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神器も世界樹も神獣卵も買った。あとはゲームが現実になるのを待つだけ  作者: 狐白
1.

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38/52

第38話

 私は、右胸を貫いているその剣を、必死に握り締めていた。


 掌が、刃を掴んでいる。


 痛みが、波のように脳裏を叩く。


 結局……

 あれらの神器を、使うしかないのか。


 見せたくなかった。

 神器という存在が、人間をどれほど狂わせるか――

 私はもう、嫌というほど知っている。


 燈里に狙われること自体は、正直、まだ許容範囲だ。

 この女に暗殺されかける日常には、とうに慣れている。


 問題は――この魔偶だ。


 背後で操っている存在は、遠く離れた場所に潜んでいる可能性が高い。

 今この場で、確実に口封じができない。


 もし、あいつに私の神器が見られたら――

 間違いなく、次はそれを狙ってくる。


 そうなれば、相手は燈里だけでは済まない。


 帝国全体――

 いや、SEEKERという世界そのものが、私を狩りに来る。


 どう考えても、今は神器を使うべき時じゃない。


 ……それでも。


 選択肢が、もう残っていない。


 

 「怖がらなくていい」


 耳元で囁かれたその声に、身体が強張った。


 背後から伸びた二本の腕が、獲物を拘束する鎖のように、私をきつく絡め取る。


 次の瞬間――

 傷口に、柔らかく、温かい感触が触れた。


 「後は……私に任せて」


 「……なに!?」


 目の前の魔偶が、はっきりと動揺を見せる。


 その瞬間、私の身体は嘘のように軽くなり、

 鎖に引かれるように後方へ倒れ――


 次の瞬間。


 視界が、完全に反転した。


 ……千メートル以上、転移している!?


 「……空間、転移?」


 暗殺者が、生得的にそんな能力を持つはずがない。


 つまり――


 神器!?


 燈里が……神器を!?


 魔偶の長剣は、空間の歪みによって豆腐のように切断され、

 残った刃先も、彼女は何事もなかったかのように引き抜いた。


 直後。


 背後から、貪るような嚥下音が響く。


 血が失われていくのが、はっきり分かる。

 力も、意識も、吸い取られていく。


 それに比例するように、私を拘束する腕の力が強まっていく……。


 やばい……!


 こいつがこれから先、腹を空かせるたびに私のところへ来る――

 そう思った瞬間、視界が真っ暗になった。


 やがて。


 まるで満腹になったかのように、嚥下音が止まる。


 「……ごめん。他に方法がなかった。

 これは……そのお詫び」


 力の入らない私の手首を、彼女は軽々と掴み――


 翠緑色の指輪を、私の左手の中指へと通した。


 温かな緑の光が、指輪から身体へと流れ込み、

 失われたHPを、ゆっくり、確実に回復させていく。


 傷口も、みるみるうちに塞がっていった。


 ……《生息の指輪》。


 神器。


 効果――常時回復。


 また神器!?


 こいつ……いくつ神器を持っているんだ!?


 木にもたれかかりながら、

 わずかに力の戻った左手を持ち上げ、

 指輪を嵌めた中指を立てたまま、彼女の顔の前に突き出す。


 「……私の血、吐き出せ……クソ野郎……」


 おかげで、燈里の蒼白だった頬には、すっかり血色が戻っていた。


 彼女は、いつもの腹立たしいほど余裕のある笑みを浮かべ、

 舌先で唇に残った血を舐め取る。


 月光を背にした、酒紅色の瞳が妖しく輝き、

 まるで、口内に残る甘さを反芻しているかのようだった。


 「とても美味しかった。ごちそうさま」


 次の瞬間。


 淡く光を帯びた、黒曜石の短剣が、彼女の手に現れる。


 《弑神の短剣(神器)》


 ……また神器!?


 こいつ、本当に装備を回収してないのか!?


 「……私の前で、そんな神器を晒して……」


 私は愕然としたまま、燈里を見る。


 「欲が出て……

 私が、あんたを殺すかもしれないって……思わないの?」


 「ふふ」


 燈里は小さく笑い、立ち上がって魔偶へと向き直った。


 完全に無防備な背中を、私に晒したまま。


 「今日から、あなたは私の唯一の食料よ〜


 あなたが死ねば、私も餓死する。


 その神器があなたの生存率を上げるなら……

 あげたって、別にいいでしょ?」


 ガチャ……ギィ……


 遠くで、魔偶の駆動音が響く。


 空中に、再びHPバーが表示された。


 ……追ってきた。


 燈里は短剣を逆手に構え、僅かに身を沈める。

 声が、一気に冷えた。


 「ここから先。


 私は、誰にも食料を無駄にさせない。


 大人しく、休んでて」


 「……」


 呆然と、その場に立ち尽くす。


 食料としてであれ、何であれ。


 二度目の人生を含めても――


 初めてだった。


 誰かが、私の前に立ってくれたのは。


 「逃げても〜無駄だよぉ〜〜〜」


 魔偶が、ゆっくりと森から姿を現す。

 剣先を地面に引きずり、耳障りな音を立てながら。


 「小さな狐ちゃん〜

 おとなしく血を差し出しなぁ……

 大丈夫、そんなに痛くないからさ……ククク……」


 「……ごめん」


 「……?」


 声が、唐突に背後から響いた。


 「その血は――私のもの」


 「いつの間に……!?」


 弑神の短剣が閃き、

 防ごうとした魔偶の手ごと、貫通する。


 深々と、大脳部のコアまで。


 《急所命中!

 クリティカル!

 −4000!》


 「……あり得ない!?」


 機械でありながら、悲鳴は裏返っていた。


 一撃で、HPの四割が削られている!


 もう一度喰らえば、即死だ。


 「その短剣も……神器か!?」


 魔偶の独眼が、燈里の短剣に釘付けになる。


 だが、次の瞬間には――

 彼女の姿は、再び森の闇に溶けていた。


 「相手を変えたか……アサシン……クソッ!

 なんなんだ、この怪物みたいな冒険者どもは!!」


 自分は三十レベル超え。


 それなのに、十数レベルの二人に、ここまで追い詰められるとは。


 弓使いは、近接戦だけでコア防御を破壊。

 標的を切り替えなければ、すでに粉々だった。


 そして、この新たな刺客――


 神器を抜きにしても、異常すぎる。


 足音すら立てず、幽霊のように現れる隠密能力。


 「……ここまで追い込まれるとは」


 魔偶の胸部のルーンが切り替わる。


 警告色の赤。


 全身から灼熱の蒸気が噴き出し、

 出力が極限まで引き上げられる。


 速度、攻撃力、全面強化。


 同時に、この形態は刺客殺しだ。

 蒸気が、接近を阻む。


 「エンチャント・フリーズ」


 ヒュン――


 蒸気を切り裂き、蒼き矢が飛ぶ。


 氷原そのものを封じ込めたかのような、青の符文。


 体力は、もうこの一射分しか残っていない。


 それでも、MPのすべてを注ぎ込み、極限まで強化した。


 「……なに!?」


 額を撃ち抜かれた魔偶の頭部が、瞬時に冷却される。


 噴き出した蒸気すら、氷の粒へと凍りついた。


 その隙を――


 逃すはずがない。


 弑神の短剣が、正確無比に振るわれる。


 頭部、完全破壊。


 《急所破壊!

 クリティカル!

 氷砕!

 −13000!》

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― 新着の感想 ―
多分これ前回も知らん間に食糧にされてるで。お腹減った→半◯し。
一周目の世界で食料に成ったのは誰なんだろうな、、、
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