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楽しいイベントの後

「うぅ・・・ツラい・・・」

「完全に体育祭に全力を使い果たした典型的な例かも。」

「前のように家を貸してる。 それに一ノ瀬君は「女の子の日」が来てるから全力を出せてない。 そんな中で文句を言うならこの場にはいらないから。」

「しっかりと勉強させていただきます!」


 体育祭も終わり、ようやく一息が付けるかと思っていた州点高校の生徒、主に1年生にとっては休息を与える暇もなく現れた「期末試験」の期間。 一気に現実へと引き戻された瞬間である。


 そして本日はそんなお悩みを抱える友人のために岬が再度家の一部屋を貸し切りにして、現在勉強会の開催中である。 駄々を捏ねているのはもちろん隆起だ。


「でも確かに余韻に浸っているところに畳み掛けるように来るのは、ちょっと勘弁して欲しかったりするよね。 ほら、みんなが全力を出しきった後だったら尚更さ。」

「学校の方針だから仕方ないですよ。 それよりも得流さん。 ここの答えが間違っています。」

「普段は優しい叶が怖く見えるんだけど・・・和奏ー、場所変わってよぉー。」

「私も、自分で、手一杯なので、そちらには、ちょっと・・・」


 他のみんなも集まって同じ様に勉強をしている。 最も、今いるメンバーの中では隆起と得流以外は少なくとも赤点は回避できるので、彼らのために頑張っていると言っても過言ではない。


 そして勉強じゃないところで戦っている人物がもう一人。


「一ノ瀬君、大丈夫?」

「・・・なんとか? こんなタイミングで来るなんて思っても見なかったから・・・」


 今真面目は「女の子の日」が来ていた。 しかも岬の家に着いた当初こそ普通だったのだが、突如として気分を悪くしてしまい、吐き気すら催しそうになった。 今は鎮痛剤を飲んでいるためましにはなっているものの、それでも勉強が出来るような状態には無かった。


「それ本当にツラいよな。 俺も最初痛すぎて死ぬんじゃないかと思ったもんな。」

「あたいたちは逆にそれがないことに違和感感じたりしてるんだよねぇ。 あとなんかドキドキした時に下半身がおかしくなるし。」

「性別が逆転したから、お互いのツラい理由が変わってきてる。 元に戻ったら本当の違和感に襲われるかも。」

「僕の「コレ」から議論を始めないでくれる?」


 真面目がツラい思いをしているなかでの会話なだけに本当に苦しいと思っている。


「一ノ瀬様。 こちらをお使いください。 少しは楽になるかと。」

「ありがとうございます。 名瀬さん。」


 名瀬からカイロを貰ってお腹を暖めた。 ほんのりだけだが身体が軽くなったような気がした真面目であった。


「皆さんもなにかお困りになりましたらお申し付け下さい。 出来る範囲でご用意致しますので。」

「いえいえ、名瀬さんにご迷惑はかけたくないですよ。」


 そう言いつつも得流達はお茶を堪能していたりする。 いくら動かないで勉強をしているとはいえ、暑さには耐えられないのだ。


「あ、隆起君。 そこはその文じゃないよ。」

「え? まじか。 どの辺りだ?」

「この文章とここの文章。 似てるけど言い回しが若干違うよ。」

「一ノ瀬さん、大変そうなのに、教えているなんて。」

「自分が出来なくても教えることは出来るからさ。 あ、南須原さん、そこはそっちじゃなくてこっちかも。」

「・・・あ、本当ですね。 これは・・・こっちならどうですか?」

「・・・うん。 バッチリ。」


 真面目もツラいとは言っても完全に動けない訳じゃないので、身体を休めつつ貢献していた。


「・・・っでぇ・・・まじで疲れたぁ・・・勉強してるときの方がよっぽど疲れるんだけど・・・」


「露骨に運動神経にパラメーターか振られているタイプの人間だ。」


 隆起が床に寝そべりながらそんなことを言った。 そう言うのも無理もない。 岬の家に入ってからずっと勉強三昧だったのだ。 休息は大事である。


「でもその分ノートは取れた。 これであとは同じことの繰り返し。 復習をしていけば期末試験も乗り越えられる。」

「数が増えたもんねぇ。 覚える範囲も多くて大変だよぉ。」


 こちらも頬杖を付きながらため息を付く得流。 とはいえここまで付いてきたことには変わり無いので、何だかんだで頑張った人物だろう。


「お疲れ様でした皆様。 どうぞ、特性のわらび餅になります。 きな粉と黒蜜をかけてお召し上がりください。」

「いつもありがとうございます。 名瀬さん。」

「何を仰いますか岬様。 これが私の仕事ですから。」


 2人の関係性はともかくとして、他のみんなは既にわらび餅に手が伸びていた。


「冷たくて美味しいです。」

「喉を、するんと、通り抜けて、行きます。」

「暑いとこう言ったのが身に染みるよな。」

「ほんとだよねぇ。」


 みんなは思い思いに食べてはいるものの、真面目だけは「アレ」のせいでなかなか手が伸びずにいた。 食べられない訳じゃない。 それ以上の痛みが来ているだけだ。


「大丈夫一ノ瀬君。 食べられる?」

「まぁ・・・なんとかね。」

「なぁ、女子って基本的にああなったときってどうしてたんだ? 普通に授業とか受けてたんだろ?」

「どうもこうも、ああなったら大変なんだって思ってるだけ。 それ以上でも以下でもないよ。 男子こそたまに股がおかしくなるときってどうしてるのさ?」

「そんなもんは落ち着くまで待機だよな、真面目。」

「この流れでその話題を振らないで。」


 微妙に空気の読めていない隆起にゲンナリしている真面目であった。


「それにしても皆様かなり勤勉ではありますが、なぜそのような事に?」

「それは当然・・・」

「試験を無事に乗り越えた先にあるのは・・・」


 そう言って隆起と得流は後ろを振り向くと勢いよく前を向いて


「「夏休みが待っているから!」」


 と力強く言った。


「なるほど。 遊びのためなら乗り越えられる、と。」

「そう言うことです名瀬さん。」


 納得した名瀬に声をかける岬。 机の上にあったわらび餅は既に消失していた。


「では私はお洗濯を取り込んでお夕飯の支度をしてまいります。 どうぞごゆっくりとお勉強をなさってください。」


 そう言って名瀬はわらび餅が入っていた器を持って、部屋を去っていった。


「それにしても名瀬さんって不思議な人だよね。 僕らの事を干渉しないようにしてるみたいに動くんだもん。 足音すら聞こえないんだけど。」

「名瀬さんは私たちにとっても重要な家族。 これだけの屋敷を一人きりに任せるのは気が引けるけど、それが名瀬さんの生き甲斐らしいから。」

「なんかちょっと悲しくない?」


 そんなしんみりした空気は、勉強で打ち消すこととなり、真面目達は再び試験勉強に取り組むのだった。


「本日はありがとうございました。 岬さん。 また学校で。」

「うん。 またね、みんな。」

「みなさままたのご訪問をお待ちしております。」


 そうして浅倉家を去ったみんなは、ゆっくりと帰路を歩いていく。 真面目は「女の子の日」と戦いながら歩いていたのだが、ふとあることに気が付いた。


「あれ? 筆箱忘れた?」


 ギリギリまでやっていたせいか帰るのが慌ただしくなったのを思い出したのと、鞄の中に学校でも使う筆箱が無いことに気が付いたので、痛みながらも浅倉家へと戻ることにした。


 ピンポーン


 まだ真面目の家からは結構遠く、岬の家が近かったため、インターホンを鳴らして、誰か来ないかを待った。 すると玄関を開けたのは名瀬さんだった。


「おや、どうされたのですか?」

「すみません、筆箱を忘れてしまいまして。」

「顔色が優れていませんね。 少しだけ横になっていってください。」

「え? いや、さすがに・・・その状態では帰ることも難しい筈です。 遠慮は入りません。 どうぞ中へ。」


 遠慮しているつもりはなかったのだが、真面目は確かに家に付くまでにこの苦痛に耐えられる自信が無くなってきたので、休んでいくことにした。


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