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渡す側? 貰う側?

 冬休みも終わりを向かえ、新たな1年と共に新学期も始まる。 とは言え卒業生はほとんど授業が無いに等しいため、実質的には在校生のみの登校となる。 部活動もその他の委員会も、在校生への引き継ぎは終わっている。


 真面目もその一人だ。 放課後に生徒会に足を運ぶと、生徒会長の席には金田が座っていた。


「では新生生徒会として、今後の目標を話していこうと思う。」

「流石に昨日の今日で早すぎない~?」


 金田の意気込みを歌川が遮るが、もはや慣れているのかそのまま話は進んでいく。


「当然のことながら先輩方、特に元生徒会長と副生徒会長が変わった今、我々は彼らと同等、もしくはそれ以上に生徒の模範生に近付かなければならない。 そう言う意味合いも兼ねて、どのような目標がいいか、意見はあるかな?」

「では僭越ながら。」


 そう言って真面目は手を上げる。


「積極的なのはいいことだ一ノ瀬君。 意見はなにかな?」

「そうですね。 今の生徒会長は前の生徒会長を無理して繕う必要は無いと思います。 前は前。 今は今です。 威厳が無いと言われるのならば、行動で見せれば良いのではないかと思います。」


 そう真面目が指摘をすれば、金田は肩の力を抜く。 それはもう全ての力を抜くかのごとく。


「一ノ瀬君は良く見ている。 らしくないことをするものでもないね。」

「ありのままの姿が好まれることだってあると思うんです。 取り繕う必要は無いですよ。」

「そうだね・・・うん、決めたよ。 今回の目標。」


 そう言って金田は1枚の紙に書き出す。


「自分らしくを見つけやすく、ですか。」

「性転換が起こってからかなりの年月が経ったものの、未だにその身体的変化を含めて自分の立ち位置に迷うものはまだ存在する。 だからこそ「自分は自分」だとしっかりと認識できる場所にしていきたいと思ったんだ。」

「そうねぇ~。 いいスローガンだと思うわよ~。 これがあれば私みたいな人も接しやすくなると思うもの~。」

「君の場合はもう少し「らしさ」を出して欲しいものだよ。 なんと言うかギャップが酷い。」


 そんなやり取りを見ながら真面目は、次に向けての資料に目を通すのだった。


「うぅ~、やっぱり昼間よりも寒いなぁ・・・」


 生徒会の仕事も終えて、下校する頃には日がすっかり沈みかけていた。 オレンジから紫に変わっていく空模様を見て、冬だとも感じている真面目。 そしてたまにコンビニなどを横切る度に見える文字も目に止まっていく。


「バレンタインねぇ・・・ クリスマスに正月と来て、なんというか本当にイベント尽くしな気がするよねこの国って。」


 バレンタインデー。 2月半ばに行われるイベントで、主に女性から男性へとチョコレートを渡す日。


 という風習があるが、真面目はそんなイベントには無縁の世界で暮らしていた。 そもそも基本的に小中学校では、学校への菓子類の持ち込みが出来ないので個人的にしか渡せないとなれば、真面目は特にそう言った場面に出くわしていないので、ほとんど無縁だった。


「まあ、誰かに好かれていたとも思えなかったけどね。」


 そんな風に笑っていた真面目であったが、ふと立ち止まり、1つの疑問が浮かび上がる。


「・・・今の僕って立場的にどっち側なんだ?」


 自分の身体を見てふと思う。 男子であるならば貰う側、女子であるならばあげる側になるのは通例だろう。 もちろん男子が作ってあげることもあるだろうし、女子同士で交換なんて良くあることだろう。


 だが今の真面目の、いや、同じ様な状態の高校生は一体どっちなのだろうかと真面目は考えてしまっていた。


「って、そもそもあげる相手もいないのにそんなことを考えてもしょうがないか。」


 楽観的になる真面目であったが、その言葉にどこか胸の奥の辺りで針が刺さったかのような錯覚を覚えた。


「・・・?」


 その違和感がなんなのか、真面目には分からなかった。


「ただいま。」

「お帰り真面目。」


 簡素な挨拶を進とすると、進が読んでいる本に目がいった。 読んでいたのは女性雑誌だった。


「父さんそんな本読む人だったっけ?」

「女性関連の雑誌や本を取り扱うのに重要なんだ。 女性はトレンドなんかに目がないと聞くからね。 それに最先端の先取りという意味なら、こう言ったものの方が情報はたっぷり詰まっているものなんだ。 真面目も今後のために少し読んでみるかい?」


 そう言われて渡された雑誌を少し流し読みするように読んでいく真面目。  確かに今の大人の女性の最先端を行くような内容ばかりである。


「真面目もそう言う年頃になったということさ。」


 いつの間にかキッチンで料理をしていた進がそんな風に声をかける。 その言葉に真面目は天井を見る。


 去年の自分は確かに男子中学生であり、女子の事など一切考えたことは無かった。 興味が薄かったと言えばいいのだろう。 そして女子の身体になったことで分かることも多々生じ、似ているようで全く違う身体の構造に戸惑ったりもした。


「父さん。 僕は女子らしい?」


 そう聞いた真面目であったが、改めてそんなことを聞いてどうするのだろうと思った。


 そしてページを進めていくと、バレンタイン特集なるページへと辿り着く。 そこにはバレンタインらしい服装を身に付けた女性やチョコレート菓子の作り方等が載っていた。


「そういうのに興味を持つくらいには、真面目も女子らしくなったんじゃないかなって、父さんは思うぞ。」

「たまたま見ただけでそんな判断はしない方がいいと思うんだけど?」

「そうかもな。 でも誰かにはあげるつもりなんだろ?」


 進がその言葉を言った後に真面目の脳裏に浮かんで来たのは岬の姿だった。 真面目はすぐに思考を打ち消そうと思ったが、浮かんできてしまった以上は、恐らくそれだけ特別な存在になってしまうのだろう。


「作り方に関しては母さんに聞きなさい。 そちらに関しては父さんは疎いから。」

「私がなに?」


 そのタイミングで壱与が帰宅し、真面目の読んでいた雑誌のページに目をやり、そして顔をニヤつかせる。


「・・・なに? まだ何も言ってないけど?」

「いやいやぁ。 そんなページに真剣になるってことは、やっぱりあげたいのよねぇ? 分かるわよぉ。 私も高校の時は想っていた人にあげたかったもの。 乙女とはそういうものよ。」

「そこは父さんにあげた訳じゃないんだね。」

「まだ出会っていなかったからね。 それに本命として貰えたのも結婚してからだったかな。」

「私も進さんも忙しくて、なかなか凝ったものをあげられなかったのよねぇ。」


 そうなんだと真面目は雑誌を閉じて、出来た料理を運ぶ。 熱を帯びているのでミトンを付けてから耐熱皿の上に置く。


「で? 誰にあげるつもりなの?」

「やっぱり逃げられないか。」


 話が転換したのを見計らって真面目の話を区切りにしようとした作戦は失敗した。 とはいえ真面目としても自分の母親がそんな話を逃すわけもないかと心底後悔した。


「別に誰か特定の人にあげることは考えてないよ。 友チョコでもいいんでしょ? バレンタインって。」

「なによ、面白くないわね。 折角のイベントなのに勿体無いわよ?」

「なにが勿体無いのさ。 元々イベント自体に興味が無かった人間にそこまでの事は考えてないって。」


 多少誤魔化しが入っているが、恐らくは見透かされているだろうなと真面目は思っていた。 自分の母親の事なので分からない所も多いが、それでも大抵の事は息子(娘)である真面目に対して考えが通らなかった事はない。

 期間はまだ1ヶ月以上あるものの、それでもなんとかするしか無いのかと、心の中で思う真面目だった。

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