とある風邪引きの休息
時系列は前の話の朝からになります
その日、岬が布団から出ようとした時に物凄い寒気がすると言って名瀬に体温計などで確認して貰ったところ、明らかに体調が優れてないことが判明した。
「はっくしゅん! うぅ・・・」
「寒さからくる熱ですね。 本日の登校は流石に不可能です。」
「あれだけ暖かい格好をしても駄目なんだ。」
「そこは体質も入ると思いますよ。 学校には連絡しておきます。 その後になにか温かいものをお持ちしましょう。」
「名瀬さん無理して付き合う必要は・・・」
「旦那様も奥様も仕事に行かれている今、他に誰が岬様を見るのですか。 今日はゆっくりして下さい。」
そう言って名瀬は岬の部屋を退室する。 時刻は午前7時。 時間を考えればそろそろ登校しても良いのだが、岬は風邪を引いてしまっていた。 しかもその原因がいまいち分からないのも厄介だったりしていた。
「男子の身体って言っても、内部的なものは変わらないか。」
岬はポツリとそう言ったが、聞いてくれるものはいなかった。
「風邪の時は下手に動かない方がいい。 外は寒いし、このまま一度寝直そう。」
そう言って岬は布団を深く被り直して、名瀬が温かいものを持ってくるまでしばし眠りにつくのだった。
次に岬が起きたのがお昼前。 余程眠たかったのだと認識させられて、身体を少しだけ起こす。 おでこに冷えピタが貼られていたので、寝てる間に付けられたのだろうと考えた。
「おはようございます岬様。 食欲の方はどうですか?」
「・・・あんまり無いかも。」
「そうですか。 でもなにかを食べなければ治るものも治りません。 卵おじやを作ったので温め直して来ますね。」
そう言って名瀬は再度部屋を離れる。 岬の部屋には勉強机の他に必要最低限の物しかない。 趣味の茶道は別の部屋なので、割りと殺風景だったりする。
「今の時間帯だと・・・英語だったかな。」
今日の授業内容の事を思い出しながら、名瀬がおじやを持ってくるのを待っている。
「・・・寒い・・・」
この寒さは風邪からなのか、外からのすきま風なのか、別の感情なのか、今の岬にはどれも当てはまりそうで厄介だった。 そんなことを思っていたら岬の部屋の扉が開けられ、おじやの入っているであろう鍋と鍋敷きを持っている名瀬が入ってきた。
「お待たせ致しました。 おじやですので、冷める前にお召し上がりください。 私はリンゴを用意してきますので。」
そう言って再び去ろうとした名瀬を岬が止める。
「リンゴはこれを食べ終わってからでいいから、一緒にいてくれない?」
普段はちょっと強気な部分を出している岬だが、こう言った場面になると普通の女子のようになってしまう。 元々が女子であるため当たり前と言えば当たり前だが。
「かしこまりました。 それでは食べ終わるまでここにいますよ。」
「そう言う言い方は語弊を生みそう。」
そうして岬はおじやを食べ終わり、身体が温まった所で、身体が汗だくになっていることに気が付いた。
「うーん、こう言う場合ってシャワーとかって浴びるべきなのかな?」
「病み上がりの身体にあまり流水は良くないかと。 リンゴと一緒にお湯をご用意致しますので、しばらくお待ちください。」
また待たされるのかと思った岬は、食べた後の眠気に襲われて、そのまま布団の中で眠りにつくのだった。
再び岬が目を覚ましたのは午後3時頃。 しかしお昼を食べたお陰か今朝のような寒気は既に無くなっていた。
「おはようございます。 お湯をご用意致していますので、こちらをお使いください。」
そう言って岬は名瀬からおしぼりをもらい、一度着ている服を脱いで身体を拭いていく。 余程寝汗が凄かったのか、布団のシーツはかなり濡れていた。
「シーツと寝巻きを取り替えますので、少しだけお立ちください。」
そう言って半裸に近い状態で岬は布団から出る。 寝巻きと言うことでズボンも脱いで渡したのだが、それだけで名瀬は立ち去らなかった。
「・・・え? もしかして下着も?」
「当然です。 寒いかもしれませんが、部屋を出なければ問題ありません。 すぐに替えは持ってきますので。」
なんの躊躇いもなく端的に言ってくる名瀬に岬はグッと押し留まったが、よくよく考えればここは自室。 下着くらい自分の衣装箪笥の中にあるのだから、すぐに穿いてしまえばいいと思い返した岬は、箪笥から別の下着を取り出して、すぐに今穿いている物と取り替えたのだった。
「それでは寝巻きはすぐにお持ち致しますので、毛布に包まれながらお待ちください。」
寒さを防ぐために岬はすぐに毛布にくるまる。 なんだか遊ばれたような気がする岬ではあったものの、それでも病み上がりなのには変わり無いので、そのまま待機することにしたのだった。
「授業は終わってるかな。 1日でも結構差が生まれたりするんだよね。」
校内での岬の成績は悪い方ではないものの、上位に行ったことは実は無い。 手を抜いているつもりは無いものの、勉強の仕方はやはりどこか違うらしい。
そんな風にぼんやりしていると名瀬が戻ってくるのが確認できた。
「お待たせ致しました。 こちらをお使いください。」
そうして渡された寝巻きに着替えた岬は、自分の勉強机の近くの椅子に座った。
「岬様。 まだ完治されていませんのでお勉強などはお控えください。」
「分かってる。 ずっと寝てたから体勢を整えたいだけ。」
そもそも今の時点でやる気がないので、勉強をしたところでまともに頭に入るわけもない。
「左様でしたか。 なにか温かいものをお持ちしましょう。 身体が芯から温まる生姜湯を作ってきます。」
「ありがとう。 あ、ハチミツも入れてね。」
「承知致しました。」
そうして再び名瀬が部屋から去っていく。 何度も心細いと思っても、ここを使っているのは岬1人。 文句は言えないのだ。
「額縁とかでも飾ってみる?」
殺風景な部屋にポツンと額縁があるのを想像する岬。 納められているのはみんなとの思い出の写真。 楽しかった日々を思い返せる物である。
「そんなものでかでかとはいらないか。」
そして想像の中で留めておく。 らしくないと思ったのだろう。
そうして部屋の扉が開けられるとそこには生姜湯の入ったコップをお盆に乗せている名瀬と、その隣にこの家にいないはずの人物が立っていた。
「・・・あれ? 一ノ瀬君?」
「お邪魔してます浅倉さん。 体調の方は戻ってるみたいだね。」
「岬様が心配だったようで、早めに下校をしてくれたようですよ。」
「まあ、調子が悪かったので、生徒会の仕事を早々にあげられたというか・・・」
なにか言い訳を取り繕おうとしている真面目の事はさておいて、とりあえず岬はすぐに生姜湯を手にとって火傷しないように冷ましながら少しずつ口の中に含んでいく。 生姜の舌を刺激する感覚をハチミツの甘さで和らげてくれている。
「元気そうならそれでもいいかな。 なにも用意しないまま来たから様子見ってことで。」
「え? 帰っちゃうの?」
「え? うーん。 特にいる理由もあんまり無いし、見ての通り学校帰りだし。」
「お寒い中来ていただいたので、生姜湯でも飲まれていきませんか? 少々多めに作りましたので。」
「ああいえ、そこまでして貰うわけには・・・」
拒否しようとした真面目を差し置いて名瀬はその場を立ち去ってしまった。 ここで帰れば折角用意して貰ったものを貰わずに帰ることになると察した真面目は、そのままの流れでいることを余儀無くされた。
「名瀬さんはああいう性格だからね。」
「そうですか。 それで今は改めて調子はどう?」
「今朝よりは大分良くなった。 今日暖かくして寝れば明日には治ってる。」
その言葉を聞いて真面目はホッとする。 そして名瀬が持ってきた生姜湯を手にしてそれを飲んでいく。 真面目も生姜湯の暖かさに「ほぅ」と息を洩らした。
「・・・兄妹が入れば、少しは変わったのかな?」
「なにか言った?」
「なんでもない。」
そして岬の様子も確認できた真面目は生姜湯を飲み干して岬の家を後にしたのだった。
今回は風邪を引いた岬の視点でお送りしました




