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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
2.

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43/52

第43話

体調不良のため、本日の更新が遅れてしまいました。

申し訳ありません。



「……契約成立だ!」


爪が落ちた、その瞬間。

酒場に満ちていた喧騒が、まるで首を絞められたかのように途切れた。


私はグラスをテーブルに戻す。

針が落ちたような、かすかな音。


耳がぴくりと揺れ、

扉の向こうの鉄靴の音が、異様なほど鮮明に聞こえてくる。


一、二、三。


通りすがりじゃない。

――包囲だ。


私は視線を上げ、依頼人を見据えた。


「三人背負って、走れる?」


「問題ない!」


「……なら」


ビリッ――


服が引き裂かれ、私は千夏と燈里の腕を掴んでそのまま宙へ。

大きなガウの背へと、まとめて跳び乗った。


「正面突破! 南へ走れ!」


地上最速クラスの騎獣の一角。

警戒態勢に入ったガウを捕まえるのは、そう簡単じゃない!


「まずい! あのガウが逃げるぞ! 塞げ!」


「千夏! 魔法!」


「了解! 二人とも、目を閉じて――〈サン・ライト〉!」


聖光系の名前だが、実態は火属性。


杖の先端から炸裂するような閃光が放たれ、

世界そのものの明度が、限界まで引き上げられた。


「くそっ! 目が……見えねえ!」


「狡猾な魔法使いめ……あの大鳥、仲間がいたのか! 捕まえろ!」


大半が目を潰された、その一瞬。


私たちは包囲網を一気に突破した。


外で待ち構えていた帝国兵たちは完全に出遅れ、怒号が飛ぶ。


「何をしている! 追え!」


「前方の哨戒所に連絡! 通達を出せ、今すぐだ!」



ほどなくして、私たちの似顔絵が街道沿いに貼られ始めた。


「私たちまで、アルセイン帝国の指名手配……やりすぎじゃない?」


千夏は少し不安そうだったが、声に以前の動揺はない。


三日間の洗礼。

何度も死線をくぐり抜けたことで、彼女の精神は確実に鍛えられていた。


高校生としては、十分すぎるほどだ。


「アルセイン帝国領内の魔物分布は、

Lv1〜15、Lv60〜75、Lv100〜115。


私たちはもうLv20。

今さらLv15帯を狩っても、レベル差で経験値に重いペナルティが入る。


――だから、当分戻る理由はない」


「なるほどね〜」


次に降臨する大阪湾エリアの魔物レベルは、およそ20〜45。

私たちは、しばらくそこに腰を据えることになる。


……少し、楽しみでもある。


SEEKERの降臨時の姿は、

ゲームがサービス終了した“あの瞬間”の状態そのままだから。


私は終了前に、いろいろと“面白い準備”をしていた。


「大阪に行くなら……先に会っておきたい人がいる」


燈里が、ふいに口を開いた。


「?」


「私の両親が、大阪に住んでるの」


「……親、いたんだ?」


「どういう感想よ。

親がいなかったら、私が石から生まれたとでも思ってたの?」


燈里は額を押さえた。


……確かに、今のはおかしかったかもしれない。


私の中で、

“世界最強の暗殺者”という彼女のイメージは、

冷酷で、謎めいていて、危険そのものだった。


家庭の温もりと結びつけるのは、正直難しい。


「二人とも、住む場所ないでしょ。

今日は、うちで休んでいけばいい」


本当は断るつもりだった。

できるだけ、この危険人物とは距離を取りたかった。


……が、残高を見てしまった。


貯金はすべて、ゲーム内アイテムに突っ込んだ後。

今の円資産じゃ、ビジネスホテルすら無理。


――失策!


今夜、橋の下で寝たくなければ、選択肢は一つしかない。


ヒュン。


さらに南へ、約一時間。


薄い膜が、私たちの身体を撫でるように通り抜け、

視界は一変した。


見慣れた、現代の高層ビル群。


予想通り。

契約成立と同時に、ガウは地球側へとアンカーされた。


降臨エリアを、私たちと一緒に離れられる。


「こ……これは……?」


初めて現代世界を目にした依頼人は、言葉を失っていた。


降臨エリア内では、

世界が融合していても、原住民は自分たちの世界しか認識できない。


ほかのガウたちもビルの間を駆けていたが、

彼らの目には、それは高層建築ではなく、

ただの巨大な樹木に見えていたのだ。


「言ったでしょ。

追跡から完全に解放してあげるって。

向こうの連中、異世界までは追ってこられない」


「異世界?!」


ガウの感情が、一気に跳ね上がる。


「僕、異世界転生したの?!

ついにライトノベルの主人公に――?!」


「……」


異世界にも、ライトノベルはあるのか。


「先へ進もう。

車輪付きの鉄の箱には気をつけて。

下手すると、もう一回転生する」


「……赤信号では止まって!」


「……ちょっと! 逆走してる!

このままだと、二つの世界から指名手配される!」


「やばい! 警察が来た!

逃げろ! 鳥類用免許なんて持ってない!」


降臨エリアを抜ければ安全――

そう思っていた。


けれど、私は忘れていた。


このガウ、

交通ルールを一切理解していない。


夕方のラッシュアワー。

人で溢れ返る都市の大通り。


私たちは、

その中で――ひときわ目立つ存在になっていた。

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