第31話
「正気じゃないでしょ!!
なんで急に石ころの取り合いになるのよ……いった——!」
左目の下の青あざを押さえた瞬間、
走るような痛みに思わず息を吸い込んだ。
挨拶もなしに、戦士たちが一斉に突っ込んできたのだ。
しかも、盾役はシールドチャージまで使ってきた!
そのまま――
私は、派手に吹き飛ばされた。
地面を十メートル以上転がり、
最後は壁に頭から激突。
HPは、ほぼゼロ寸前。
「……殺す気なの!?」
全身が痛い。
骨が何本か、今にも折れそうな感覚だった……。
「も、申し訳ありません!!
『ボスの頭に座ると経験値が増える』って聞いて、
つい反射的に突っ込んでしまって……!
盾で視界が塞がっていて、そこに座っていらっしゃるとは……!」
副会長が、土下座でもしそうな勢いで謝り倒す。
「……私たちも……」
他のメンバーも、
揃ってうなだれた。
まるで、先生に叱られた子犬みたいだ。
「…………」
「ぷっ……」
誰かが、堪えきれなかった。
ほんの小さな笑い声。
――それが引き金だった。
「ぷははははっ!!
ご、ごめんなさい!! 本当にごめんなさい!!
でも……でも、笑っちゃって……!」
「…………」
この……
クソども!!!
私は歯を食いしばり、
ダンジョンの出口へ向かって歩き出した。
……そういえば。
あのバカは?
さっきの突撃で、吹き飛ばされてなかったの?
そう思って、燈里のほうを見る。
「……ん?」
燈里は、慌てて額のコブを押さえた。
――だが。
額は隠せても、
顔には、くっきりと靴跡が残っている。
「……ぷっ」
一気に、機嫌が良くなった。
◇
戦利品の分配。
千夏はロールの結果、
〈石像の杖〉を獲得した。
エピックランクの魔法杖だ。
嬉しさのあまり、
その場でぴょんと跳ねる。
私と燈里は、
それぞれアサシンとアーチャー。
このダンジョンでは、
私たち向けの装備はドロップしない。
だから装備ロールは辞退し、
代わりにモンスター素材を選んだ。
すでに装備を得ている戦士や魔法使いたちも、
素材ロールを自発的に放棄してくれた。
この分配は、私にとって理想的だった。
正直、繋ぎ装備は必要ない。
素材のほうが、
バッグに入っている神器の強化に使える。
ダンジョンを出ようとした、そのとき。
三つの見慣れた影が、
互いに肩を貸し合いながら、
よろよろと外へ出てきた。
出た途端、力尽きたように崩れ落ちる。
――神代明人のパーティ。
……いや。
もう、三人しかいなかった。
しかも、その中に
神代明人本人の姿はない。
私は小さく首を振り、
河口湖町へと歩き出す。
こういう光景は、もう何度も見てきた。
今さら、心が揺れることもない。
「ありがとうございます!
本当に、ありがとうございました!」
背後から、声がかかる。
振り返ると、
あの三人の生存者だった。
うち二人は、
以前、私を神代明人のパーティに誘ってきた人物だ。
「あなたが言ってくれたでしょう。
“回復職は三人必要だ”って……。
あのときは、結局従えませんでしたけど……
不安になって、
持てるお金を全部使って、
錬金ポーションを多めに用意したんです」
「そのおかげで……
結界が解除されるまで、生き残れました。
本当に、ありがとうございました!」
私は何も答えず、
軽く手を振って、その場を離れた。
ダンジョン報酬は確かに豪華だが、
クリア報酬には週一回のクールタイムがある。
成長を続けるなら、
次へ進まなければならない。
――世界メインクエスト。
〈黒樹迷界〉。
その前に、
もう一度、新手の村で準備を整える。
◇
昼間の新手の村――河口湖町。
昨夜とは比べものにならないほど、人が多い。
NPCたちも、昼は活動時間らしく、
町全体が、異世界の生活感に満ちていた。
「冒険者さん、どうしてそんなにボロボロに……?
治癒魔法、いかがです?
1シルバーですよ〜?」
NPCの治療師が、
にこにこしながら顔を近づけてくる。
視線は、
私の目の下の青あざに釘付けだ。
「いりません!」
私はさっと身を引いた。
「ふふ、そんなこと言わないで〜」
治療師は得意げに、
人差し指を一本立てる。
……まるで、
何かを待っているような仕草。
首を傾げた、その瞬間。
「おい! 危ない、避けろ!!」
背後から、切羽詰まった叫び。
「ドンッ――!」
鈍い衝撃。
さっき盾戦士に吹き飛ばされたときの感覚が、
そのまま再現された。
腰に激痛が走り、
反応する間もなく、身体が宙を舞う。
回転する視界。
魂が身体から抜け出しそうな浮遊感。
――朦朧とした意識の中で、
転生担当の女神様が、
手を振っているような幻が見えた。
……しまった!
油断した!
新手の村はセーフティゾーン。
攻撃スキルは使えない。
魔物も出ない。
事故死すら、起こらない。
どれだけダメージを受けても、
HPは必ず1残る。
――だが。
事故が起きないとは、誰も言っていない。
「……ぽすん」
私は、
さっきの治療師の目の前に、
見事に叩き落とされた。
次の瞬間。
鎮痛、治癒、接骨、打撲回復――
手慣れた治療光が、次々と私を包む。
「ありがとうございました〜〜〜」
無言で銀貨を一枚取り出し、
相手に渡す。
そして、
原因を作った“何か”を見る。
「今、私にぶつかったのは……」
「ガウ??」
そこにいたのは――
見覚えのありすぎる姿。
今朝、ダンジョンへ入る前。
駅舎で叱られていた、あの――
ガウ。
「……どういうこと!?」




