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退職した最強の神様、古代世界で人として暮らす〜狼とゾンビに抗い、村を守るために戦います〜(WEB版/原題:月宮奇譚1 狼と骸の王)  作者: いふや坂えみし
第四章 狂い人

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第二話 やはり生きていなかった

 ウチナリは数日前、幼い頃から世話になり同僚だったサマトとその妻であり幼馴染のヨミヤ、二人の息子のヒウチの死に直面した。間を置かずにヒウチの弟、サクの亡骸(なきがら)を見つけ、末の弟のヤネリを引き取ることになった。一度に家族を失ってしまったヤネリはここ数日、反応が鈍かった。無理もない。まだまだ立ち直るには時間がかかるだろう。

 ここ何日かで狼と戦い、サマト一家の亡骸を村の墓地へ運び、村の再建に奔走した。今日も疲れ切っていたが逆に寝付けなかった。生まれたばかりのマホも引き取ろうかと考えてみたが、男手一つ、しかも十九で生まれたばかりの赤子を育てるのはさすがに厳しい。赤子のマホは村長の家で引き取られることになった。残されたヤネリとマホにはできるだけのことはしてやりたい。

 寝床でごろごろしていて(のど)が乾いたので、ウチナリは上体を起こす。ヤマク村では、寝るときは敷布団として(むしろ)を敷き、掛け布団や毛布はなく、麻で織られた厚手で丈の長い厚手の貫頭衣を寝間着(ねまき)として寝るのが一般的だった。

 水瓶の(ふた)を開け、柄杓(ひしゃく)で水を(すく)って飲む。蓋をしめ、寝床に戻りながらヤネリの寝顔を覗く。ちゃんと寝てくれているようだ。明日からどうやって接するのがよいかと考えていると、ヤネリの向こう、竪穴住居(いえ)の入口を何かが横切ったように見えた。どうせ眠れないので、様子を見ることにした。貫頭衣(ねまき)を脱ぎ、念の為に壁に立てかけていた(ほこ)(つか)む。

 心地よい夜風が頬を撫でる。蟋蟀(こおろぎ)や蛙の鳴き声を聞くともなしに聞き流しながら周囲に気を配る。入口を横切った何かは工房の方へ向かったように見えたので、一応中を(のぞ)いてみる。人や獣の気配はない。

「まあ、気のせいか」

 いろいろなことがあり過ぎて過敏になっていたのかもしれない。


 戻ろう、と工房を出たところで首を掴まれた。


 咄嗟に矛の石突(いしづき)()の先端)を相手の腹に叩き込むが首から手が離れない。素早く矛を回転させ腕を斬りつけ、ようやく手が離れた。矛を構え直し、相手の顔を見て驚く。今日、村の墓地で甕棺(かめかん)に入れた村人、マシリの顔をしていた。よく見れば泥だらけだ。

「……マシリ、生きていたのか?」

 ウチナリは問いかけたが、それは絶対にないとわかっていた。ウチナリ自身が亡くなったマシリを甕棺に入れたからだ。甕棺の入口はそんなに広くないので体を折り曲げて入れなければならない。生きた人間ならその痛みは耐え難いはずだ。それに、触ったときにはすでに冷たくなっていた。

「……ァああアァあ……」

 マシリが呻く。最近、似たような声を聞いた。変わり果てた兄弟子のタオツキだ。マシリもすでに人ではない何かになってしまったのだと判断し、覚悟を決める。

 ゆらゆらとマシリが近づく。動きは緩慢なので狙いをつけやすい。矛を一閃。マシリの首が地面に転がった。そのまま警戒する。首から血が吹き出ることもなく、やはり生きていなかったとわかってウチナリは安心する。ほんの少しだけ生きている可能性もあるのではないかという不安もあった。深く息を吐く。掌から鞭のようなものを伸ばしてくるかもしれないと考えて少し待ったが、動きがないので急いで竪穴住居(いえ)に戻る。

「ヤネリ、起きろ」

 ウチナリはヤネリの肩を揺さぶるが寝入ったままだ。ヤネリも疲れていたのだろう。剣と短刀を一組ずつ左右の帯に差し、ヤネリを背負って村長の家へ向かう。いま一番安全な場所はそこだ。ウチナリは走り出す。

 村の中には深夜だというのに村人たちがうろついている。ゆらゆらと怪しい動きをしている。進路にいる怪しい村人の顔を確認し、埋葬した村人で泥だらけなら斬り伏せて進んだ。だが、首を落とさなければ斬りつけてもそのまま動き続けていた。

 ウチナリは走りながら(かす)かに子供の声を聞いた気がした。怪しい村人が何かを囲んでいる。周囲に村人がいないことを確認してヤネリを下ろす。走っているときの揺れでヤネリはすでに目覚めていた。

「ちょっとそこで待ってろ。何かあったらすぐに叫んで呼べ」

 ヤネリはこくりと頷く。右手の矛はそのまま左手で剣を抜く。ウチナリは村人の集団に飛びかかる。背を向けた二人に矛の柄で(したた)かに叩き、剣の柄頭(つかがしら)で後頭部を殴りつける。走り抜け、鈍い動きでもともとこちらを向いていた残り二人の村人を叩き、鳩尾(みぞおち)を突き刺すように殴る。叩き、殴りつけられた村人四人は悲鳴を上げるでもなくこちらに向かってくる。人ではないと判断し、四人の首を斬り落とした。

 囲まれていた子ども三人がぶるぶると震えながら抱き合っていた。

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