第44話
「本当に申し訳ありません!」
――私たちは自首した。
ガウは走り続け、私たちの罪状もまた増え続けていた。
このまま逃げ続ければ、やがて上空には追跡用のヘリまで現れるだろう。
事態は、悪化する一方だ。
「あなた方には、交通規則違反および危険運転、合わせて十七件の容疑がかかっています……署までご同行願えますか」
交通警察は違反切符を引きちぎると、しばらく宙に掲げて迷った末、ガウの額にぺたりと貼りつけた。
帝国全土に指名手配されるより、この一言のほうがよほど恐ろしい。
私と千夏は、その場でさっと血の気が引いた。
「こ、拘留……されるんですか?」
「拘留されたくないのであれば、別の選択肢もあります。上では、あなた方のような“軽微な違反”を犯した降臨エリア越境者に向けて、《降臨災害特別条例》を用意していましてね」
まるで最初から準備していたかのように、交通警察は鞄から三台のボディカメラと、未記入の身分証を三枚取り出した。
「現在、警察署は深刻な人手不足です……このボディカメラを装着し、越境者による犯罪の取り締まりに協力していただけるなら、あなた方を臨時警察官として編入し、これまでの違反を相殺できます。
同時に、このカメラは都市部で力を濫用していないことの証明にもなります。万が一告発された場合の保険にもなるでしょう」
「やります!」
他に選択肢などなかった……。
降臨エリアは、まだ社会秩序を完全に破壊するには至っていない。
この段階で既存の秩序に逆らうのは、どう考えても賢明ではない。
「他の越境者と比べても、あなた方はずいぶん高い機動力をお持ちのようだ」
警察官はガウを見上げ、少し考えたあと、自分の車の屋根から警光灯を取り外した。
「これを装備してください」
……私はその警光灯を、ガウの尾にくくりつけた。
「その記録装置は特製です。位置情報と通信機能が備わっており、近隣で犯罪が発生した場合には通知が届きます。
犯罪を一件解決するごとに状況に応じたポイントが与えられ、これまでの違反を相殺できます。
なお、現在のあなた方のスコアはマイナス二十五点……励んでください」
パトカーはそのまま走り去っていった。
去り際、警察官は私たちの身分証に必要事項を書き込み、判を押していった。
ふぅ――。
なんにせよ、連行されなかっただけでも上出来だ。
「危機は去ったのか?」
依頼人は、退屈そうに額の違反切符を弄んでいる。
「ひとまずはね」
私は切符を剥がし、その背にまたがった。
「少し休む? もうだいぶ走りっぱなしだよ」
「不要だ! このまま行こう! 異世界というのは実に面白いな!」
「……」
完全にテンションが振り切れている。
◇
さらに一時間ほど進み、私たちは無事に大阪へと到着した。
「あっちよ」
燈里が一方向を指さす。
私たちは高層ビルの屋上へと跳び上がり、そこから視線を向けた。
封鎖された海浜の邸宅地。その中央に、白い建物がいくつも静かに佇んでいる。
私と千夏の口は、思わずじわじわと開いていった。
「……あれが、君の家?」
「まあ、そんなところ」
「……」
一瞬で、プレッシャーが跳ね上がった。
この子、もしかして……超一流財閥のお嬢様だったりするのでは?
「うちの家族、ちょっと性格が悪いの。もし無礼なことをされても気にしないで。私たちは一晩だけ泊まって、すぐに出るから。
それと、正門は使わない。あっちの離れに直接向かいましょう」
燈里は、林の奥に建つ白い小さな建物を指した。
正門を使わない?
何かを避けているように見える。
さっき言っていた“性格の悪い家族”だろうか……。
「おやおや~? 次女様ともあろう方が、まだお帰りになる気があったとは。ずいぶんアニメの登場人物みたいな格好をして、しかもこそこそと塀まで乗り越えて……まったく、家の恥ですこと!」
――残念ながら。
見つかった。
「……言う通りね。本当に感じが悪い。それに、あの髪型……カエルみたい」
私はそのツッコミをプライベートチャンネルで燈里に送った。氷のようだった彼女の表情が、思わず「ぷっ」と緩む。
それがどうやら、“カエルおばさん”の癇に障ったらしい。
「その格好、降臨エリアで兵士でもやるのがお似合いですわ。ちょうど我が家には降臨エリア関連のプロジェクトがありますのよ。確か……《東辰リアル攻略組》とかいう名前でしたかしら。応募なさいな、少しは家の役に立てるでしょう」
《東辰リアル攻略組》?
私は思わず妙な顔になった。
それってまさか……
神代明人が率い、私たちと初回踏破を争った末に全滅した、あの攻略チームのことじゃないか?!
「ぶっ――」
“カエルおばさん”の目の前だというのに、笑いがこみ上げるのを止められなかった。
未来において最強と謳われる暗殺者を、名も残せなかった三流攻略チームに入れろだなんて……
ごめん、本当に無理。笑わずにはいられない。




