第29話
「なに!? わざと……放逐されろって言うのか!?」
〈夜明〉&〈余火〉合同攻略チーム。
ボスの残りHPは、11%。
全員が私を見た。
その視線には、はっきりと「正気か?」と書いてある。
なぜなら――
私がたった今、提案した作戦は、
すべての遠距離DPSが、あえてその場に立ち、放逐結界に閉じ込められることだったからだ。
白夜の配信コメント欄も、同じ疑問で埋め尽くされる。
〈この弓使いのお姉さん、操作はカッコいいけど、指揮は向いてないんじゃ?〉
〈放逐されたら結界に閉じ込められて、ボスに攻撃できなくなるだろ〉
〈もともと三ヒーラーで火力ギリギリなのに、それじゃダメ足りなくない?〉
「全員、注意しろ! 残り**10%**だ!
ボスは最終フェーズに入る!
広範囲攻撃が来るぞ、ヒーラーは全員のHPを注視しろ!」
白夜の号令と同時に、
ボスは手にした杖を掲げ、狂暴化フェーズ特有の動作に入った。
次の瞬間。
空から降り注ぐ大規模な炎。
地面には行動を制限する燃焼エリアが次々と生まれ、
回避は一気に困難になる。
逃げ場を失った仲間たちは、
炎をまともに受けながら、無理やり脱出するしかなかった。
「ダメだ! 回復量が足りない!
このままじゃ、MPが先に尽きる!!」
「なに!?」
白夜が息を呑む。
三人もヒーラーを入れている。
それなのに、全体HPを維持できないなど――想定外だった。
「ボス残り8%!
この火力だと、倒し切る前に全滅するぞ!」
「くそ……!」
白夜の額を、冷や汗が伝う。
「そうか……このレベル帯のヒーラーは、まだ範囲回復を覚えていない。
単体回復だけじゃ、この広域ダメージは耐えられない……」
「終わった……」
「まさか……ここで全滅か……?」
次第に、チーム全体に不安が広がっていく。
三ヒーラー編成に対する疑念も、
この瞬間、誰の胸にも芽生えていた。
序盤は確かに順調だった。
だが――最後の**10%**は、明らかに火力勝負だ。
DPSが少なければ、集中攻撃は成立しない。
そして、いくらヒーラーが多くても、
このダメージを耐え続けることは不可能だった。
「遠距離DPS、全員、私のところへ集合!
私を中心に、3時・6時・9時方向!
間隔は5メートル!」
この瞬間、
私はもう指揮権の優先だの何だのを気にしていられなかった。
――強引に、指揮を引き受ける。
私を含め、遠距離職は四人。
彼らは一瞬ためらい、白夜を見る。
「……彼女の指示に従え!」
白夜は即断した。
「これからは、この弓使いの彼女が指揮を執る!」
状況は、もはや明白だった。
これまでの指揮を続ければ、待っているのは全滅のみ。
ならば――変えるしかない。
「位置についたら、絶対に動かないで!
放逐の予兆が出ても、避けないで!
完全に結界に入るまで、立ち続けて!」
四人の遠距離職が、指示通りに立つ。
ほどなくして、
ボスが全体放逐スキルを発動。
全員の足元に、放逐結界の魔法陣が浮かび上がった。
「近接とヒーラーは結界から離脱!
遠距離職は、そのまま動くな!」
――ブゥン。
空気がわずかに震え、
世界が、唐突に静まり返る。
円形の放逐結界が展開され、
私たち四人の遠距離DPSは、
壁の内側へと閉じ込められ、戦場から完全に隔離された。
配信コメントは、一気に荒れた。
〈終わった! ただでさえ火力足りないのに!〉
〈なんだこの指揮!?
さっきまではワンチャンあったのに、もう無理だろ!〉
別の配信画面では、
神代明人が、ついに“見たかった光景”を目にしていた。
炎の中に膝をつき、
満足そうに笑う。
〈ハハハハ――!
お前らも終わりだ!
俺がクリアできなかったダンジョンを、誰が越えられるってんだ!〉
時間が進む。
もともと遅かったボスのHP減少速度は、
さらに鈍くなった。
〈……ん? ちょっと待て!〉
誰かが、異変に気づく。
〈ヒーラーのMP……ほとんど減ってないぞ!?〉
〈え……? ってことは……〉
ヒーラーのMPが尽きない限り、
傷は癒やされ続ける。
即死ギミックでもない限り、
全滅の原因は、必ずヒーラーのMP枯渇だ。
直前のAOEで、
ヒーラーたちは全力回復を強いられ、
MPは限界寸前まで落ちていた。
――だが今。
消費速度と回復速度が、
ほぼ釣り合っている。
それはつまり――
「……分かった!」
白夜の胸が大きく跳ねる。
拳を強く握りしめた。
「結界は、味方の攻撃だけじゃない……
ボスの攻撃判定も遮断しているんだ!
防御力の低い遠距離DPSを、あえて結界に隔離することで、
被ダメージをゼロにする!
結果、回復負荷を大幅に下げられる!」
息を吸い、続ける。
「ゲームなら、絶対に選ばない戦法だ。
効率が悪すぎるし、キャラの生死を気にしないからな。
――でも、今は違う。
これが、唯一の正解だ!」
ゲームでは効率がすべて。
キャラが死のうが、やり直せばいい。
だが、現実では違う。
これは――
最も安全な攻略法だった。
「ただし……ヒーラーのMPは、まだ少しずつ減っている。
全滅は遅らせられるが、
この火力だと、30分耐えて撤退はできても、
全滅前にボスを倒せるかは分からないな……」
白夜が眉をひそめる。
そのとき――
私は、もう一度口を開いた。
「盾戦士、ボスを私の正面――12時方向、10メートル地点へ誘導。
その場で固定してください。
遠距離職は、結界を背に、ボス正面を向いて――
仰角、約85度。
投射。全力で攻撃!!」
その瞬間。
神代明人と、
配信を見ていたすべての視聴者が――
完全に、石化した。
「……は?」
「……それ、アリなの!?」




