらだ。
ヒュン——!
『詠唱中断成功!』
ヒュン——!
中断成功!
ヒュン——!
『連続中断成功! 対象は魔力暴走状態に突入、詠唱不能!』
「つ、強すぎる……!」
兵士たちは、こんなにも楽な戦闘を経験したことがなかった。
堂々たるエリート級魔法師が、ただの案山子のように立ち尽くし、魔法を一つも放てないまま殴られている。
——これは間違いなく、彼にとって最も屈辱的な一日だ。
死の間際まで誇っていた魔法は、一度も発動できなかった。
詠唱を封じられたまま、削り殺されていく。
やがて魔力が完全に暴走した魔法師は、ついに杖を振り上げ——棍棒のように叩きつけ始めた。
「ほらね。これが私が筋力にステータスを振った理由。」
千夏が「先見の明があるでしょ?」と言わんばかりに胸を張る。
「……本当に筋力、かなり振ってるんだね?」




