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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
1.

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40/52

第40話

黒樹迷界北部――

アルセイン帝国、ゴルヴィン公爵邸。


夜明けの時刻。

ゴルヴィン公爵は机に向かい、羽根ペンを走らせていた。

紙の上をなぞる音だけが、静かな室内に響いている。

  

「至高なるアルセイン王陛下へ、謹んでご挨拶申し上げます。


 私は、あのお方のご命令に従い、黒樹迷界にて魔法陣の構築を完了し、七日間にわたり現地を守備しておりました。その七日のあいだ、魔竜禁空域において、看過できぬ変化が生じているように見受けられます……


 禁空域の変動につきましては、すでに別便にてご報告申し上げました。本書はそれとは別の、緊急の私信にございます。度重なるご報告、何卒ご寛恕ください。


 なぜなら――

 私は、この帝国が再び興隆する“未来”を目の当たりにしたのです!


 黒樹迷界にて遠隔操作の魔偶を用い、警戒任務に当たっていた折、ひとりの奇妙な冒険者と遭遇いたしました…… 


 その冒険者は、明らかに低レベルでありながら、二つもの神器を所持していたのです!


 一つは正体不明の空間系神器。

 なんと、その冒険者はLv20未満にもかかわらず、千メートル規模の空間転移を実現しておりました。


 空間神の権能――

 もしこれを帝国の手中に収めることができれば、我が軍は距離も補給線も無視し、大陸のいかなる地にも瞬時に侵攻できましょう!


 たとえ単独転移に限られるとしても、空間能力を用いた暗殺・破壊工作は、想像を絶する効果を発揮するはずです!


 未来において、空間の力は――

 帝国最強の“戦車”となることでしょう!


 そして、戦車といえば――

 もう一つ、看過できぬ神器がございます。


 千年前、無数の神々を屠ったと伝えられる、あの伝説の短剣……

 どうやら、再び世に現れたようなのです!


 私は、その少女の手に握られた短剣を確かに目にしました。

 時の封印により力は大きく制限され、再成長を必要としているようではありましたが――


 その材質、その威圧感……

 すべてが、伝承に語られる“弑神の短剣”と完全に一致していたのです!


 神を殺し得る武器――

 それが、確かに存在していました!


 もし帝国がその神器を手にし、空間の力と組み合わせることができれば。

 敵対する諸国の支配者など、屠られる仔羊に等しく、その生殺与奪は我らの掌中に収まるでしょう!


 以上の理由から、私はここに進言いたします。

 直ちに全国規模の軍を動員し、あの冒険者を追討すべきです!


 当該冒険者の容貌は魔法水晶に記録済みであり、本書と共に信鳩の脚に括り付けました。


 事態は一刻を争います。

 神器が他者の手に渡る前に、何卒、全土追討令のご発布を――!


 私、陛下のご裁可を、静かにお待ち申し上げます!」


書き終えると、ゴルヴィン公爵は手紙と魔法水晶を、機械仕掛けの信鳩の脚に丁寧に結びつけた。


「行け。

 この書簡を、必ず陛下のもとへ届けるのだ」


機械信鳩は翼を広げ、静かに窓の外へと飛び立つ。


ヒュッ――


だが、窓を出たその瞬間。

信鳩は何かに激突したかのように、激しく弾き返された。


――一本の矢。


それは信鳩を壁へと縫い止め、正確に中枢を撃ち砕いていた。


「何者だ!? この私に――」


言葉が、途中で途切れた。


ゴルヴィン公爵は、自分が声を失っていることに気づく。


まるで、沈黙の拘束具を嵌められたガウのように。


いつの間にか、鋭い矢尻が彼の喉元に突きつけられていた。

頸動脈を貫くには、十分すぎる距離だ。


――だが、相手はすぐには動かない。


矢尻はわずかに皮膚へ食い込み、彼女の背後で、狐の尻尾が窓を静かに閉めた。


室内は、完全な静寂に包まれる。


そのときになって、ゴルヴィン公爵はようやく、侵入者の姿を視界に捉えた。


胸を締め付けるような恐怖。

それでも彼は、必死に平静を装う。


「……お前は、誰だ?」


「ふふ、白々しいですね」


相手は微笑んだ。

どこか消耗した様子ながら、声は異様なほど落ち着いている。


「ゴルヴィン公爵。

 表向きは享楽に溺れた貴族。

 その実、アルセイン帝国でただ一人の“傀儡師”。

 国王のために、裏仕事を一手に引き受けてきた……違いますか?」


ゴルヴィン公爵の瞳が、大きく揺れる。


それは、蛇に絡め取られたかのような、逃げ場のない恐怖だった。


「な……なぜ、それを!?

 神殿ですら知らぬ秘密だぞ!」


「秘密?」


彼女は首を傾げる。


「時間が経てば――

 すべての秘密は、必ず白日の下に晒されます」


「……っ!」


ゴルヴィン公爵は必死に思考を巡らせる。

だが、考えれば考えるほど、自分が完全に見透かされているという絶望が強まっていった。


公爵邸の警備をすべてすり抜け、ここに立っている。

それだけで――彼女が自分のすべてを把握している証拠だった。


こんな小娘に……脅されるなど……!


Lv20にも満たぬ新人冒険者が……この私を!?


不意を突けば勝てる。

相手は低レベルだ。

奇襲すれば、一瞬で――


……待て。


ゴルヴィン公爵の視線が、相手の手元に留まる。


「……」


――見間違いか?


その白く細い指に、

奇妙な指輪が五つ、嵌められているように見えた。


……五つの神器指輪???


思考が、完全に停止した。


彼はゆっくりと、鏡に映る姿を見る。


自分を暗殺しに来た存在――


頭から、足先まで。


彼女の身に纏う装備は、すべてが“見覚えのあるもの”だった。


ゴルヴィン公爵は幼少期から、これら神器の伝承を聞いて育ったのだ。


かつて彼自身も、神器に選ばれ、英雄となる夢を抱いたことがある。


神器に認められるためには、

無数の試練を越え、人格・知恵・意志、そのすべてが極限まで試される――

そういう物語だったはずだ。


……それが何だ?


神器ハーレムでも築いているというのか?


「……」


「私が質問する。

 あなたは、答えるだけ」


ゴルヴィン公爵は、虚ろに頷いた。


「黒樹迷界で神器を見たことを、他に誰に伝えた?」


「……身分上、極秘事項だ。

 誰にも伝えていない。

 国王陛下に報告するため、書簡を書いただけだ……」


鏡越しに、彼女の瞳が淡く光る。

嘘を見抜いているかのように。


しばらくして、彼女は頷いた。


「……嘘は言っていない」


ゴルヴィン公爵は震える声で口を開く。

同時に、室内の魔偶へと魔力を密かに繋げた。


「……それなら――」


「それなら、あなた一人が死ねばいい」


「……貴様ァッ!

 操傀魔法《百偶の舞》!」


「――っ!」


反撃の隙すら、与えられなかった。


矢は彼の頸動脈を正確に貫き、

叫ぼうとした口は、硬く塞がれる。


魔偶たちは暴風のように動き出し、

室内のすべてを破壊し尽くそうとした。


だが――

矢に宿る冷気が、彼の意識を急速に凍結させていく。


制御を失った魔偶は、次々と床へ崩れ落ちた。


「……弓使い……が……暗殺……」


ゴルヴィン公爵は、最後まで信じられなかった。


自らの屋敷で。

最も安全だと信じていた場所で。


Lv20未満の新人冒険者に、命を奪われるなど。


しかも――

相手は、潜行向きですらない“弓使い”。


あまりにも、馬鹿げている。


――暗殺?


私は、ほんの一瞬、呆然とした。


……そうか。

私も、こんなことをするようになったのか。


砕けた窓から、冷たい朝風が吹き込み、

私の額の髪を揺らす。


信鳩を拾い上げ、

フードを深く被ったまま、私は窓辺に立つ。


光と影の境界線。


下では、異変に気づいた護衛たちが集まり始めていた。


つま先を、そっと窓枠に掛ける。


――跳んだ。



公爵邸。

暗殺現場。


暗殺者が去って、ほどなく。


部屋の影の奥で、

酒紅色の瞳が、静かに開かれた。


背の高い、しなやかな影が、幽霊のように闇から歩み出る。


幽紫の結晶短剣が、指先で一度だけ回され、鞘へと戻された。


指先が弾かれ、

空間に裂け目が走る。


「……まったく」


「……見事、だね」


  


(第一巻 完)



第一巻は、ここまでとなります。

ここまで読み進めてくださり、本当にありがとうございました。


皆さまのご閲覧とご応援は、

私が書き続けるうえで、常に大きな励みとなっています。


内容や表現などで至らぬ点がありましたら、

どうぞご遠慮なくご指摘ください。

いただいたご意見は一つひとつ大切に拝読し、

今後の改善と成長に繋げていきたいと思います。


次の巻では、

太平洋地域において大きな変化が訪れます。


この物語を気に入っていただけた方、

また今後の展開にご期待いただける方は、

フォローや★で応援していただけると、とても励みになります。


これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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