第48話
「来るな……来るなよ……!」
強盗は恐怖に目を見開き、燈里を睨みつけた。
その気持ちは理解できる。あの圧迫感は、まるで死神が鎌を提げてこちらへ歩いてくるかのようで、頭の中には自分の死へのカウントダウンが何度も浮かび上がってくるのだろう。
「それ以上近づいたら、全員道連れにしてやる!」
剣士が突如、アイテム欄から黒い球体を取り出した。
錬金爆弾?! こいつ、錬金爆弾なんて持ってるの?!
その威力は、半径百メートルを更地に変えるほどだ!
だが——燈里の足は一切止まらない。
「試してみればいい。私が速いか、それともあなたの爆弾が速いか。」
コツ。
コツ。
コツ。
靴の踵が地面を打つ音だけが、一定の間隔で静かに響く。
強盗にはもう、それが死神の足音なのか、それとも爆弾の秒読みなのか判別できていない。
思考能力は完全に凍りついていた。
そして——次に意識がはっきりしたとき。
彼の手から長剣は滑り落ちていた。
両手には警察の手錠がかけられ、力の抜けた身体は地面に膝をついている。
「化け物……」
「あいつ……あいつは化け物だ!」
「化け物はあいつの方だ! お前ら、あいつを捕まえろよ! 絶対に人を殺してる! 一人どころじゃない!!」
強盗の精神は完全に崩壊し、支離滅裂なことを喚き散らし始めた。
「行こう。」
まるで何事もなかったかのように——ただ些細な用事を済ませただけのような口調だった。
燈里は振り返りもせず、そのまま屋敷の外へ向かって歩き出す。
「燈里!」
その背中を見つめ、当主が思わず呼びかけた。
だが、反応はない。
「燈里! 私たちは家族だろう! 誤解があるなら、ゆっくり解けばいいじゃないか! 何があろうと、私はお前の父親だ!」
「父親?」
燈里は、ふっと笑った。
「もし先ほどの魔法杖が向けられていたのが私で、お嬢様ではなかったとして——あなたは私の前に立っていましたか?」
「私は……」
当主は長いこと言葉を詰まらせ——結局、何も口にできなかった。
もう彼女は、かつてのように簡単に騙される子供ではない。
仮に言葉にしたところで、嘘だと見抜かれるだけだ。
「……」
私と千夏は顔を見合わせ、小さくため息をつくと、ガウに跨って後を追った。
……仕方ない。今夜は公園で野宿かな。
悪くない。夜景くらいは楽しめそうだし。
◇
「ちょっと待ってて。」
私はガウから飛び降り、近くのギフトショップへ駆け込んだ。
財布の中の円は心許ないけれど、簡単なものなら買える。
しばらくして——
私は両手を背中に隠し、尻尾でそれを覆いながら、こそこそと燈里の前へ小走りで戻る。
「?」
燈里が不思議そうにこちらを見る。
次の瞬間、私は背後からクラッカーを取り出し——パンッ!と勢いよく鳴らした。
色とりどりの紙吹雪が、雪のように燈里の頭上へ降り注ぐ。
「おめでとう、実績解除〜! 石から生まれし者!」
「………………」
燈里も千夏も、まるで石化魔法でも受けたかのように固まった。
「人を慰めるのにそれ?! 性格悪すぎ!」
千夏の拳が私の頭に炸裂する。
「痛っ!」
思わず頭を抱えてうずくまる。
すると燈里は、逆に小さく笑った。
「石から生まれたというのも……悪くないかもしれませんね。ごめんなさい、今日はこんな茶番を見せてしまって。」
「謝ることじゃないよ。どこに生まれるかなんて、自分じゃ選べないんだから。」
私は顔をしかめながら、殴られた場所をさすった。頭蓋骨にヒビでも入ったんじゃないの……? この子、まさかステータスポイント全部を筋力に振ってるんじゃ——?!
深く息を吸い、自分に言い聞かせる。
(あいつは前世の嫌な奴じゃない。いきなり必殺技を撃ってきたりしない。)
(あいつは前世の嫌な奴じゃない。いきなり必殺技を撃ってきたりしない。)
(あいつは前世の嫌な奴じゃない。いきなり必殺技を撃ってきたりしない。)
私は背伸びして、馴れ馴れしいチンピラみたいに燈里の肩へ腕を回し、わざと低い声で言った。
「石から生まれた後輩としてさ〜、ちょっとくらい気持ち見せて、先輩に孝行してくれてもいいんじゃない? ほら〜?」
指先を燈里の前でこすり合わせる。
ドンッ——!
「いっっっったたたたた!! バカ千夏! 殺す気?!」
「だって、さっき“合わせて”って個チャしてきたじゃない。」
「合わせろとは言ったけど、殺せとは言ってない!!」
「だって、あまりにも殴りたくなる顔してたし……ごめん、じゃあもう一回やろう。今度は軽めにするから。」
「やめて!!」




