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それの何が悪い?

まずは前回の彼についての自己紹介から

「そう言えば自己紹介しないとね。 ぼくは日賀 下(ひか さがる)。 趣味はコスメ集めだよ。」

「僕は一ノ瀬 真面目。 生徒会選挙で演説したから、知ってるとは思うけど。」


 互いに挨拶を終えてから、真面目は改めて聞いてみることにした。


「ねえ。 そのコスメ集めって誰かの影響だったりする?」

「うん。 そんなところかな。 ぼくにはお姉ちゃんがいて、名前は和了(あがる)お姉ちゃん。 高校3年生で、同じ州点高校に通ってるんだ。」

「じゃあお姉さん、今だとお兄さんか。 会う機会があるかもしれないね。」

「かもね。」


 そうして会話を繰り返しているが、真面目にはもう一つ気になった点が存在していた。


「ねぇ、まさかさっきみたいに、誰にでも彼にでもコスメの試作を試させてる訳じゃないよね?」

「それは見当違いだよ。 一ノ瀬君は素材がいいから、つい色々と試してみたくなっちゃって。」


 その一言で真面目の中での下の印象は、強引なのではなく、人を見る目があるというものに変わっていった。 初対面でありながら相手の素材を遮らず自然体以上の成果を見せてくれたことに真面目も正直驚いてすらいたからだ。


「お待たせ致しました。 チーズパティバーガーのセットとダブルパティバーガーのセットでございます。」


 店員が持ってきてくれたお盆を前にして、2人は食事を始めることにした。


「一ノ瀬君は良く食べるんだね。 細身なのにスゴいや。」

「元々の僕が結構食べてたからね。 この身体になっても食欲は変わらなかったみたい。 だけど見た目は女子だから、見映え悪くなるかな?」

「無理に制限して身体の調子が悪くなるよりはいいと思うよ。 前のぼくも同じようにしてきたし。」

「・・・ん? 同じように?」


 目の前でシーザーサラダを食べている下に対して、今の言葉に疑問を持った。 この姿になったのは今年の春のはず。 なのに同じようにとはどういう意味だろうか?


 そう考えていると、不意に後ろから待機札を持った2人の女子高生が通りかかろうとした時に、1人が下の姿を二度見した。


「あれ? なぁ、お前下じゃね?」


 名前を呼ばれた下だったが、身体がビクッと動いた後に後ろを振り返った。


「や、やぁ紫藤君。 久しぶりだね。」

「なんだお前のその声。 前の時には高すぎて気持ち悪かったが、今度はその姿だからか似合ってないぜ?」


 紫藤と呼ばれた女子生徒は、いきなり下に対してそんな言葉を浴びせた。


「誰だそいつ? 知り合いか?」

「俺の中学の同級生。 つってもこいつ気持ち悪い趣味しててよ。」


 その言葉に更に身体を震わせる下。 紫藤もどこか煽るような表情で隣の友人らしき女子高生に話しかける。 制服が違うため州点高校の生徒ではないようだ。


「今でこそ俺達女子だけど、こいつそれよりも前から女物の化粧水とか使ってたんだぜ? しかも元々陰気な性格だったからなよなよしててよ。 余計に女々しく感じてまじで気持ち悪かったな。」


 紫藤は蔑むかのように下を見ている。 隣の友人らしき人物も、そう言った説明を受けて、表情としては出していないものの、あまり関わらないようにしたいと思っているように見えた。


「お前だけわざわざ近くの高校にしなかったのかなんて大体知ってる人間がいないからだろ? 知らない奴が()として見てくれるんならお前も願ったり叶ったりだもんな。」


 訳の分からないことを言っている紫藤に対して、下は何も手が付かずにただ震えていることしか出来なかった。


「ま、いつか仲良くなった奴に自分の事をさらけ出したら、どうせ誰も寄ってこなくなるぜ。 お前みたいな奴は1人でこそこそとままごとをしてりゃいいんだよ。」


「それ自分に対してとんでもないブーメランだって気が付いてる?」


 目の前で話をしている紫藤に、いい加減に聞きかねた真面目が紫藤に反論する。 というよりも目の前に座っている真面目のことを省みずに喋っていたので、周りが見えていないのが明白だった。


「あ? なんだよお前。 文句あるのか?」

「あるから反論してるんだし、昔がどうだとか、彼の趣味嗜好に対してそんな風に言う義理なんて無いね。」

「あんだと? ・・・はん。 分かったぞ。 どうせこいつの本性を知らないから言ってんだろ? 今は仲良くできても、こいつのことを知ったらたぶん友達として見れなくなるぜ? 友達止めるなら今の方がいいんじゃね?」

「君にそれを主張する権利はないし、何だったら僕は巻き込まれた上で彼とはこうして一緒にいるんだ。 どうするかは僕次第だ。」


 紫藤の言葉に対して一歩も引かないどころか、むしろ逆に主張を強める真面目は、紫藤を睨み付けるように目線を向けるのだった。


「それにそうやって誰かのことを陥れようとするってことは、そうしないと自分を保てないってことを自分から網羅しているようなものだ。 そう言う意味じゃ日賀君の方がよっぽど堂々としているし、やりたいことに真意に向き合ってる。」


「言わせておけばこの女!」


 胸ぐらを掴んできた紫藤の一言で、真面目は哀れむような溜め息をついた。


「自分達がどういう状況か理解して無いんだったら本当に君は器どころか視野すら狭い人間なんだな。」


 状況が全く読み込めていないようだった紫藤の腕を離して、自分の注文が乗ったお盆を持って席を立つ。 もちろん下にも同じことをするように催促をかけてだ。


「せっかくの気分が台無しだよ。 この状況からお持ち帰りって出来るのかな?」

「てめぇ! 逃げる気か!?」

「別に君と張り合った気もないし、お店にも周りの人にも迷惑になるから、僕達が出るだけだよ。 それよりも君は君自身の周りの心配したら? 隣の彼、君を見て青ざめてるけど?」


 そう言ってから真面目は下を連れて階段を降りていく。 それを追いかけようとした紫藤であったが、周りで食事をしていたお客に囲まれ、そんなことになってる理由が分からない紫藤でだった。


 そしてお持ち帰り用の袋を貰ってから店を出て、商店街から完全に離れて、学校側へと真面目達は歩いたのだった。


「一ノ瀬君。 さっきはありがとう。」

「まあ学校が分かれようがああ言った世間の流れを理解していないやつは必ずいるからね。 さっきのを見て君がどんな扱いを受けていたのか大体納得はしたけどね。 大変だったんじゃない? あんなダル絡みされてたら。 あれだったら家まで送るか? 一人になったらまた絡まれるかもしれないし。」


 結局座る場所が見つからなかったので、どうしようかと迷っていたが、後ろから刺されるのも夢見が悪くなると考えて、下の家の近くまで送ることにした。


「・・・ぼくはね。 君の演説を聞いて、少し自信が持てたんだ。 今の自分を変えることはない。 むしろ今の方がより自然に出来るようになったんだって。 こんなことに巻き込んじゃった事を申し訳なくも思うけど、ずっと言いたかった事を言ってくれたことも、嬉しかった。」

「流石にあればっかりは聞き捨てならなかったからさ。 人格を否定しているものだし。 もしまたなにかあったら相談に乗るよ。 今度は無理矢理じゃなく、ね。」


 そう言って真面目は下の事を見た。 下もそう言う意味では、真面目に会えたことを安心したのかもしれない。


 下の家の近くで分かれた後に、真面目はずっと手につけていなかったハンバーガーを歩きながら食べることにした。 多少冷めてはいるものの、味は確固たるもののようで、真面目を満足させてくれた。


「他校交流の件も相談してみようかな。」


 次の生徒会長への議題について考えながら帰路を取る真面目だった。

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