急な来客
真面目の目が覚めた。 まだ頭が痛いので少し動くのには無理をする必要があるが、布団が暑いと考えて、布団を脱ぐ。
すると下の方で音がした。 どうやら玄関が開いた音のようだ。
「母さん、帰ってきたんだ。」
それが分かったので真面目はまだ少しだけ横になってゆっくり脱力したのだった。
一方帰ってきた壱与とお邪魔になっている岬はリビングに入り、そのままキッチンへと入った。
「岬ちゃん。 料理の経験は?」
「授業の一環としてやった程度です。」
「そう。 ならヨーグルトにこのジャムとミカンを入れておいて。」
「そんな簡素なもので良いのでしょうか?」
「ゼリーやアイスだと固めないといけないからね。 まあ今はそれでいいのよ。 後でゼリーの作り方も教えるから。」
そう言いつつ壱与はご飯と先程買ってきた青椒肉絲を温めて、即席の味噌汁も付けて、一つの定食を完成させた後、岬が用意したヨーグルトを添える。
「それじゃ行きましょうか。 あ、その前に濡れタオルも用意しないと。 どうせ汗かいてるだろうし。」
「それなら用意します。」
「お願いできるかしら? 洗面器は中のを使って、タオルはどれでもいいから、棚の中から使って。」
そう言われて岬は言われた通りに行い、水とタオル入りの洗面器を持って2階に上がり、真面目の部屋に入る為に、壱与がドアをノックする。
「真面目、起きてる?」
「起きてるよ。 ちゃんと寝てるし。」
「お昼持ってきたから、入るわよ。」
そしてドアを無理矢理開けて、真面目を確認してから、昼食の乗ったお盆を机に乗せる。
「具合はどう?」
「昨日よりは良くなったよ。 まだちょっと頭は痛いままだけど。」
「そう。 それなら明日も休めば大丈夫そうね。」
「それはいいんだけど・・・」
そう言って真面目はドアの近くにいる岬を確認した。
「・・・なんで浅倉さんもいるのかな? しかも洗面器を持って。」
「あんたが心配で来てくれたんだって。 ご丁寧にお見舞い用の果物まで用意しようとしてくれてたんだから。」
そう語る壱与はどこか楽しそうに笑っている。 そう言う意味合いならば真面目も嫌ではないのだが、何故かと疑問に思っていたのだった。
「携帯見てないなら分からないか。 私、一応MILEには送ったんだよ?」
そう岬に言われて真面目は携帯を開くと、確かに一件の通知が入っていた。 時間帯的にはどのみち寝ていたので見ることは叶わなかったが。
「ほら、折角来てくれたのにそんなむくれた顔しないの。」
「・・・まだ気分が悪いだけだよ。」
「そう言うことにしておくわ。 覚めない内に食べちゃって。」
そう言って壱与は朝御飯に使った器を持って部屋を出ていった。 そして残ったのは真面目だけ・・・の筈なのだが。
「・・・なんで残ってるの?」
「お昼食べ終わった器を回収するのと、身体拭いてあげようかなって。」
「・・・ひとりで出来るよ。」
「背中は?」
そう言われた辺りで言葉に詰まったので、一度ご飯を食べてから考えることにした。
「浅倉さんもご飯いるなら下に行きなよ。 多分母さんの事だから用意してると思うし。」
「大丈夫。 家の休日のお昼は遅いから。」
なにが大丈夫なのか分からなかったが、とりあえず真面目は机の上に置かれたお昼を食べることにした。
病人としては少々濃い味付けではある気もするが、真面目にとっては気にしない。
「一ノ瀬君って大食いな方?」
「そう言う訳じゃないと思うんだけど、中途半端に食べるのもなんか変な感じがしてさ。」
「これって聞いてもいいのか分からないんだけど。 一ノ瀬君昔は太ってたとか?」
「そんなこともないよ。 中肉中背って感じ。」
会話をしつつも食べることは止めてない真面目を見て、岬は「今度のスイーツバイキングは2人で行ってみよう」などと考えていた。
そしてものの15分程でお皿はどれも綺麗に片付けられていた。
「ふぅ。 ごちそうさま。」
「大分調子が戻ってきたみたい。」
「そうだね。 頭が痛かっただけだし、何だかんだで体調自体はそこまで悪くは無かったからね。」
背伸びをした真面目はそのまま汗をかいた服を脱ごうとして、躊躇った。
「・・・? どうかした?」
「ええっと浅倉さん・・・? 部屋を出ていって貰えると非常にありがたいんだけど?」
「なにか問題でも?」
「むしろなんで問題じゃないと思ったの!?」
真面目はそればっかりは驚いていた。
「見ているのは女子なんだから見られても問題はないでしょ?」
「今は男子じゃん。 というか人の裸をナチュラルに見ようとしないで。」
脱ぎたくても脱げない真面目と、それでも部屋を出ようとしない岬。 2人の勝負の結果は
「・・・はぁ。 とりあえず後ろ向いてて貰える? 前は自分でやるから。」
真面目が折れてとりあえず見えないようにして貰うようにしただけだった。
さすがに他人に見られるようなものはないものの、それでも見られるのはあまりいい気分ではないのかも知れないのだろう。
「背中綺麗だね一ノ瀬君。」
「そんな率直な感想を言わないで・・・なんか・・・恥ずかしくなってくるんだけど・・・」
見られているのは岬であるにも関わらず、それでも素直な感想はあまりにも心に来るものだ。
「・・・ねぇ・・・浅倉さん?」
「なに?」
「・・・・・・背中、このタオルじゃ片手で届かないんだよね・・・」
「うん。」
「・・・お願い・・・したいんだけど・・・」
流石に恥ずかしいのはそうなのだが、何故母ではなく異性の友人に頼むことになったのだろうと、頭の中で疑問を持つしかなかったのだ。
「それならタオル貸して。」
それに関しては岬はなんの躊躇いもなく手を差し出す。 ある意味では抵抗の無いことに自分の方がおかしいのかと思うくらいだった。
「これを言うのはおかしいのかもしれないけど・・・変なところ触らないでよ?」
そう言われながらも岬は手に取ったタオルを洗面器に付けてタオルから水を絞る。 そして背中を触る。
「・・・っ・・・!」
冷たい感触に真面目は変な声をあげそうになったが、流石に耐えた。 そして岬はそれなりの速度で背中を拭いていく。
「どう?」
「・・・まあ、うん・・・」
変に感想を言ってしまうとなんだか余計なことを言いそうで怖くなった。
「はい、背中拭き終わったよ。」
「ありがとう・・・」
そうしてすぐにタオルを岬から取った。
「・・・流石に下は見ないでくれる?」
「そうだね。 食器を下ろしてくる。」
そして岬は食器の乗ったお盆を取ると、真面目の部屋から出ていった。 そして真面目は半裸なのにも関わらず、汗が改めて出てくるのだった。
「・・・これはどうなんだろ?」
そうして真面目は残りを拭いていくのだった。
一方岬は階段を降りながら先程まで触っていたタオル越しの背中に、心拍数が上がっていた。
「あら、ありがとう。 持ってきてくれたのね。 これからゼリーを作るけど、一緒にやってみる?」
「よろしくお願いいたします。」
そう言って岬はキッチンに入って、一緒になってゼリーを作る事にしてから帰ることにしたのだった。




