意外な勉強会会場
「皆さん。 お茶のお代わりが欲しければ、遠慮無く言ってくださいね。」
「は、はい・・・」
岬でも湊でもない別の人物にそう言われてたじろく隆起。 とはいえ他のみんなも場所が場所だけにガチガチに緊張をしていた。
「いやぁ、確かに岬の家って、広いって聞いてたけどさぁ・・・」
得流もいつもの元気は緊張のせいで無くなっている。 そこまでの場所に自分がいることに緊張が解れないのだ。
「だ、だだだ、大丈夫でしょうか? 変な事を、してないですよね?」
叶も慌てふためいているし、和奏も周りを見ないように、教科書とノートを凝視するかのように勉強していた。
「まさかこんなことになるなんてなぁ・・・」
唯一冷静を装っている真面目も、ここまでは予想外とも言えた。 事の始まりは2日前の木曜日に遡る。
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「なかなかいい場所が見当たらないなぁ。」
木曜日の帰り道、その日も勉強会を開ける場所を探しながらも、なかなか見つからないことに愚痴を溢していた隆起が、溜め息をついた。 真面目は珍しく生徒会の仕事がお休みと言うことで、岬を含めて隆起と得流の4人で帰っていた。
「そうだねぇ。 広くて煩くしても問題ない場所でしょ? そんな簡単に見つからないよ。」
「ショッピングモールとかの休憩スペースじゃ勉強は出来ないし。」
「商店街にもそんなお店とか無いしなぁ。」
うーん、と4人で考えていると
「あら、岬。」
岬が声をかけられたので前を見ると、そこには湊の姿があった。 エコバッグを持っているということは買い物帰りだろうか。
「お母さん。 こんなところまで来るなんて珍しい。」
「いつもとは違うお店に行きたかったのよ。 あら、今帰りだったかしら。 真面目君こんにちは。」
「こんにちは湊さん。」
「こんにちは湊さん。 私分かりますか? 近野 得流です。」
「はへぇ、浅倉のお母さん随分と美人だなぁ。」
「お久しぶり得流ちゃん。 そちらの子もお友達かしら?」
「あ、そうです。 木山 隆起っていいます。」
「隆起君ね。 覚えたわ。 ところでさっき見た時なにを悩んでいたのかしら?」
湊の質問に答えるべきかと悩んだ4人であったが、それを口にしたのは岬だった。
「お母さん。 みんなで勉強会を開こうと思ってるんだけど、いい場所が思い浮かばなくて・・・ どこかいい場所無いかな?」
「勉強会? そうねぇ。」
湊は自分の思い出せる範囲で尚且つ勉強会を開いてもおかしくない場所を考えていた。 そして「ポン」と手を叩いた。
「それなら家に来ればいいんじゃない?」
「・・・え?」
湊の唐突な解答に真面目はポカンとしてしまう。
「岬の家って、大きいって聞いたことあるけど、行ったことって無かった気がする。」
「まじで!? 豪邸住みだったのか!? 浅倉って。」
得流は自分も行ったことがないと言って、隆起はその事実に興奮気味だった。 そして当の岬はというと
「でもいいの? お父さんもいるんじゃないの?」
「私もあの人も土曜日は仕事で出掛けるからね。 その日1日なら使っても問題ないわ。 それに名瀬さんもいるし。」
「それならいいか。」
案外あっさりと受け入れたのだった。
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そして現在に至るわけである。 当日に場所だけは教えてもらい、直接的行ってみると、その一角に大きな家があり、敷居の高そうな門を潜った後も、場違いのような空気に気圧されそうになっていたのだった。 因みに先程の妙齢な女性が名瀬さんらしい。
「なんか、全然勉強が身に入らないような空気してるんだけど?」
「そんなことを言われても仕方がない。 私の家はこうだとしか言えないんだもん。 文句は言わない。」
「なぁ真面目。 なんでお前そんなに普通でいられるんだ・・・?」
あまりにも冷静沈着な真面目に対して隆起は、自分でテンションが上がっていた割には胃がキリキリしている状態になっていた。
「なんでって言われても・・・なんでだろ?」
「今まで多くの事があったせいで感覚が麻痺しているに一票。」
あながち間違ってはいないのではないかと思い始めた真面目に、叶が近寄る。
「うん? どうかした? 叶さん。」
「あの、この問題についてちょっと教えて欲しいのですが。」
「どれどれ? ・・・ええっとこれはねぇ・・・」
そう言いながら真面目は叶に教えていた。 その様子を見ながら、他のみんなもそれぞれで教えあったり、聞いていたりしていた。
そんな状態で岬は真面目の方をチラチラと見てしまっていたのだ。
「岬? この問題なんだけど・・・」
「あ、ごめん得流。 この問題だよね。」
「どうしたの岬。 なんか上の空だったけど?」
「ううん。 大丈夫。 とりあえず問題を解こうか。」
岬は気持ちを切り替えて、得流の問題を教えていく。 しかしどうしても真面目の方を見てしまうようになっていた。
「ふいー。 もうやりたくねぇ・・・」
みんなも同じ様に勉強を終えた後に机に突っ伏していた。
「みんな完全に疲れきってるね。」
「普段慣れない勉強を強いられている上に場所が場所だからね。」
「場所に関しては浅倉さんのせいだからね。」
そう言っていると、扉が開けられる。
「失礼します。 休憩と同時に食事をご用意させていただきました。」
そうして使用人である名瀬が、大きな器と共に食事が用意されていた。
「ありがとうございます名瀬さん。」
「いえいえ、遣わせてもらえてもらっているので、これくらいはさせてもらいます。」
そう言いながら食事と人数分の器を用意していた。 料理は量を考えて棒々鶏だった。
「折角だから名瀬さんもどうっすか?」
「いえ、私はここで席を外させてもらい・・・」
「いいじゃないですか。 名瀬さんいつも離れているからこういう時くらいは食べよう。」
「そういうことでしたら。 折角なので一緒に取らせていただきます。」
そう言って昼御飯を食べることにした。
「それにしてもどうして名瀬さんが浅倉家に遣えるような形を?」
「元々は秘書のような形で住まわれていたのですが、お父様のご意向により、住まわせてもらう代わりに召使いとして家を任されているのです。」
「これだけ広いと、掃除とかも、大変では、無いですか?」
「というより、食事とかも家族分作らないといけないって大変じゃないです?」
そこからは名瀬さんに対する質問責めでお昼を過ごしたのだった。
『ごちそうさまでした。』
「それでは片付けはこちらで行いますので、ご勉学のほうをどうかお続けくださいませ。」
そうして名瀬さんは食器をテキパキと集めて、そのまま部屋を後にしていった。
「凄いね岬。 あんな使用人さんを雇ってるなんて。」
「雇ってるんじゃなくて、ある意味では居候に近い。」
「これも金持ちのなせるってやつか?」
「休憩したらまた再開だね。」
そうしてお昼ごはんの余韻に浸りながら、少しの間、気持ちをほぐした6人なのだった。
明日は投稿お休みさせてください。




