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退職した最強の神様、古代世界で人として暮らす〜狼とゾンビに抗い、村を守るために戦います〜(WEB版/原題:月宮奇譚1 狼と骸の王)  作者: いふや坂えみし
断章 ヤマク村の日常

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第二話 安らぎ

Xでの投稿告知時間から約2時間半遅れの投稿となってしまい、大変失礼しました。カクヨムでは割り込み予約投稿していましたが、こちらにその機能がなく投稿したと勘違いして下書きのままになっていました。私のミスです。混乱させてしまい申し訳ありませんでした。

 水汲みを終えた子どもたちは自由に遊ぶ。日が落ちる前に(かまど)小屋に寄ると、夕食のいい匂いが漂ってきた。ヤマク村の竪穴住居(いえ)の中には調理設備がないので、村の中に数カ所ある竈小屋に女性たちが集まって料理をしていた。

 内陸にあって海から遠いヤマク村では塩がほぼ手に入らない。そのため、海岸付近にある集落と交易し、農作物や木材などの森林資源と塩や魚介類などの海岸資源を物々交換している。調理には交易で手に入れた塩や塩分を多く含む干し貝などが調味料として使われていた。

 子どもたちはヨミヤを見つける。

「お母さん、今日のごはんなぁに?」

 ヤネリがヨミヤの貫頭衣(ふく)(すそ)を握る。

「今日は猪のお鍋よ」

「いのししっ!」

 ヤネリはぴょこんと飛び跳ねる。猪は好物だった。

 竈小屋のそばでは村長夫妻とオトヤとアズサの双子が()れた獲物を(さば)いていた。村で食べきれない獲物は交易品や非常食とするため、塩漬けにして高床倉庫に保存している。


「ただいまー、腹減ったぁ」

 サマトとヒウチが鍛冶場での仕事を終えて帰ってきた。

「遅いよお父さん、ぼくもおなかぺこぺこだよぉ」

「悪い悪い。よし、飯食おう」

 サマトとヒウチは水瓶から水をすくって手を清める。ヨミヤは炉の火を消す。夕食が冷めないように炉にかけていたが、換気設備の整っていない竪穴住居の中で炉を長時間使うと一酸化炭素中毒になる危険性があるため、長く使うことはできない。

 鍋の中には猪の他に山菜と米、肉の臭みをとるために野蒜(のびる)茗荷(みょうが)も入っている。ヤマク村の女性たちは集団で山に入り、山菜を採っていた。

 夕食が始まった。木皿に盛られた夕食は湯気が立っている。夏が近づいてきていたが、朝晩はまだ肌寒いので、熱い夕食は一家の体を温めた。


 オトヤとアズサは狩った獲物の処理を終えると、怪我で()せっているタオツキの竪穴住居(いえ)を訪れていた。

「タオツキさん、調子はどうですか」

 オトヤの言葉はタオツキと会ったときの決まった挨拶になってしまった。

「うん、あまり変わらないな。左足に力を入れるとまだ鋭い痛みが走るよ」

 数カ月前に狼に噛まれた傷は(ふさ)がったが、思ったよりも深く傷つけられたらしい。

「そうですか。早く良くなるといいですね」

 これもまた言い慣れた挨拶になってしまって、最初の頃に感じていたタオツキへ重圧を与えてしまう言葉になるのではないかという遠慮の気持ちは薄くなっていた。いつでもタオツキの態度が変わらなかったからなのだろう。

「矢はできあがってます?今日の狩りでもう残りが十本も残ってなくて」

 アズサはタオツキに矢の製作を依頼していた。自分でも作れるが、臥せって狩りに行けなくなったタオツキの気が(まぎ)れるかと考えていた。

「ああ、できてるよ。そこに縛って積んであるやつ」

 タオツキの後ろに百本以上の矢が縛って積んであった。

「わ、こんなにたくさんありがとうございます!」

「まあ暇だからな。でも自分でも作らないと腕が(にぶ)るぞ」

「いやぁ、タオツキさんの矢の方がよく飛ぶし、よく当たるんですよね。矢羽根のつけかたなのかな」

「アズサは、がさつだからな」

 すかさずアズサはオトヤの頭を叩く。

「痛って!そういうとこだぞ」

 オトヤは頭をさする。

「もう、憎まれ口ばっかり叩いて。昔はかわいかったのに」

「実際に叩くよりいいだろ。がさつな姉がいつもそばにいるとひねくれるんだよ」

 タオツキは喧嘩をしている二人を穏やかに笑いながら眺めている。

「タオツキさん。オトヤとアズサちゃんもこんばんは。夕食持ってきたよ」

 土鍋を持ったツグノが訪ねてきた。ツグノは幼い頃、タオツキに助けられてから家族ぐるみの付き合いをしており、怪我をしたタオツキの世話をしている。

「いつもありがとう、ツグノさん。せっかくだ、二人も食べていくといい」

「本当ですか!?腹減ってたんですよ、いただきます!」

「だめよオトヤ、うちでも夕食用意してあるんだから」

「大丈夫だよ、うちでも食べるから」

「太っちゃうでしょ」

「アズサと違って太りにく痛った!」

 アズサはオトヤの脇腹に肘打ちしつつ、こそこそ耳打ちする。

「この前言ったでしょ。ツグノさんの応援するの」

「あー、タオツキさんのこと好、だから痛いって!」

 いつもの声量で(しゃべ)りだす鈍感なオトヤの手の甲をアズサは思い切りつねる。

「俺はあんまり動けないからな、食事の量のことなら気にしなくていいぞ」

 アズサは的外(まとはず)れな気遣いを見せるタオツキを見て、ツグノに視線をずらす。アズサとツグノは、なんでこう男どもは鈍感なんだろうねツグノちゃん、いいのアズサちゃん大丈夫気にしないでと目で会話する。

「ありがとうございますタオツキさん。でも料理が冷めるころに帰ったら、うちの親に怒られるんで、今日は帰りますね」

 アズサは矢の束の半分をオトヤに持たせて、一口だけなら一瞬で食べるのにとぶつぶつ恨み言を言うオトヤを引きずりながら帰っていった。

「それじゃ、準備するからちょっと待っててね」

 楽しそうに手際よく支度(したく)をするツグノを眺めながら、タオツキは安らぎを感じていた。


 ヤマク村の日常は平和に営まれていた。この時はまだ。

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