空気は加速する
「各列から解答用紙を回収してください。」
先生に言われて後ろから解答用紙が送られていく。 そして全員分の解答用紙が回収されたのを確認して、先生が一言言う。
「これにて学年末テストは終了です。 この一週間お疲れ様でした。 3学期の授業も残すところあと僅かとなりましたが、手を抜かず最後まで頑張って乗り越え、新入生を迎え入れて下さい。」
そういい残して先生が去っていくと、緊張に包まれていた教室が一気に解放される。
終わったと分かればすぐに行動に移るものが多くいた。 そのまま帰ったり寄り道を考えている者も数多くいる。
「おや、一ノ瀬君も今日はこのまま帰るのかい?」
真面目が鞄の中の整理をし終わり、そのまま教室を出ようとした時に、刃万里に真面目は答える。
「いや、この後日本舞踏クラブに行ってから生徒会に寄るつもり。 クラブの今後の活動とかも何だかんだで考えないといけないかね。」
1人の上級生を失った日本舞踏クラブは、部の存続の危機に迫っていた。 部活動の最低活動人数は3人なのだが、現在二宮と紗羅が残ってはいるものの、真面目は生徒会と併用しているため、実際の活動時間は紗羅よりもない上に、今後生徒会の仕事も増えてくるため、事実上退部の話になる。 そもそも生徒会と両立は出来ないと言うことは真面目自身も水泳部に入った後に生徒会に入ったタイミングで分かってはいたことなので、駄々はこねない。
そして日本舞踏クラブの部室へと入る。 まだ誰も来ていないためか、かなり殺風景にも見える。 そんな場所を見て、真面目はため息をつく。
「部活に入りたいとは思っていたけれど、生徒会に入るのは予想外だったからなぁ・・・。 まあ正直な話怒る人間も・・・まあいない訳じゃないか。」
「それはあたしの事か?」
ドアの方を振り返れば紗羅がそこに立っていた。
「・・・あたしだって優柔不断なあんたに残ってほしいとは思ってない。 だけどこのまま幽霊部員になってもらうのも困るんだよ。 辞めるなら辞めるでハッキリして貰った方が、後腐れなんて無くなるだろ?」
「・・・それもそうかもね。 その分新入生に興味を持って貰わないといけなくなるけど?」
「上等だよ。 存続の危機を救ったとなりゃ、拍車もかかるしな。」
「そのような想いでアピールをしても、向こうから歩み寄って来なければ意味はありませんよ。」
丁度同じくして入ってきた二宮が、真面目と紗羅の間に入るように会話をする。
「この部活動の主な目的は「日本舞踊を受け継ぐこと」。 手段と目的は履き違えてはいけません。」
「しかし部長・・・」
「ふふっ。 その呼ばれ方はまだ慣れませんね。 時というものは変化していくもの。 しかし必ずしも変化が良いこととも限らないことを、常々忘れないように。 この意味、一ノ瀬君なら分かるね?」
真面目は頬を掻きながら、2人に頭を下げて、その場を後にしたのだった。
そして今度は生徒会室へと足を運ぶ、そこには既に山のように積まれた認可待ちの書類に挟まれた金田の姿があった。
「お疲れ様です。 なにか手伝いますか?」
「・・・うん? ああ、来ていたのかい。 それじゃあ早速で悪いのだが、こちら側の資料を分別してはくれないかい?」
そう言われ真面目は金田が指差した右側の資料を自分の新しい席に持っていく。 それは既に承認済み印鑑が押されている資料だったが、パラパラと資料を見ていけば、確かに内容が異なっている物ばかりだった。
真面目も目を通しながら資料を分別していく。
「部活の方にはケリをつけてきたかい?」
金田の問いに一瞬だけ手が止まる真面目だったが、すぐに作業を再開させる。
「はい。 流石に同年代には怒られましたがね。」
「それもそうだ。 元々入部者が少ない部活で、部員が減ることはかなり危うい橋だろうからね。 それでも両立は出来ないのならば、退部せざるを得ない訳だ。」
「予想していないことばかりでしたから余計にそう感じましたよ。」
「新入生は当然戸惑いは大きかっただろう。 しかしそれを1年乗り越えた君達が後輩になにをするべきか。 君なら言わなくても分かるんじゃないかな?」
「大事なのは今を見ること。 自分を見ること。 他人を見下さない事、ですかね。」
「流石に優秀だね。」
「なに~? なんの話~?」
着々と作業をしているなかで、気の抜けた声を出す歌川が生徒会室に入ってくる。
「全く。 君はもう少し生徒会の一員だという事を自覚して欲しいのだが? 先輩達がいなくなってしまったのだから、我々が生徒の模範となって・・・」
「まあまあ。 少しくらいダラけたって先輩達も文句は言わないって。 それに根詰め込み過ぎる方が悪くなることだってあるって。」
歌川は2人の書類の山を見てそう言っているのだろう。 真面目も改めて資料を見てみれば、承認期日は春休み前である。
「・・・会長。 こればかりは歌川先輩の言う通りかもしれません。 模範になるのは良いことですが、自身が壊れてしまっては元も子もないと思います。 このペースならもう少しゆっくりやっても誰も文句は言いませんよ。」
「一ノ瀬君・・・そう、だな。 それに生徒会の仕事は書類整理だけではない、か。 よし、今日は校内の見回りをしていこうか。」
そう言って金田が重い腰をあげてひとまず歩き出す、 歌川も「作戦成功」と言わんばかりにピースサインを真面目に見せてくる。 それが金田に本当に良いことなのかは定かではないにしろ、期末テストが終わったばかりで書類整理をしていても、まともに作れるとは思えない。 気分転換としても丁度良かったのだ。
「かなり多くの生徒が残っているように見えるね。」
実際に校内を回ってみると、部活動や委員会の仕事があるとはいえ、それらに準じない生徒達もちらほら見えている。 期末テストが終わった余韻に浸っているのか、はたまた家に帰るには早すぎるのか。 どちらにしても注意して見回ることには変わり無さそうだ。
「雰囲気がガラリと変わりましたねぇ。」
歌川がのんびりと言ってくるが、それは金田も真面目も目に見えて思っていた。 期末テストが終わり、緊迫していた空気が抜けている。 その代わりにと言ってはなんなのだろうが、別の空気感も出ているようにも感じた。
「後10日程ですからねぇ。 浮かれるのも無理は無いのでしょうねぇ。」
顔に似合わず「うふふ」と笑う歌川。
「・・・まぁ、気を緩め過ぎなければ、特に咎めるつもりは無いけど。」
金田も色々と思うところはあるようだ。
「あら、今年も用意してあげるわよ? 去年は貰えなかったものね。」
「歌川。 その話をここでするというのなら、書類整理に戻るぞ。」
「あらごめんなさいね。」
金田と歌川のやり取りを見て、真面目にはこう言ったやり取りを出来る人物がこの場にいないことを寂しく思いつつ、今年は本当にどうなるか分からない、と思っていた。
「余計なことにならなきゃいいけど。」
そう願いながら生徒会の仕事として校内を巡回する真面目達であった。




