第47話
「あり得ない!! この私生児が伝説級の攻略者だなんて……家はあの子に何の支援もしていないのよ! 嘘でしょう?!」
九条理人の言葉を聞いた瞬間、カエルおばさんの表情はむしろいっそう醜く歪んだ。
家族のはずなのに、燈里が成し遂げた偉業は彼女に一片の誇りも抱かせない。
それどころか、頬を思いきり打たれたかのように取り乱し、この現実を即座に否定しようとしている。
だが当の九条理人は驚くほど鈍感で、雇い主の顔色などまるで気づかないまま、崇拝にも似た声を張り上げた。
「俺はあのダンジョン攻略をこの目で見たんだ! 完璧だった、あまりにも完璧すぎた! 操作は華麗、戦略も超一流!
これからの世界で、あの人たちは間違いなく頂点に立つ存在になる! 今のうちに投資できた奴は大儲け間違いなしだ!!」
「………………」
カエルおばさんの顔は、三トンの汚物でも無理やり食わされたかのように最悪だった。
投資、ですって?
家族である彼女には、燈里へ投資できる機会などいくらでもあった。たとえ「おはよう」と一言かけるだけでも。
だが現実は正反対。
彼女は“投資”するどころか、その成長の道に無数の棘をばら撒いてきた。
挙げ句の果てには、家から遠く離れた別の街へ追いやり、たった一人で学校に通わせたのだ。
「ってことは家族か? なら話は早い! あの人たちなら俺たちを助けてくれるはずだ!」
九条理人はなおも無邪気に、言葉の刃で雇い主の胸を抉り続ける。
私は黙って、あいつに親指を立てた。
馬鹿だけど……いい仕事してる。
「燈……燈里。」カエルおばさんは、泣き笑いのような歪んだ笑みを必死に作る。「助けて……ママを助けてちょうだい……お願い……」
「申し訳ありません。あなたは自分が私の母親ではないと言いました。私の母はとっくに死んでいる、私はただの雑草だと。
ですから——あなたを助ける理由はありません。」
燈里の言葉に、カエルおばさんの表情が凍りつく。
強盗は奪った財物をアイテム欄へ放り込みながら、のんびりと口を挟んだ。
「やれやれ……どうやら助ける気はまるでねえみたいだな。」
「そ、そんな……やめて……」カエルおばさんは再び笑顔を作ろうとする。「私はあなたの母親よ……継母でも母は母でしょう……?」
「私があなたを“お母さん”と呼んだら、金で人を雇って私の脚を折ると言いましたよね。」
燈里は淡々と、冷え切った声で復唱した。
まるで他人の出来事でも語るかのように。
「何だと?! 本当にそんなことを言ったのか?!」
当主が怒りの目をカエルおばさんへ向ける。
だが燈里は、彼に一切の体面を残さなかった。
「あなたはあの時、ドアの外で聞いていましたよね。気づいていないとでも思いましたか?」
「……」
嘘をその場で暴かれ、当主の顔がみるみる赤く染まる。
「当主であるあなたの黙認がなければ、彼女はあんなこと絶対にできなかった。
まだ昔のまま——あなたたちに依存し、信じるしかなかった子供だと思っているのですか?」
当主は言葉を失った。
まるで初めて娘を見たかのように。
目の前の燈里は、あまりにも見知らぬ存在だった。
お嬢様が突然、燈里を鋭く睨みつける。
「違う……あなたは誰? 前に会ったときはあんなに怯えていたのに……たった一ヶ月で人がここまで変わるはずがない! 本当に燈里なの?!」
燈里は無表情のままだ。
感情の一切を読み取らせない。
沈黙が恐ろしいほどに場を支配し、当主とお嬢様からは貴族めいた余裕が消え失せていく。
ようやく理解したのだ。
目の前の燈里には——自分たちを救う気など、欠片もないと。
未来世界で最も有望な伝説級攻略者を、自ら敵に回してしまったのだと。
「どうやら終わりだな……撤収、撤収!」
強盗はすでにすべての財物をアイテム欄へ収め終えていた。魔法師が得意げに九条理人を蹴り飛ばす。
「ボスの言った通りだ。降臨エリアの外はやっぱり雑魚ばっかだな。俺たちはまるで超能力者だ、好き放題できる!」
「お前ら、相当金を持ってるんだろ?」
魔法師の杖が、不意に当主へ向けられる。
「この銀行口座に千億円振り込め。それと満タンのSUVを一台用意しろ。さもなきゃ——全員殺す。」
「千億だと?!」
当主の顔から血の気が引いた。
「そんな大金、すぐに用意できるはずが……」
「無理か? なら先に娘を殺す。そうすりゃ用意できるようになるかもしれねえな〜」
杖の先が今度はお嬢様へ向けられ、淡い光が灯る。
「やめろ!!!」
当主はためらいなくお嬢様へ覆いかぶさり、その背を盾にした。
確かに彼は娘を愛している。命を賭して守るほどに。
ただし——その愛が分け与えられることは決してなかった。
キン——
杖が弾き飛ばされる。
逸れた魔法が当主のすぐ横の地面を爆ぜさせた。
「一度だけ助けます。これで——私たちの関係は完全に終わりです。」
同意も拒否も許さない宣告。
次の瞬間。
魔法師の四肢から血霧が噴き上がった。
誰も視認できなかった、その刹那——すでに四肢の筋肉はすべて断ち切られていた。
「なっ……?! この速度……人間に可能な速さか?!」
魔法師は信じられないものを見る目で崩れ落ちる。
「攻撃してくるとはな……! 近づくな!」
剣士の刃が人質の喉元に食い込む。
「一歩でも来れば殺す!」
「どうぞ。」
「……何?」
夜行衣に包まれた燈里の長身が、静かに、優雅に剣士へ歩み寄る。
その声には、微塵の感情もない。
「人質が成立する前提は——」
「相手が人質の生死を気にかけること。」
「ですが——」
「私は気にしません。」




