第46話
「なんだその雑魚攻略組は……全員しゃがめ! 動くな!」
「そこの二人! お前たちのことだ! いつまで気取ってる? 死にたいのか?!」
強盗の男が杖を突きつけた先には、呆然と立ち尽くす当主とお嬢様の姿があった。
二人の手から赤ワインのグラスが滑り落ち、床で砕け散る。
「九条理人……あなた、ランキングトップ10のプレイヤーでしょう?! どうして一撃も受け止められませんの?!」
お嬢様の指先が怒りに震えている。
「……ゲームではトップ10ですが、現実でまでそうとは限りませんよ」
九条理人は口から黒煙を吐き出した。
……そもそも彼はこの祝賀会に出席するため、ここ二日ほど降臨エリアでのレベリングをしていなかったのだ。
「いつまで喋ってやがる! さっさとしゃがめ!」
強盗は荒々しく当主とお嬢様の前へ歩み寄る。
魔法師が大きく振りかぶった杖を、二人の背中へ容赦なく叩きつけた。
鈍い呻き声とともに、二人は膝をつく。
当主が歯ぎしりした。
「見ろ、お前のやったことだ! 強者を連れて来いと言ったのに、こんな役立たずを選びおって!」
「わ、私は……想定していませんでした。それに、人選は母が推薦したものですし……あなたも了承なさったでしょう」
「口答えする気か?!」
「……」
少し離れた林の陰で、私はようやく人物関係を理解した気がした。
「あの男の人……あなたのお父さん?」
「うん。」
「じゃあ、あのカエルみたいなおばさんは継母?」
「……そう。」
「なるほど。」
あの男の隣にいる若い女性が、おそらく例のお嬢様なのだろう。
「……本当はこんなこと、言いたくないんだけど。」
私は頬を膨らませ、ぷいと顔を逸らす。本能的に、隣の宿敵を褒める気にはなれなかった。
それでも、真面目に感想を口にする。
「でも、あの人……どこを取ってもあなたに及ばないよ。」
燈里の身体が、わずかに震えた。
……
「おい! 二人とも! しゃがんでるだけじゃなくて、どうにかして私を助けなさいよ!」
人質にされたカエルおばさんは恐怖の極みに達し、その圧力をそのまま当主とお嬢様へぶつけていた。
だが当主もまた怒りでいっぱいだった。
「どう助けろと言うんだ?! お前が推薦したこの無能を見ろ! 一撃も耐えられんとは! 人選が甘いからこうなるんだ、自業自得だ!」
「あなたも同意したじゃありませんか! ランキング上位のプレイヤーなら知名度がある、資金集めにも有利だと——!」
カエルおばさんが甲高い声で言い返す。
当主は顔を覆った。
「それにしたって弱すぎるだろうが!」
「……おい! おい!」
黒焦げ寸前の九条理人が、岸に打ち上げられた魚のようにびくびくと身を跳ねさせた。
「誰が弱いだって?! ただ二日間レベリングしてなかっただけだ! 宴会に出ろと言ったのはあんたたちだろう、そのせいで攻略が遅れたんだ……それに、あの二人は本当に強い!」
「強い? どれほどだ?」
「さっきの魔法の威力から見て、間違いなく第一梯隊の攻略者だ! レベルはおそらく15……世界でも上位100名に入る!」
強盗は眉をひそめた。どうやらずっと話を聞いていたらしい。
やがて、耐えきれなくなったように冷笑する。
「……見る目はあるじゃねえか。
いいか、命が惜しけりゃ持ってる金目の物を全部差し出せ。それから警察には近寄るなと伝えろ。
さもなきゃ——この刃が大人しくしてる保証はない。」
刃が、カエルおばさんの喉元へさらに押し込まれた。
「た、助けて……! 誰か、助けてぇ!」
カエルおばさんの顔は絶望に歪んでいる。
当主の声が震えた。
「これほど強い相手では……我々はもう助からないのではないか?!」
「待て……あれは……あそこにいるのは……」
九条理人の視線が、不意に林の方へ向けられる。
——私たちが立っている場所だ。
「あの靴……レベル20のエピック装備?! まさか……彼女たちか?! 本当に彼女たちなのか?!」
九条理人が突如、興奮したように叫ぶ。
「見間違いじゃない……あの伝説の面々だ! 現段階で最強の攻略者! 河口湖ダンジョンを初踏破した存在!!」
「え?」
私たちは呆然と立ち尽くした。
当主とお嬢様の視線もこちらへ向く。
そして——燈里の姿を捉えた瞬間。
信じがたいものを見るような表情を浮かべた。
「……燈里???」




