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退職した最強の神様、古代世界で人として暮らす〜狼とゾンビに抗い、村を守るために戦います〜(WEB版/原題:月宮奇譚1 狼と骸の王)  作者: いふや坂えみし
第二章 月宮

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第三話 宴の席

 ヒルメに通された板張りの広間の中央に(たい)(あわび)、芋や豆、(せり)などの汁物(スープ)(チーズ)、白米、桃や葡萄(ぶどう)などの果物の載った食卓が見える。

「これは豪勢ですね、ありがとうございます」

 ヒルメのもてなしにシラスは恐縮する。

「なに、新しい神の誕生は久しぶりだ。めでたいことだからな。だから、どうせならみんなで祝ってやろうと思って集めておいたぞ」

 そうしてヒルメは隣の客間へ呼びかける。

「今日の主賓(しゅひん)が来たぞ!お前たち、宴を始めるぞ!」

 ヒルメの呼びかけで客間で(くつろ)いでいた四柱の神が広間に入り、食卓についた。

「新しい神が誕生するというので今日は急な誘いをしてしまったが、応じてくれて感謝している。クハラが神を辞めるというのはまあ、残念だがあいつを止められるムスビももういない。去ってしまった者よりも生まれてくれた者を歓迎しよう」

 そうヒルメが胸を張ると、月神ヒノワが怪訝そうに表情を変える。

「いつも突拍子(とっぴょうし)もないことを言っているお前がまともなことを喋っていると逆に不安になるな。珍しいこともある」

 ヒノワが茶化すとヒルメは片眉を上げる。

「ふん。堅物よりましだろう?お前もたまには面白いことの一つでも言ってみたらどうだ?」

 ヒルメとヒノワの言い争いが始まり、またかと風神イセは出かかったため息を飲み込む。

「ほらほら、宴の席なんだから喧嘩はやめてよ。カギロヒ、ホテリ。お酒を頼む」

 イセの求めに応じて酒の入った徳利(とっくり)を載せたお盆を持ち、二人の女性が広間に入室すると、雲神ミカゴはぴょこんと頭を上げて目を輝かせる。

「あ、私もお酒飲みたい。あとで()ぎに来てね」

 カギロヒとホテリは酒を注いで回ると奥へ引き下がった。ミカゴがおいしそうに(つき)に注がれた酒を飲む。

「お酒を注いでいたのはどのような神なのですか?」

 カギロヒとホテリの後ろ姿を眺めながらシラスがヒルメに問う。

「あれは神ではない。神人(しんじん)だ。地上で人が生まれてから、月宮(この世界)にも現れた者たちだ。役に立つので側仕(そばづか)えにしている」

 ヒルメの顔に少しだけ笑みが浮かぶ。

「人はムスビ様が生んだ獣ではないから、人の神は月宮(ここ)にはいないんだ。地上でムスビ様が生んでいない新種の獣が生まれると、ここにも自然発生するらしい。これもウジ様の意思なのかな」

 ヒルメの説明にうんうん、とシキも頷く。ウジ様と言えば、とヒノワが(つぶや)く。

「シキ、最近ウジ様からなにか接触はあったか?」

 ヒノワに問われシキは困り顔に変わる。

「いや。あの方は気まぐれだからね。用事があるときだけ前触れもなく急に姿を現して、要件を言うとすぐに消えてしまう。困った方だよ」

 ため息をつきつつシキは笑う。

「ホムラ様もムスビ様もクハラ様もみんな地上に行ってしまったわね。ウジ様ももしかしたら地上にいるのかしら」

 空になった(つき)にカギロヒから酌を受けながらミカゴがシキに尋ねる。

「ここと地上は気軽に行き来できないけれどね。ウジ様ならできるのかな?」

 自信なさげにシキは答える。

「ウジ様はなぜシキの前にしか姿を現してくれないのかしら……」

 水神ミツハが不思議がる。

「ウジ様が何を考えているかなんて、想像するだけ無駄だと思うよ」

 シキの表情は目隠しのせいで分かりづらいが、どことなく諦めているように感じる。

「知恵の神なのに考えるのをやめるのか?」

 ヒルメの揶揄(やゆ)に、シキはとくに悪びれることもなく答える。

「ウジ様とホムラ様に関しては、異次元すぎて知恵ではどうにもならないよ」


 歓迎の宴が開かれた数日後。シラスとキサイの二柱のもとにシキが訪れた。

「イセが君たちに頼みたいことがあるらしい。来てほしいそうだから、イセの宮までついてきてもらってもいいかな?」

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